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歴史的に見て包装の目的は、「製品を安全に届け、その効果を長期間維持し、利便性を提供する」という、非常にシンプルなものでした。比較的新しい概念ではあるものの、サステナブルであることは当たり前となっており、ほぼすべての包装に取り入れられ、前提として期待される要素となっています。

この20年間、消費者に感動をもたらす「破壊的な」パッケージ・イノベーションは、包装に関する研究開発と商品化に向けた努力の推進力となってきました。しかし、破壊的なパッケージ・イノベーションには欠点があります。それは、消費者が従来のものとどう違うのか、そしてなにより、彼らにとってその違いがどんな意味を持つのかを直感的に理解できない場合、そのイノベーションが彼らの購買体験や利用シーンにとって単なる「妨げ」となってしまうことです。

反対に、何らかの課題に対する解決策として考えられた、ソリューションベースのパッケージ・イノベーションは、消費者を驚かせるだけでなく、その違いを視覚的、物理的、あるいは経済的な面から、その違いが彼らの買い物やユーザーエクスペリエンスにとって何を意味するのかを示すことで、感情的なつながりを生み出すものです。このような視点は、パッケージ・イノベーションを導く指針として、サステナビリティに次いで、瞬く間に競争市場での地位を確立しました。

毎年世界中で数多く開催されている包装関連のコンペティションは、原材料サプライヤー、加工業者、印刷業者、デザイナー、さらにはメーカーが提供する最先端のイノベーションや、追随型イノベーションを披露する場となっています。特定の包装形態(フレキシブル、板紙、ガラス、金属、チューブ、キャップとクロージャー、ラベルなど)を代表する業界団体がスポンサーを務めるコンペティションもあり、特定の包装分野の促進において重要な役割を果たしています。これらのコンペティションは、その分野やその分野で事業を展開するメーカーや加工業者の貴重な宣伝機会となっています。

例えば、世界包装機構(World Packaging Organization, WPO)が主催するWorldStarsといったコンペティションは、世界中のWPOの会員企業によるパッケージ・イノベーションを示すものです。WorldStarに名を連ねる受賞作品たちは、応募は会員のみに限定されているものの、世界中の優れたパッケージ・イノベーションの代表例を示しています。ここでも、WPO会員企業の最善の努力をプロモーションすることが、世界的なパッケージ・イノベーションの促進につながります。

同様に重要なのは、包装の1つの要素に特化したコンペティションです。その好例として、Sustainable Packaging Coalition(サステナブルなパッケージング連合)のイノベーター賞や、Packaging Europe(欧州パッケージング協会)のサステナビリティ賞が挙げられます。これらのコンペティションは、サステナビリティにおける商業化された技術と、まだ商業化されていない技術の両方の進歩を称え、紹介しています。このような技術特化型のコンペティションもまた、包装という大きな文脈の中で、その中のひとつの側面にのみ焦点を当てることで、パッケージ・イノベーションの継続的な発展において重要な役割を果たしています。

ダウのパッケージング・イノベーション・アワードの審査プロセスに迫る

ダウのパッケージング・イノベーション・アワード(PIA)のようなコンペティションは、独自のフォーマットを提供しています。グローバルなマテリアルサイエンス企業であるダウ社がスポンサーを務めるこの年次コンペティション(2025年から、世界的なパッケージ・イノベーションのペースを反映して、隔年開催に移行予定)は、世界最長の歴史を持つ「独立系」パッケージ・イノベーション・コンペティションです。2024年で、35周年を迎え、著者である私、デビッド・ルッテンバーガー(David Luttenberger)が審査委員長を務めるのは12年連続となります。

PIAの開催方式の鍵は、その独立性です。ダウが主催するものの、ダウの社員は、いかなるレベルにおいても審査には参加せず、受賞者の選定に影響力を持ちません。 応募者がダウのクライアントである必要はなく、パッケージ・イノベーションにダウ製品を使用する必要もありません。

審査委員長として、私は、マテリアルサイエンスの専門家から学者、工業デザイナーからブランドマネージャー、NGOから業界団体の幹部まで、包装に関するグローバルなサプライチェーンのあらゆる分野を代表する審査員団を編成するという任務に従事しています。世界のあらゆる地域、あらゆる製品分野、あらゆる素材やパッケージ形態、直販業者やeコマース小売業者を代表するこの多様な審査員団は、実際に一堂に会し、4日間にわたって各イノベーションの優れた点について、世界中のベストなイノベーションと比較しながら、活発な議論を交わします。

価値提案の手段としてのパッケージ

2024年は、18名の業界専門家から成る審査員団がバンコクのTrue Digital Parkに集まり、世界数十カ国から寄せられた、300点を超える食品、飲料、美容・化粧品、家庭用品、消費者向け製品、ヘルスケア/製薬、工業、eコマース向けパッケージなどの応募作品を評価しました。各作品は、技術的な進歩、サステナビリティ、ユーザーエクスペリエンスの向上という3つのイノベーションの柱に基づいて、分析、議論され、最終的に審査されました。

ここ数年、サステナビリティ関連のイノベーションを謳ったエントリーが急増していることは否定できません。最近では、イノベーションは漸進的なもの、つまり革命的というよりは進化的になってきており、リサイクル素材の割合の向上が見られ、単層構造のパッケージを製造する技術が進んだことから、異素材を混ぜて使用する頻度が減っています。

毎年新しい人材が加わりながらもベテラン審査員が中核を占めるダウPIA審査委員会は、ほぼすべての応募作品に、前提となるサステナビリティ関連のイノベーションがある程度取り入れられていることに加えて、「ソリューション」という考え方に根ざしたイノベーションへのシフトを目の当たりにしてきました。消費者の生活をより簡単に、安全に、ストレスを低減し、あるいは、破壊的なイノベーションではなく、ソリューションの価値を提案することで、消費者が納得して購買するだけの価値を付加することができるイノベーションが注目されています。

革新的なイノベーションが見られなかったということではありません。 もちろんそういったものも見受けられますが、審査員の間で最も白熱した議論と深堀りした二次調査が行われたのは、ソリューションと見なされるイノベーションについてでした。 これらは、消費者が目で見て体験できる、「非常に実用的な」イノベーションであり、生活をより便利に、より安全に、より良く変化させるという点で消費者にどのようなメリットを提供し、製品とパッケージがどう調和してその目的を果たすのかが注目されます。

今年注目を集めた製品の一つは、Macadaのマカダミアナッツの紙パッケージです。これはインクルーシブな視点を取り入れたデザインで、ユニバーサルデザインの原則を適用しています。視覚障がいのある人でも分かりやすいよう、箱の開封箇所に点字が付いているほか、高齢者でも簡単に開けることができるジッパー状のミシン目を採用しています。利便性を追求しているところも大きな特徴で、パッケージの前面が拡張し、ナッツの殻を捨てるための容器としても機能します。その一方で、マカダミアナッツは真空密封されており、製品の品質はしっかりと保持されています。さらに、パッケージには透明な窓があり、中の製品が見えるように工夫されています。


Alltristaも、注目すべき取り組みを行っています。飲料・プラスチック包装業界ではプラスチック削減の取り組みが進む中で、飲料キャップの小型化が進み、掴みにくく開けにくいものになっていました。Alltristaは、この「削減」への取り組みを再考し、プラスチック量を増やすことなく、より使いやすい形状のキャップを開発しました。これにより、プラスチック使用量を削減と両立して、飲料ボトルが開けづらいという課題に対して、視覚的、触覚的、物理的な解決策をもたらしました。

3つ目に際立っていたのは、Aptar Chinaの Star Drop ボトルです。これは、超流動性フォーミュラ用の最新式スクイーズボトルで、先端が優美なしずくのような形状をしており、製品に独特な視覚的魅力を与えています。人間工学に基づいたパッケージは、特徴的な小型のチューブと滑らかなラインを採用しており、片手で持ちやすく、簡単に絞ることができます。ノズルは特許取得済みのリサイクル可能なソフトシリコンバルブ技術で設計されており、外からの異物混入や、液体が過剰に出ることを防ぎ、ユーザーが液体の出てくる量をコントロールできるようにしています。ボトルから手を離すと、中の液体の流れは自動的に遮断され、液体が吸い込まれて飛び散りやノズルへの残留を防ぎます。これにより、衛生状態が保たれ、中身が乾燥して固まるのを防ぐことができます。

私は包装業界での34年間のキャリアの中で、3つの大陸に渡って多くのパッケージコンペティションに参加する機会に恵まれました。 ダウPIAの審査委員長を12年連続で務めたことは、私のキャリアのハイライトと言えるでしょう。 これにより、包装業界の何十人ものオピニオンリーダーと関わるだけでなく、審査員同士の会話やインサイト、イノベーションをコンバーター、ブランドオーナー、小売業者、代理店といったミンテルのクライアントの皆様と世界中で共有することができています。その結果、ミンテルのパッケージングアナリストとクライアントの関係がより深まり、新しい製品やそのパッケージのアイディアや商品化につながり、消費者の求めていることやその理由をより深く理解し、消費者のパッケージに対する要望、ニーズ、願望により適切に応えることにつながっています。

さらに詳しくお知りになりたい方は、こちらからお問合せください。

デビッド・ルッテンバーガー
デビッド・ルッテンバーガー

グローバル・パッケージング担当ディレクター

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