ヨーロッパ、特にイギリスの国内観光市場は、ここ数年、大きな変動を経験してきました。新型コロナウィルス感染症によるパンデミックの影響により、海外旅行が制限され、安全面の懸念もあったため、国内旅行(ステイケーション)が大幅に増加しました。その中でも、イギリスのキャンプ・キャラバン市場は最も恩恵を受けた業界のひとつです。パンデミックの開始から2023年11月までに、イギリスの成人の5人に1人以上がキャンプまたはキャラバン旅行(キャンピングカーでの旅行)を経験し、そのうち3分の1以上はそれが初めてのキャンプ体験でした。アウトドアでソーシャルディスタンスを保てるキャンプは、不安定な時期に消費者にとって魅力的な選択肢となったのです。
しかし、2022年に海外旅行の制限が解除されたことで、海外旅行業界は回復を始め、その後の数年間で大きく持ち直しました。当然ながら、この影響を受けたキャンプ業界は、一時的に需要が減少しました。しかし、海外旅行業界がパンデミックによる大打撃から立ち直ろうとしていた矢先に、生活費危機が発生。消費者の関心は健康面から経済的な懸念へと移行しましたが、結果として国内旅行の需要が再び高まるという影響は変わりません。生活費の上昇により、ヨーロッパ全体で旅行者の価格意識が高まっています。ミンテルの市場調査では、イギリス旅行者の約半数が2024年のメインの休暇費用を過去数年よりも抑える予定であることが分かっています。この傾向はヨーロッパ全域で見られ、ドイツでは経済的に厳しい状況にある消費者の5人に1人未満しか休暇の優先度を高く設定していません。このような状況の中、予算に優しいキャンプ旅行は、経済的に制約のある家庭にとって魅力的な選択肢となり得るでしょう。
キャンプ業界の新たなトレンド
ちょっとした贅沢を
キャンプ旅行に興味がないイギリスの消費者の半数以上は、「寝心地の悪さ」や「天候への不安」を主な障壁として挙げています。イギリスの夏の天候を変えることはできませんが、キャンプ中の睡眠環境の改善は可能です。近年、休暇中の睡眠の質は旅行者にとってますます重要な要素となっています。ミンテルの調査によると、ホテル宿泊者の3分の1以上が、睡眠の質を向上させる部屋を重視していることが分かっています。このニーズに応える形で、イギリスのホテルでは睡眠向上機能を導入する動きが広がっています。この「快適な睡眠を確保したい」というニーズこそが、「グランピング(glamorous + camping)」人気の背景にあるかもしれません。過去10年間でイギリスのグランピング業界は大きく成長し、今後も「豪華な休暇体験を求める消費者」の需要が高まることが予想されます。
同様のトレンドはドイツでも見られ、小さな小屋や暖房付きのバンなど、豪華で天候に左右されない宿泊施設が求められています。キャンプ業界で特に注目すべきイノベーションを起こしているのは、ドイツの「Bubble Tent」というブランドで、快適なグランピングドームやプライベートバスルームを提供し、キャンプのラグジュアリー体験を革新しています。このような設備は新しい旅行者を呼び込むだけでなく、キャンプシーズンを延長することにもつながります。実際に、ドイツでは冬のキャンプ需要が高まっており、スキーやアイススケートと組み合わせたオフシーズンキャンプへの関心が増しています。
イギリスのキャンプ場も、このようなドイツのキャンプ業界やBubble Tentのような革新的な取り組みを参考にし、従来のキャンプの持っていた不快さを原因に、キャンプを選択してこなかった人々を引き付ける努力をしています。グランピングほどの豪華さを求めないキャンパーでも、プライベートバスルームやレストラン、プール付きのキャンプ場には関心を示しています。こうした設備を持ち合わせている企業は、より自然豊かな環境での贅沢という付加価値を前面に打ち出すことで、より幅広い消費者層を引き付けることができるでしょう。
自然とのふれあい
一部の消費者にとって快適性は課題ですが、キャンプとウェルネス業界の結びつきは強まっています。イギリスでは、国内ウェルネス旅行を計画している消費者の約半数が「田舎や自然の中での滞在」に関心を持っています。さらに、イギリス人にとってストレス解消の方法として最も一般的なのが「屋外で過ごすこと」であるため、キャンプは精神的・感情的な健康を向上させる旅行の選択肢として最適です。
イギリスの旅行ブランドは、すでに自然と触れ合うことの精神的・肉体的な健康効果を強調しています。たとえば、Center Parcsは「フォレストスパ」という施設を新設し、森林浴などの自然体験を通じて心身の健康を促進するプログラムを提供しています。ヨーロッパ各地のキャンプブランドも、小規模ながらウェルネスにインスパイアされた機能を導入しています。ドイツのBubble Tentの感情的・精神的なウェルビーイングを促進する「屋外ジャグジー」など、シンプルでリラックスできる屋外エリアを提供しています。イングランドノーフォーク州にある700エーカーの自然保護区ペンストホープでは、グランピングとキャンプを楽しめるポップアップ・サイトをオープンし、自然とのつながりをより身近なものにしています。
Center Parcs Forest Spaは、キャンプ業界における新しいウェルネス機能のヒントになる。
画像出典:Center Parcs
サステナブルなキャンプ業界へ
ミンテルの「サステナビリティの世界的展望: 消費者調査を基にした グローバルレポート 2024-25」でも指摘されているように、消費者の環境意識は高まりつつあり、カーボンフットプリント(CFP)を気にする人も増えています。実際、旅行の予約前に自分の行動が環境に及ぼす影響を確認したいと考える旅行者は、約半数にのぼります。キャンプ旅行は他の旅行形態と比べて環境負荷が低いと考えられており、イギリスの消費者の約4分の3が「キャンプはエコフレンドリーな旅行」と認識しています。つまりキャンプ場は、環境意識の高い消費者(エコ・コンシャスな消費者)にとって、すでに魅力的な選択肢となっているため、キャンプ場は、従来のエコ施策を超えた革新的な取り組みを行うことで、さらに差別化を図ることができます。例えば、環境負荷の少ないアクティビティやボランティア機会を提供すること、増加傾向にあるEV(電気自動車)所有者のために、充電インフラを整備することなどが挙げられます。しかし、環境配慮への意識が消費者の間で高まる中で、「グリーンウォッシング(環境配慮を装った誇大広告)」に対する消費者の懸念も高まっています。旅行者の3分の2が「企業のサステナビリティ施策は誇張されている」と感じています。このことは、ブランドにとって、サステナビリティをめぐる透明性と効果的なコミュニケーションの重要性を浮き彫りにしています。キャンプ産業は、サステナブルで環境に優しいカテゴリーとして常に認識されており、そのグリーンなイメージをさらに高める大きなチャンスがあります。
キャンプ業界の未来は明るい
キャンプ産業が成長するための最良のルートは、この産業がもともと持っている「環境にやさしいグリーンなイメージ」を活用することでしょう。この業界は、経済的、社会的、環境的な影響に対処し、サステナビリティに対する総合的なアプローチを採用するのに適した立場にあります。自然と触れ合い、精神的な健康状態を改善し、日常のストレスや不安から解放される機会を提供することで、地球の健康だけでなく、休暇を過ごす人々の健康も育むことができるのです。全体として、キャンプ産業の見通しは、たとえ天候に恵まれないことが多くても、晴れやかであると思われます。
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