この記事は9分で読めます

スマートホーム・テクノロジーが普及し、世界中の家庭を変えつつ、グローバル市場を牽引しています。その勢いはとどまるところを知らず、中国などの特定の市場では、都市化の進展に伴い住宅のリノベーションやリフォームへの需要が高まっており、2016年の2,000億元から2022年には5,000億元へと、急激に市場規模を拡大しています。

一方、カナダでは4世帯に3世帯が何らかのスマート・デバイスを所有しているにもかかわらず、経済の不確実性やインフレの影響で市場の成長は鈍化しています。しかし、今後数年間で接続性や互換性といった機能の向上に伴い、状況は変化すると予測されています。イギリス市場では2023年時点で消費者の83%が何らかのスマートホーム・デバイスを所有しており、インフレ率の低下と購買力の向上に伴い、今後も成長が見込まれています。

スマートホーム・テクノロジーとは?

スマートホーム・テクノロジーとは、家庭内で連携された電子機器を指し、アプリやウェブサイトを通じて遠隔操作したり、ユーザーの行動に応じて自動調整することができます。

市場の成長とともに、「スマート」とみなされる基準も急速に進化しています。現在では、インターネットに接続された複数のデバイスがシームレスに連携することが求められています。

消費者はスマートホーム・テクノロジーに何を求めているのか?

スマートホーム・テクノロジーは多様な形で提供されており、幅広い消費者の注目を集めていますが、その人気の最大の理由は利便性にあります。

パンデミックはスマートホーム普及の一因として、間違いなく大きな役割を果たしました。長期間の在宅生活を経験したことで、多くの消費者が「家」の価値を再認識しました。アメリカでは消費者の5人に3人が、快適な住環境を確保することを重視しておりイギリスでは10人に8人の消費者が「家は幸福であるために必要な中心要素だ」と考えています。

カナダでは、スマートホーム・テクノロジーのこれまでの主なユーザー層は18〜44歳の高所得男性でしたが、状況は変化しており、イノベーションによって市場は広がりを見せています。ミンテルが実施したアメリカのスマートホームに関するレポートの購買決定分析では、母親が「安全性と快適性を」重視する一方、父親は「最新のテクノロジーを試すこと」に関心を持つ傾向があることが示されました。また、新しいテクノロジーに素早く適応する子どもたち、特にティーンエイジャーが、こうした購買決定に大きな影響を与えています。また、ミンテルのイギリスの親へのマーケティングに関する消費者レポートによると、子どもは、ソーシャルメディアを通して家族の購買行動に変化をもたらすことが多く、18歳未満の子どもを持つ父親のうち67%が「子どもに勧められた新製品を試したことがある」と回答しています。

スマートホーム・テクノロジー導入への障壁

ミンテルジャパンレポート「スマートホームトレンド – 日本 – 2024年」より

スマートホーム市場におけるイノベーション

ミンテルのアナリストは、スマートホームの共通規格であるMatterが今後のスマートホーム市場において真に重要な役割を果たすと予測しています。Matterは異なるメーカーのデバイス間の互換性を確保するオープンソース標準であり、複雑性という障壁を取り除く上で非常に役立ちます。カナダでは61%の消費者が「異なるメーカーの製品が相互に通信できるのであれば、複数のメーカーを試したい」と回答していますミンテルがイギリスで実施した「Connected Living and Home Ecosystems Report」によると、アップル、グーグル、アマゾン、サムスンを含む170社以上の企業がMatterと提携しています。ミンテルは、競争の激化する市場で優位に立つためには、企業がこの基準を採用し、消費者に周知することが競争力の強化につながると強調しています。

AIの進化もスマートホーム市場を牽引しており、多くの可能性とチャンスへの道を開き、さらなるイノベーションへと導いています。2023年から2025年のスマートホーム市場におけるAI実装への期待について概説したミンテルの直近のレポートでは、アメリカの消費者の4分の1が、自動学習機能を備えたAIデバイスを求めており、アマゾンやアップルは生成AIを活用した、よりスマートで自然なやり取りが可能な音声アシスタントの開発を進めています。こうしたアシスタントによるユーザーエクスペリエンスの向上を目指し、感情的知性を模倣できる機能の開発にも投資が行われています。AIに関する構想の中には、実現まで何年もかかるものもありますが、将来のトレンドやニーズを予測するためには、こうした構想を今から認識しておくことが重要です。

パンデミック以降、健康管理への関心が高まり、高齢者向けスマートホームの需要が拡大しています。自動アラート機能やスケジュール管理機能など、高齢者の生活を支援するソリューションが注目されています。

ベビーブーマー世代などの高齢の消費者は、スマートホーム市場に懐疑的な場合もありますが、その状況はすぐに変わる可能性があります。パンデミックを経て、健康状態をモニタリングすることへの関心が高まっていますが、スマートホームは自立して生活する高齢者や身体の弱い人々をサポートする実用的なソリューションを提供します。ミンテルの「US In-home Lifestyles Report」では、メンテナンスのタイミングの自動通知やタイマー予約などの機能が、高齢者層向けのスマートホーム市場の将来を形作る可能性があると論じています。企業は、高齢者の生活を便利にする、自動化という観点に着目し、こうした特定のニーズに応えるためのイノベーションに注力することでチャンスをつかむことができるでしょう。

スマートホーム市場は、特に侵入者や不審行動といった、安全上の懸念に対処することにも取り組んでいます。脅威を検知し、防止するスマートセンサーやアラームといったイノベーションが登場し、ホームセキュリティを強化する効果的なソリューションを提供しています。ミンテルトレンドでは、スマートホームセキュリティのブランドであるRingが、スマートアラームを通じてスマートドアベルのセキュリティを強化していることを強調しています。これらのアラームは、センサーによる動作検知がない場合でも、トリガーされると自動的にドアベルのカメラを起動します。高度な安全機能による安心感に加え、スマートセキュリティシステムが住宅保険料の引き下げにつながる可能性があることから、スマートホーム・テクノロジーへの投資は消費者にとって魅力的な選択肢となっています。

さらに、生体認証セキュリティ機能は、スマートホームテクノロジーにおける重要なイノベーションのひとつとなっており、個人情報の保護やハッキングの防止といった消費者ニーズに応えています。Locklyは、顔認証と生体認証指紋スキャナーを利用したスマートロックを導入し、最先端技術でドアを安全にロックできるようにしました。

スマートホームが世界を救う可能性

スマートホーム・テクノロジーは、スマート室温計やスマート水道メーターなどのデバイスを通じてエネルギー効率を高めることで、サステナビリティ向上に貢献する可能性を秘めています。これは、環境意識の高い消費者を惹きつける可能性があり、実際、ドイツでは5人に2人以上の消費者が、スマートホームは家庭による環境負荷を削減につながり、サステナビリティ目標達成に役立つと考えています。さらに、この進歩は、特にイギリスのようにエネルギー危機に直面している地域において、エネルギーとコスト削減の目標達成にも貢献します。エネルギー価格の上昇に伴い、消費者はエネルギー管理機能を備えたスマートホーム・デバイスへの関心を高めています。ミンテルの「UK Connected Living and Device Ecosystems Report」によると、消費者の86%が光熱費の節約に積極的に取り組んでいます。これらの消費者の優先事項は、イギリスをターゲットとする企業にとって、エネルギー管理を促進し、スマートホームデバイスが副次的にコスト削減に役立つことを強調する機会となります。このアプローチでは、消費者にエネルギー使用量の可視性を高めることで、スマートホーム・テクノロジーの高額な導入費用が受け入れられやすくなる可能性があります。

ブランドが取るべき戦略

世界が進化するにつれて、消費者の好みも変化し、スマートホーム市場に新たなトレンドと機会が生まれています。消費者調査によると、スマートホーム・デバイスの導入において、セキュリティが最も魅力的な要素であり、価格が最大の障壁となっています。スマートエネルギーモニターなどのサステナビリティ機能を導入することで、消費者が抱えるコストと環境保護への懸念に対処することができます。Matterという新規格やスマートホームへのAI導入などの変化を理解することは、企業が適応し、革新し、そして新市場の可能性を切り開くための絶好の機会となります。

スマートホームテクノロジー市場のフロントランナーとしての地位を確保するために、最新のテクノロジー市場調査やエキスパートによる洞察を常に把握することが大切です。ミンテルのニュースレターSpotlightをご購読いただくと、無料コンテンツやインサイトを受信ボックスに直接お届けいたします。

Spotlightを購読

ミンテルとともに、データに基づいた意思決定を始めましょう。

関連記事
2025年10月3日
デジタル・アイデンティティから共有される人間性まで―大阪・関西万博で得られた主要な気づきと考察を探る 世界各国の最新技術や文化、未来へのビジョンを発信する 2025 年大阪・関西万博のテ…
2025年10月1日
本記事では、ミンテルのクアラルンプールオフィスに在籍するトレンドアナリストのジョーイが、大阪・関西万博を視察し、大阪ヘルスケアパビリオンを取材した様子をご紹介します。 大阪ヘルスケ…
2025年9月28日
消費者調査
ダウンロード
2025年以降の消費者市場とイノベーション戦略を形成する3つの消費者行動トレンドを理解する。…

ミンテルの最新レポート・カタログをダウンロード