大手テクノロジー企業は、エージェンティックAIとAIショッピングが購買体験を大きく変えると見込んでいます。しかし消費者の間には、AIによる検索支援と自動購入の間に、依然として大きな信頼の差があります。

エージェンティックコマースは、AIエージェントが商品検索・比較・購入を支援する次世代Eコマースとして、小売業界で注目されています。大手AI企業の投資や、LinkedIn上での多くの支持を背景に、AI支援型検索の普及を購買プロセス全体の掌握につなげようとする動きが広がっています。

テクノロジーは急速に進化していますが、買い物客がそれを受け入れる準備ができているのかという問いは、十分に議論されてきませんでした。実際には、消費者の受容度は技術の進歩に追いついていないことが示されています。AI関連技術への投資コストが上昇し続ける中で、ブランドがこの点を理解することは極めて重要です。

自動購入を受け入れる意欲は地域によって大きく異なります。しかし共通して見られるのは、消費者はAIを使って商品を検索し、比較し、意思決定を簡素化することには前向きである一方、AIに自分の代わりに行動させることには慎重であるという点です。

ここに、エージェンティックコマースが「できること」と、消費者が「許容すること」の間に重要な隔たりが生まれます。その結果、将来の市場チャネルを形づくるのは技術的な能力そのものではなく、信頼になると考えられます。

エージェンティック機能を効果的に活用するうえで重要なのは、テクノロジーがどれほど高度かではありません。AIがもたらす利便性と、信頼できる専門性を組み合わせ、この信頼のギャップをどのように埋めるかです。

つまり、ブランドや小売企業には、このテクノロジーを基盤とした新しい体験づくりを主導する明確な機会があります。投資を適切な領域に向け、変化を自社の成長機会として取り込むことが求められます。

AI検索が購買行動とオンラインショッピングの始まり方をえる

AIチャットツールは、検索を取り巻く環境を急速に変化させてきました。その結果、商品の発見から購入までの距離は、これまで以上に短くなりつつあります。

こうした変化の大きさは、各地域でAIが日常生活にどれほど浸透しているかによって異なります。現時点では、米国と中国が先行しています。

AIツールが、医療やメンタルヘルスのサポートといった、より複雑な助言を求める場面でも多くの消費者に利用されるようになったスピードは注目に値します。

理論上は、消費者がAIによるこうした助言を信頼しているのであれば、自分の代わりに購入を行うエージェントも信頼するはずだと考えられます。

しかし、提示された情報を他の情報源と照らし合わせ、比較し、最終的には採用しないこともできる状態と、AIに自分の代わりに購入する権限を与えることの間には、大きな違いがあります。

ブランドや小売企業にとって重要なのは、検索で見られる行動が、多くのテクノロジー企業が主張するほど、エージェンティックコマースにそのまま転用できるわけではないと理解することです。

中国では、AIツールはソーシャルメディアや従来の検索エンジンを上回る助言・情報源として利用されるようになっています。中国の成人の56%が、健康・医療に関する情報を得るためにAIツールを利用しています。出典:China Consumers and AI 2026

AIによる自動購入の最大の課題消費者の信頼

エージェントが商品やサービスを提示するだけでなく、自動的に購入まで行う段階へ進むには、大きな飛躍が必要です。

多くの論者の見方とは異なり、買い物という行為そのものを楽しむ人は少なくありません。この習慣や楽しみを取り除くという考えは、世界中の多くの消費者にとって受け入れにくいものです。

私たちは皆、壮大なAI帝国づくりに忙しく、店舗へ足を運ぶ楽しみを手放したいと考えているわけではありません。

もちろん、一部の買い物タスクについては、AIに任せたいと考える消費者もいます。そのため、エージェンティックコマースの機会は、カテゴリーや購買目的によって異なります。

消費者は、美容やファッションのように個人的・感情的な要素が強いカテゴリーよりも、日用品など、定期的に購入する機能的な商品をエージェントが自動購入することに対して、より受け入れやすい傾向があります。

テクノロジープラットフォームが購買プロセスのより多くを担うためには、エージェントがオンライン決済を自動的に処理する際の安全性という、重要な課題を乗り越える必要があります。

購入の自動化に対する許容度が比較的高い市場であるにもかかわらず、米国の消費者の3分の2以上(リンクはミンテルのお客様限定アクセス)は、エージェントがオンライン購入を行う際のセキュリティについて懸念しています。

この懸念は年齢、所得、地域を問わず見られます。適切に対処されなければ、真の第三者型エージェンティックコマースが到達できる市場は限定的なものにとどまるでしょう。たとえ買い物が好きではない人であっても、自分の銀行口座の安全性は重視するはずです。

AIショッピング普及の鍵は利便性と納得感

エージェンティックコマースの成否を分ける要素は、利便性です。既存の購買行動よりも速く、簡単で、正確でなければ、小売市場で広く普及することはなく、ニッチな存在にとどまるでしょう。

実際に、買い物客がエージェント、つまりAIパーソナルショッパーに求める主な機能は、いずれも利便性に基づくものです。

AI検索の体験は、AIツールが最安値を見つけたり、おすすめをパーソナライズしたりすることに長けていると消費者に示してきました。チェックアウトまで含めた購買プロセス全体が従来の方法より便利だと納得させることができれば、エージェントが市場を変える基盤が生まれます。

ドイツでは、BPC(ビューティ&パーソナルケア)製品の買い物客は、購買体験がより便利になる場合、消費者の購買プロセスの一部を効率化するためにAIパーソナルショッパーを利用することに前向きです。例えば、45%が最安値を見つけるためにAIショッパーを利用すると回答しています。

しかし、初期のエージェンティックコマースは、まさにこの点でつまずいてきました。

2025年に大きな関心を集めて発表されたCheckout in ChatGPTは、小売企業のサイトが提供する利便性に及ばず、Walmartなどはコンバージョンの低さを理由にCheckoutから距離を置く判断をしました。一方でAmazonは、同社プラットフォーム内のAIアシスタントであるRufusがコンバージョンを2.5倍以上高めていると報告しています。

エージェンティックコマース時代も主導権は小売企業とブランドにある

AIプラットフォームは購買プロセスのより多くをコントロールしたいと考えているかもしれません。しかし、AIインフラに投じている巨額の資本の一部を倉庫、物流、ブランドパートナーシップに振り向けるつもりがない限り、小売企業の存在は不可欠です。

これまでの状況を見る限り、小売企業やD2Cブランドが、なぜ購買体験の主導権を手放す必要があるのでしょうか。

現実には、中期的に市場で主導権を握るのはブランドや小売企業であり、エージェンティック技術を活用して新たな機会を生み出す可能性が最も高いのも、これらのプレイヤーです。

なぜなら、エージェンティックコマースの基盤となる専門性、利便性、信頼を、すでに備えているからです。

Ultaのような小売企業や、L’Oréalのようなブランドは、すでにAIを活用して、より高度な体験を創出しています。エージェンティック技術の力は、こうした提供価値をより緊密につなぎ合わせ、真に新しい購買体験を実現する点にあります。

Tescoが現在社内で試験している新しい「AIアシスタント」は、同社のレシピサイトとオンライン食品購入を組み合わせ、目的起点で買い物ができる新たな体験を提供するものです。短期的には、このような新しい発想が広がっていくと考えられます。

短期的に見込まれる真の変化は、第三者のエージェントが私たちの代わりに買い物をすることではありません。小売市場で既に強みを持つ企業が、エージェンティック技術を活用して新しい買い物の方法を生み出し、サービス、パーソナライゼーション、購買の利便性を高めることです。これにより、買い物客を自社プラットフォーム内にとどめ、オンライン購買に対する現代の期待に応えていくことができます。

エージェンティックコマースの成功条件は、ブランドが信頼を築けるかにある

エージェンティック技術による変化は、業界全体を一気に塗り替える革命というよりも、消費者の期待とオンライン購買プロセスが徐々に進化していくものになるでしょう。

その進化のスピードは、カテゴリーや地域によって異なります。そして何より、エージェンティックコマースが主要な摩擦点をどれだけ早く解消し、現在のEコマース体験をどのように向上できるかを示せるかに左右されます。

  • 信頼は、依然として決定的な障壁です。
    消費者はAIによる助言を受け入れる意向を持っていますが、特に購入が個人的、感情的、またはリスクの高いカテゴリーでは、エージェントに取引の主導権を委ねることに慎重な姿勢を示しています。
  • 利便性は、最終的な証明ポイントです。
    エージェンティックコマースが主流として受け入れられるには、既存の購買体験を上回る形で、時間を節約し、手間を減らし、より良い結果をもたらすことを明確に示す必要があります。

AIを活用した完全なチェックアウトに関する初期の試みを見ると、ブランドや小売企業は、信頼と利便性の両面で有利な出発点に立っていることが分かります。小売企業は物流とノウハウを持ち、既存の顧客関係、専門性、消費者からの信頼を活かして、エージェンティック機能を信頼でき、有用で、安全に感じられる形で取り入れることができます。

次のイノベーション段階では、小売企業やブランドが自社のエコシステムの中にエージェンティック機能を組み込み、よりパーソナライズされ、目的に沿った、摩擦の少ない購買体験を創出していくことが中心になるでしょう。

大胆にオンライン運営の在り方を見直し、エージェンティックAIの破壊的な可能性を活用しようとするブランドは、関心を持ちながらも納得する理由を求めている消費者層に出会うことになるでしょう。

その体験が利便性を高め、追加的なサービス価値を提供できるのであれば、消費者との接点を強化し、投資に踏み切るブランドをオンライン小売の新たな波の先頭に押し上げるでしょう。

ミンテルのお客様は、本記事の基になっているAgentic Commerce insight reportにアクセスし、より詳細な分析、カテゴリー別データ、戦略的提言をご覧いただけます。

消費者行動、AIショッピング、エージェンティックコマースなど、次世代の購買体験を再定義するトレンドや注目すべきイノベーションに関するインサイトをいち早く知りたい方は、ミンテルのソートリーダーによる独自の視点をお届けする無料コンテンツ「Spotlight」にご登録ください。

About the Author

ニック・キャロル

ニック・キャロル

ミンテルの小売業界全般における思想的リーダー。消費者動向と市場力学に関する深い専門知識を融合させ、主要クライアントに対し業界の今後の動向について助言を提供。

Related Insights

2026年7月24日
「Mintel Most Innovative(以下、MMI)」は、世界各国で発売された新商品の中から、消費者ニーズの変化や市場の未来を象徴する革新的な事例を選出するアワードです。MMI 2026の美容・化粧品部…
2026年7月8日
世界のスキンケア市場は1000億米ドルを超え、成長をけん引する要因にも変化が見られます。 本記事では、スキンケアカテゴリーを大きく変えつつある3つの潮流と、それがブランドにもたらす意味を…
2026年6月9日
ソーシャルメディア発の「ガールディナー」スナックプレートやフリーズドライキャンディ、ドバイチョコレートといったトレンドは、マルチセンサリー(五感)に訴えるスナック・菓子体験を主流へ…
2026年5月21日
中東で起きた最新の紛争は、もともと不安定だった世界情勢をさらに大きく緊迫させる出来事となっています。人道的な懸念が最優先であることは言うまでもありませんが、旅行業界への波及効果も広…