中東で起きた最新の紛争は、もともと不安定だった世界情勢をさらに大きく緊迫させる出来事となっています。人道的な懸念が最優先であることは言うまでもありませんが、旅行業界への波及効果も広範囲に及んでいます。
この紛争の直接的な影響は、フライトの欠航や経路変更、コスト上昇といった形ですでに表れています。一方で、特に先行きが不透明な時期に、消費者がどのように旅行を計画し、意思決定するかにも、より深い変化が起きています。
こうした変化は、需要が失われていることを示すものではなく、需要の向かう先が変わっていることを示しています。旅行者は行き先を見直すだけでなく、安全性、なじみやすさ、柔軟性、そして信頼性をこれまで以上に重視するようになっています。
中東に限らず世界各地で不安定な情勢が旅行需要を左右するなか、信頼と安全を重視する方向へ戦略を見直すブランドには、新たな機会が生まれる可能性があります。
本分析は、ミンテルと受賞歴のあるフィンテックアプリSnoopの提携によりお届けしています。リアルタイムで1,000億ポンド超の消費者支出を追跡するSnoopのSpendMapperプラットフォームと、ミンテルの業界知見を組み合わせることで、不確実性のなかで支出パターンや消費者の旅行行動がどのように変化しているのかについて、タイムリーな視点を提供します。
中東紛争は、消費者の旅行判断をどう変えているのか
旅行の意思決定では、安全性と個人の価値観がより重視されています
行動面で最も明確な変化の一つは、旅行者が安全性や政治的価値観という観点から渡航先を評価する傾向を強めていることです。現在ではカナダ人の約10人中9人が、旅行計画においてコストより安全性を上位に置いています。
この行動傾向は英国でも見られます。湾岸諸国は比較的安全な地域という評価を築きつつありましたが、その評価は現在大きく損なわれています。紛争開始以降、懸念の高まりによって、特に中東向けを中心に、英国の旅行会社では予約の減少とキャンセルの増加が起きています。Snoop SpendMapperのデータによると、2026年3月の最初の2週間における英国消費者の航空会社への支出は、前年同期比で7%減少しました。この影響はエミレーツ航空、エティハド航空、カタール航空などの湾岸系航空会社でより顕著で、2025年には純増だった支出が2026年には純減へと大きく転じており、払い戻し、キャンセル増加、予約活動の減少を反映しています。
こうした不安は中東にとどまらず、トルコ、ギリシャ、キプロス、エジプトといった近隣諸国への予約にも、すでに影響が出ている兆しがあります。
政治的な背景も重要です。英国人の半数超(リンクはミンテルのお客様限定アクセス)と、ドイツ人の約3分の2は、ドナルド・トランプ氏の当選によって米国訪問の魅力が下がったと答えており、その結果、旅行者はカナダ、メキシコ、カリブ海地域などの代替先を検討するようになっています。つまり、中東紛争が旅行意欲に与える影響は世界規模であり、地域を大きく超えて需要や意思決定を形づくっています。
経済の先行きが見えにくいなか、消費者はますます「価値」を重視
この紛争は、すでに手頃さへの圧力が高まっていた市場のなかで起きています。
航路の長期化、供給能力の縮小、運営費の上昇によって、旅行価格は押し上げられています。インフレや生活費の上昇もこうした課題を強めており、消費者はより慎重に選び、より価値を重視するようになっています。
米国では、燃料費のヘッジ(価格変動対策)が限定的なため、原油価格が上昇すると航空運賃にもすぐに反映され、海外旅行のコスト負担が急速に高まります。これにより、これまでの国内旅行志向がいっそう強まる可能性があります。紛争前の2025年12月時点で、米国人の52%が国内旅行を計画していた一方、海外旅行を予定していたのは29%にとどまりました。今後、長距離旅行の費用がさらに上がれば、車で行ける旅行(ロードトリップ)はますます魅力的に映ると考えられます。特に価格を重視する消費者にとってはその傾向が強く、ロードトリップをする人の6割以上が、他の旅行タイプよりも好んでいることが分かっています。
欧州では、旅行費用の上昇はすでに一般的に認識されています。ミンテルによると、英国の平均的な旅行費用は2020年の535ポンドから、2025年には791ポンドへと大きく上昇しています。
とはいえ、旅行そのものの優先度が下がっているわけではありません。実際、2026年1月時点では、支出を増やしたい項目として「旅行」が英国消費者の中で最も高い項目となっています(リンクはミンテルのお客様限定アクセス)。これは、旅行回数を減らす一方で、より価値の高い体験にお金をかける傾向が強まっているためです。こうした「量より質」を重視する考え方は、今後価格が上昇するほどさらに強まると見られます。
同様の傾向は米国でも見られ、消費者の約3分の1がメインとなる休暇に対して同程度、またはそれ以上の支出をする意向を示しています。旅行回数を増やすのではなく、質を重視し、自宅に近い場所でワンランク上の宿泊体験を選ぶ動きが見られます。
地政学的な緊張や経済的不確実性が高まる中、消費者は「できるだけ安く」という考え方から、「安心感や満足度の高い体験」に重きを置くようになっており、価値の捉え方そのものが変化しています。
紛争下で高まる、安心感・柔軟性・新たな旅行先の重要性
消費者はブランドに、これまで以上に安心感と道しるべを求めています
先行きが見通しにくい時期には、旅行者が助言や保護を求める傾向が以前から見られましたが、今回もその動きがはっきり表れています。地政学的リスクが高まるなか、複雑さを引き受け、金銭面のリスクを抑えてくれる旅行代理店やパッケージ旅行を選ぶ兆しが、すでに消費者の間で見え始めています。
現在の紛争以前から、米国の消費者の半数超が、政府の介入によって旅行がより複雑になったと感じていました。旅行計画はすぐに負担の大きいものになり得るため、多くの旅行者はいま、調査や予約の手間とストレスを減らすために、その過程を簡素化してくれるサポートを求めています。
Snoop SpendMapperのデータでも、こうした動きはすでに確認されています。英国の旅行代理店の売上は、2026年3月の最初の2週間で前年同期比5%増となりました。特にTUI(+11%)、Thomas Cook(+38%)、Travel Counsellors(+57%)が大きく伸びており、旅行における「金銭的な保護」や「専門家による安心感」へのニーズが再び高まっていることがうかがえます。

予算と安全性を見極めるなかで、予約の後ろ倒しが新常態に
慎重姿勢の強まりと消費者信頼感の低下により、予約時期も後ろへずれています。地政学的な展開や将来の費用に確信が持てないため、多くの海外旅行者はできるだけ最後の瞬間まで予約を確定させない傾向にあります。2025年12月時点で、2026年の主な休暇を予約済みだった英国の旅行者は17%にすぎませんでした(リンクはミンテルのお客様限定アクセス)。これは、「様子を見てから判断する」という姿勢が非常に強いことを裏づけています。
いま、ウェルネス旅行への注目が高まっている
世界のニュースがますます緊張感を増すなかで、旅行が果たす感情面での役割はより重要になっています。休暇は、心身の回復の手段として捉えられることが増えています。紛争以前から、米国の旅行者の3分の1が、以前よりも「旅行を現実逃避の手段として使うこと」を重視していると答えており、英国の旅行者の半数超がデジタルデトックスを含む休暇に関心を示しています。こうした欲求はいま、さらに加速しています。消費者は、よりゆったりとした旅、自然を基盤とした滞在、そして常時接続やストレスから距離を取れるウェルネス重視の休暇へと向かっています。

Snoop SpendMapperのデータからも、この変化がすでに支出に表れていることが分かります。spabreaks.comの売上は、2026年3月の最初の2週間で前年同期比5%増となりました。これは、ブランド側が、慌ただしく予定の詰まった旅行よりも、心身を整える旅への需要拡大に対応していく必要があることを示しています。
大手小売企業やブランドはすでに、リアルタイムの消費者支出データを通じて変化する行動を追跡するために、Snoopのインサイトを活用しています。詳しく知りたい方は、以下のボタンをクリックしてお問い合わせください。
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世界情勢が不安定な時期に、旅行戦略はどう適応すべきか
1. 旅行者を、安全でまだ広く知られていない目的地へ導く
旅行代理店や旅行事業者は、なじみがあり、運営面での信頼性が高いルートを優先すべきです。同時に、安全だと感じられ、かつオーバーツーリズムの影響を受けにくい、あまり知られていない目的地へ需要を振り向ける戦略的な機会もあります。
過去の中東紛争後の歴史的傾向を見ると、需要は南欧、カナダ、カリブ海地域などへ急速に移ることがよくありました。最近のSnoop SpendMapperのデータもこの傾向を裏づけており、2026年3月以降、エア・カナダやエールフランスなどの航空会社への支出が目立って増えています。特に、英国の消費者によるエア・カナダへの支出は、前年同期比で40%増加しました。これは、安定して見え、影響を受けた空域を避けるルートが選ばれていることを反映しています。

旅行ブランドには、「Xが好きならYも検討してみてください」といったメッセージで代替目的地を再提案する機会があります。このアプローチは、旅行者に新しい行き先へ視野を広げてもらいながら、安全性となじみやすさも維持しやすくします。
信頼感の高いルートや新たに注目される場所へ顧客を導くことで、ブランドはオーバーツーリズムの緩和を支援できるだけでなく、政治的または地理的な紛争の影響を受ける地域に対して抱かれるリスク認識を小さくする手助けもできます。
2. 柔軟性を打ち出し、旅行者に安心してもらう
消費者の予約時期が後ろ倒しになる傾向の強まりは、リスクであると同時に機会でもあります。予約の遅れは予測を難しくしますが、一方で、目に見えて分かりやすい柔軟な予約ポリシーと、安心感を高めるメッセージによって、認識されるリスクを下げ、早めの予約を促す必要性を浮き彫りにしています。
柔軟に組み立てられるオーダーメイド型パッケージは、英国のパッケージ旅行利用者の3分の1超に支持されており、25~34歳ではほぼ半数に達しています。この嗜好は、パッケージ旅行が提供する金銭的保護や安心感への需要の再拡大とも一致しています。

旅行商品に組み込まれた旅行保険への需要も高まる可能性があります。オンライン保険マーケットプレイスのSquaremouthは、紛争初週に「どのような理由でもキャンセル可能」な保険への問い合わせが18倍に増えたと報告しており、強固な不測の事態への備えを求める消費者需要の高まりを示しています。
より慎重に判断し、代替策を当然のものとして期待する旅行者のニーズに応えるため、ブランドは柔軟性を優先すべきです。状況の変化に簡単に対応できると顧客に安心してもらうことで、旅行会社は不確実な時期であっても、最終的にロイヤルティを高め、競争力を維持できます。
3. あらゆる旅行者に向けて、ウェルネス旅行への入口を広げる
長距離旅行が減少するなか、ブランドは車で行ける旅行(ロードトリップ)、クルーズ、そして鉄道旅行を、ウェルネス旅行への親しみやすい入口として訴求すべきです。これらの選択肢は、従来型のスパ滞在や運動中心の休暇だけに限らず、回復、快適さ、信頼性に焦点を当てることで、すべての人にウェルネス旅行を身近なものにします。
AmtrakとEurostarは過去最高水準の乗客数を集めており、Snoop SpendMapperのデータでは、2026年3月22日までの12か月間でEurostarの顧客数が16%増加したことが示されています。両社は、よりゆっくりとした、より意識的な旅への魅力の高まりに応えるため、上質な食事や座席の改善など、プレミアムな提供内容を強化しています。
鉄道事業者や旅行ブランドは、意味のある、個別化された旅を求める消費者の欲求を捉えることで、ウェルネス旅行を再定義できます。ミンテルトレンドのSlow it All Down(リンクはミンテルのお客様限定アクセス)は、旅行者が周囲とのつながりを感じ、ペースを落とし、その瞬間を味わうことをますます重視していることを示しています。ウェルネス旅行を身近なものとして位置づけ、軽めの体験から深い没入型の体験まで提供することで、旅行ブランドは、気分転換の休暇から人生を変えるような旅までを求める、より幅広い旅行者層に訴求できます。
ミンテルとSnoopとともに、旅行需要の変化をチャンスに変える
今回の紛争は人道面で重大な影響をもたらしていますが、同時に旅行行動にも大きな変化を生じさせており、その影響は当該地域を大きく超えて需要に及んでいます。
今後の世界の旅行市場は、単純に危機前の状態へ戻るのではなく、「適応」によって特徴づけられることになります。需要はいずれ回復しますが、その道筋は、安全性に対する認識の変化、より慎重な家計意識、そして信頼と安心感へのより強い重視によって形づくられます。
これから成果を上げる旅行ブランドは、この局面を単なる停滞ではなく転換点として捉えるブランドです。柔軟性を優先し、分かりやすい安心感を提供し、意味のある価値を届けることで、事業者は不確実性のなかでも消費者を支え、信頼の回復とともにより強い立場で前進できます。
世界情勢の不安定化に対して、消費者習慣がどのように変化しているのかを、より深く理解したいですか?
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