ユニリーバが昨年Summit PartnersからDr. Squatchを15億ドルで買収すると発表し、業界アナリストの間で大きな話題を呼びました。この買収はメディアで大々的に注目を浴びることはなかったものの、非常に興味深いものです。この買収は、戦略的成長、そして進化を続ける消費財(CPG)マーケティング環境におけるケーススタディだと言えるでしょう。
自社の成長戦略を検討している大手CPGブランドにとって、今回のユニリーバの買収はオーガニックグロースよりも買収を選ぶべきタイミングとはいつなのか、成功する買収と高くつく失敗を分ける要因とは何なのかを示す重要な手がかりとなっています。
Dr. Squatchの買収が戦略的に理にかなっている理由
ユニリーバにとって戦略的なメリットは数多くあります。まず第一に、メンズグルーミング市場には、アメリカを大きく超えて拡大する魅力的な成長機会があります(詳しくは後述)。
第二に、Dr. Squatchは、ターゲット層に訴求する巧みで誠実なブランド戦略と直販型(D2C)モデルを活かし、顧客基盤や製品ラインナップを急速に構築・成長・拡大させています。2013年にJack Haldrupがサンディエゴで創業して以来、Dr. Squatchはアメリカの固形石鹸およびスキンケア・ボディケア市場の両方で8%以上のシェアを獲得しています。2023年から2024年にかけてDr. Squatchのスキンケア・ボディケアの売上はほぼ倍増し、ユニリーバのAxeを上回りました。

Dr. Squatchは男性向けの高性能なパーソナルケア製品と
遊び心のあるブランドメッセージを提案。
一方で、今回の買収はユニリーバによる過去のDollar Shave Club買収を想起させますが、当時の買収は必ずしも成功とは言えませんでした。
今回は何が違うのでしょうか?楽観視してもよいのか、それとも悲観すべきなのでしょうか?
過去の買収の変化から学ぶ
ユニリーバによる今回の取引の可能性を正確に理解するには、同社が過去にメンズグルーミング市場で試みた買収を振り返る必要があります。2016年にユニリーバがDollar Shave Clubを10億ドルで買収した時から、状況は大きく変化しています。当時、消費財市場ではD2Cがまだ黎明期にありました。男性向けシェービングカテゴリーは価格が高く、またGilletteが世界市場を独占していました。
Dollar Shave Clubは、こうした不満に真正面から応え、見事な成功を収めました。ローンチ広告「Our Blades are F**king Great!」は伝説となり、創業者Michael Dubinは誰もが手軽にシェービングコストを節約できる解決策としてブランドを打ち出しました。彼は広告に素晴らしいユーモアも取り入れ、これは大成功を収めました。
2010年、Gilletteが世界市場の70%を獲得する一方で、Dubin氏はカミソリの余剰在庫を倉庫一つ分抱えていました。しかし、ブランド構築や既存価格を下回る価格設定、魅力的な広告の投入、D2Cサブスクリプションモデルによる顧客獲得が功を奏し、Dollar Shave Clubは、Gilletteが占める市場シェアを2010年の70%から2016年には50%以下まで縮小させる引き金となりました。

Dollar Shave Clubは、手頃な価格のカミソリを定期便で毎月届けることで、
DTCサブスクリプションモデルの可能性を切り開きました。
市場を支配していたGilletteは、ローエンド市場では弱い立場にありました。まさに自らの成功が仇となったのです。
ユニリーバはDollar Shave Clubの何を買収したのでしょうか?買収したのは、魅力的な広告で獲得した、主に価格重視の新規顧客基盤を持つD2C企業でした。一方、彼らが手に入れなかったのは、イノベーションに対応できる優れた製品やカテゴリー拡大に役立つ強力なプラットフォームです。その間、Gilletteはシェアを守るために懸命に取り組み、Harry’sなどの新規競合が商機を狙って参入しました。
ミンテルのデータによると、2024年までにDollar Shave Clubの市場シェアは、前年比売上が19%低下したことで1.1%まで落ち込みました。もちろん、ユニリーバはこうした顧客層に向けたD2Cやマーケティングに関する経験・知識を得ましたが、この買収を通じて大きな成功は収められませんでした。ユニリーバは現在も同社に35%出資していますが、2023年に過半数の株式をNexus Capital Managementへ売却しました。
Dr. Squatchは何が違うのか?
Jack Haldrupは2013年にサンディエゴでDr. Squatchを立ち上げました。同ブランドには、Dollar Shave Clubと以下のような重要な共通点があります。
- D2C主導の戦略
- ターゲット層に強く響くマーケティング
- ユーモアの効果的な活用
- 大企業では構築・維持するのが難しい、リアルで型破りなブランドパーソナリティ
では、なぜDr. SquatchはDollar Shave Clubと違うのでしょうか?
Dr. Squatchの買収にはDollar Shave Clubと異なる大きな要素がいくつかあり、それが長期的な成功の可能性を高めています。以下で詳しく見ていきましょう。
1. 進化した市場状況
まず、小売市場は2016年以降、根本的に変化しました。消費者は以前よりもサブスクリプション購入に意欲的になり、購入チャネルを複数に広げています。Dollar Shave Clubがパイオニアではありますが、D2Cやサブスクリプションサービスは消費財を取り扱うまでに成熟しました。Statistaのデータによると、D2C売上はアメリカ市場だけで1,860億ドルに達すると予測されており、その20%以上がD2Cネイティブブランドによるものです。
こうした市場の進化により、ユニリーバには、Dr. Squatchが確立したD2Cのノウハウを活かしつつ、従来の小売チャネルで拡大を狙える環境が整っています。
2. 優れた製品力
コスト削減に重点を置くDollar Shave Clubとは異なり、Dr. Squatchは別のアプローチで価値を提案し、異なる点で評判を獲得しています。Dr. Squatchは設立当初から高品質な石鹸を製造しており、それがすぐに関連カテゴリーへの拡大に繋がりました。シェービングにかかるコストを軸に単一カテゴリーの不満に対応したDollar Shave Clubの戦略とは異なり、プレミアム品質や成分にこだわることで、製品開発やイノベーションに対応できるより柔軟なプラットフォームが実現しています。
市場の追い風と品質重視の多様な製品ポートフォリオに支えられ、Dr. Squatchにはより大きな成長機会が生まれており、新規顧客の獲得や既存ユーザーに向けた使用アイテムの拡充を通じて成長が期待できるでしょう。
3. メンズグルーミングカテゴリーの爆発的な成長
メンズグルーミング市場は大幅に拡大しています。ミンテルのデータによると、2018年から2023年にかけてアメリカではメンズグルーミングカテゴリーが31%増の約60億ドルに達し、今後も成長が見込まれています。こうした成長トレンドは、ユニリーバ傘下でDr. Squatchの拡大にも追い風となるでしょう。

グローバル展開への商機
ユニリーバは、Dr. Squatchを通じてグローバル展開を目指すと表明しています。今がそのタイミングかもしれません。例えば、ユニリーバにとって重要な成長市場であるインドでは、2024年時点で66%の男性が過去6か月にメンズグルーミングカテゴリーの製品を購入しており、2022年の47%から増加していることを踏まえると、世界的な需要がうかがえます。

将来的な成功の鍵
市場成長の見通しは明るく、Dr. Squatchも勢いを増していますが、今回の買収を成功させるにはいくつかの重要な問いに答える必要があるでしょう。
- ブランドの本物らしさ:ユニリーバは、ブランドの「独自の強み」を活かしながら急速な社会的変化の中でDr. Squatchを効果的に運営できるのか?
- ポートフォリオの統合:ユニリーバのAxeは、世界をリードするデオドラントブランドとして確立している。こうした既存ポートフォリオへのカニバリゼーションリスクはどの程度か?また、そのリスクを回避するためにDr. Squatchはどのように差別化を図るのか?
- 市場でのローカライゼーション:Dr. Squatchブランドを他の市場でどのように適応させていくのか?現地の消費者から共感を得るためにはどの程度の調整が必要なのか?
- 投資の優先順位:ユニリーバは現在、年間売上高が10億ドルを超える13ブランドを所有している。Dr. Squatchは継続的なイノベーションや成長に必要な投資を獲得できるのか?
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理論上では有効に見える買収ですが、ここからの成功は、ユニリーバがブランドの実績を活用し、賢明なイノベーションを選択し、現地消費者の共感を得られるか否かにかかっています。
Dr. Squatchの買収は、自社のイノベーションに取り組むのではなく、革新的な小規模企業を買収し「ノン・オーガニックグロース」で成長を目指す大手CPGのトレンドとも一致しています。ミンテルでは、ペプシコによるPoppi買収についても取り上げました。詳細をお求めの方はぜひこちらをご覧ください。急速に変化する消費者市場や起業家が様々な資金調達手段にアクセスできる状況を踏まえると、近い将来、こうした買収はさらに増えていくと予想されます。
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