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世界の消費者は、自らの健康をより主体的にコントロールするようになっています。これは消費者向けヘルスケアやセルフケア産業における大きな変化であり、一時的なブームではありません。新型コロナウイルスによるパンデミックを契機に「身体の健康」や「メンタルヘルス」への意識は一段と高まり、予防医療への関心と需要は年々拡大しています。

予防医療とは何か?

予防医療とは、日々のライフスタイルの選択を通じて健康を維持し、病気を未然に防ぐための積極的な取り組みを指します。

西洋医学では、かつて健康といえば病気を治すことが中心でした。しかし今では、消費者は病気を未然に防ぐという東洋医学的な発想へとシフトしています。心拍や体調を測定するウェアラブルデバイス、免疫力を高める機能性食品など、健康を維持するための商品への需要が高まっています。こうした意識の変化は医療業界にとどまらず、消費財(CPG)業界にも広がり、健康への関心が購買の大きな動機になりつつあります。

本記事では、英国、米国、カナダ、中国、ドイツの1万人以上を対象にした複数の調査結果を基にしたレポートに記載された内容を組み合わせ、消費者健康市場を形づくる主要な要因やトレンドを整理しました。さらに、フィットネス、食品、ウェアラブル、アルコールといった分野において、イノベーションや戦略的なブランド提携のチャンスが特に大きいことを示しています。

消費者健康市場規模:予防医療の経済的な潜在力とは?

新型コロナウイルスによるパンデミック以降、世界の健康・ウェルネス市場は、長寿志向や予防医療、心身のバランスを含めた健康への関心の高まりを背景に、安定した成長を続けています。その勢いは衰えるどころか、今後さらに拡大すると見込まれます。

Global Wellness Instituteによると:

「世界のウェルネス市場は2022年に約4.4兆ドルと評価された。
 2027年までに約8.5兆ドルに達すると予測される。」

地域別に見ると、北米(1.9兆ドル)アジア太平洋(1.7兆ドル)、ヨーロッパ(1.5兆ドル)の3地域で全体の90%を占めています。

この成長トレンドは、健康を日常に組み込みやすくする商品や、多面的にウェルビーイングを支援する商品を展開するCPGブランドにとって、大きなチャンスとなります。

健康・ウェルネス市場を動かす主な要因とは?

ミンテルの調査やインサイトから、予防医療の普及を後押しする要因は大きく4つに整理できます。

1.     積極的な健康管理が主流に

米国、中国、インドを含む市場では、消費者は治療よりも病気予防を優先する傾向を強めています。 英国では成人の90%が「長期的な健康のためには積極的な健康管理が不可欠」と回答。米国でも女性の10人に9人が「自分の健康を主体的に管理したい」と強く望んでいます

中国では58%の消費者が「昨年よりも健康について学んでいる」と回答しました 。さらに、米国では医師によるアドバイスよりも効果が上回ることが主な動機付けとなり、3分の1以上の消費者が自己診断ツールを活用し、積極的に健康を管理しています

2.経済的価値が予防医療への投資を後押し

経済の不安定さや医療費の上昇を背景に、消費者は「予防医療への投資は長期的に見れば節約につながる」と考え始めています。インドでは、消費者の10人中8人が「生活習慣病を防ぐ商品には追加で支払う価値がある」と回答しました。このように「予防は治療より安い」という認識は世界的に広がっており、ブランドにとっては高付加価値のビジネスチャンスとなっています。

3.健康を意識する消費者は「ホリスティックな健康」へ関心を寄せる

消費者の間では、「心と身体の健康は強いつながりと関連性がある」という理解が広がっています。また、セルフケアの概念も拡張し、精神的な安定、社会とのつながり、感情のコントロールなども含まれるようになりました。消費者が求めるのは、ストレスマネジメント睡眠改善、免疫サポート、社会的つながりなど、トータルで健康を支えるソリューションです。米国では10人に8人以上の消費者が「心の健康は体の健康と同じくらい大切」と考えています

4.テクノロジーが健康管理を変える

ウェアラブルや自宅診断ツールといったデジタル技術は、消費者の健康管理のあり方を大きく変えています。世界的にウェアラブルの普及は拡大しており、健康データを日常的に記録・活用する人が増えています。

これらの技術は、消費者が自らの健康を主体的にコントロールできるように後押ししています。パーソナライズされた医療を可能にし、進捗の把握や生活に合わせた意思決定を助けることで、予防医療をより効果的に取り入れることができます。今後はデジタルツールやAIが、よりパーソナライズされた健康ソリューションへの移行を加速させるでしょう。

ブランドパートナーシップの力:消費者健康市場を形づくる機会とトレンド

前述のようなホリスティックで予防的な健康志向の広がりは、カテゴリーの垣根を越え、フィットネス・食品・衣料・テクノロジー・ウェルネスサービスなど幅広い領域でブランドパートナーシップの可能性を広げています。

フィットネスと食品の相乗効果

運動と健康的な食事は切っても切れない関係です。英国の運動習慣者の5分の4以上が「健康のために運動する」と答えており、運動と同じくらい食生活も重視しています。食品と栄養摂取には強い関連性があります。栄養食品は運動パフォーマンスや回復を支え、運動は心身の健康を促進。この相互作用が、より包括的な健康アプローチを可能にします。食品ブランドとジムが連携すれば、運動と栄養教育を組み合わせた新しい体験を提供できるでしょう。

スポーツウェアはライフスタイルの一部へ

健康志向の高まりとともに、スポーツウェアは「運動時の服」から「日常のファッション」へと進化しています。ドイツではスポーツ用品購入者の10人中6人がカジュアルにスポーツウェアを着用。ブランドにとっては、アクティブかつ健康志向のライフスタイルに合う、多用途でスタイリッシュな商品を開発する好機となっています。

ソバー・キュリオシティ(飲まない選択への関心)

健康志向の高まりから、アルコールを控えるライフスタイルを選ぶ人が増えています。メンタルの安定や睡眠の質、全身の健康を優先する動きです。米国ではアルコール利用者の半数以上が「飲酒量を減らせば健康が改善する」と回答。Z世代の10人に6人、ミレニアル世代の半数が「もっとノンアル製品が欲しい」と回答しています。

こうしたニーズに応える形で、ブランドはノンアルコールビールやワイン、スピリッツなどの開発を進めています。ビタミンやプレバイオティクス、アダプトゲンなどの機能性成分を加えた商品も健康意識の高い消費者に対応できる別のアプローチです。ドイツの「Three Spirits」が展開するノンアルコールスピリッツ「Social Elixir」は、ヤマブシタケやマテ茶といった成分でアルコールに似たリラックス感を再現し、マインドフルな飲酒を選ぶ人々に支持されています。

フィットネスと社交の融合

予防医療市場では「運動+社交」を組み合わせた新しい体験への需要が高まっています。特にミレニアル世代がこの動きを牽引しており、35%が「健康は自分のアイデンティティの中核」と答えています。さらに、ドイツでは消費者の7割が「将来ウェルネス休暇を楽しみたい」と回答し、英国のミレニアル世代の5分の3が「フィットネスフェスティバルに参加したい」と回答しています。これは、ウェルネスとコミュニティ、新しい発見を組み合わせたイベントへの需要を示しています

その代表例が英国の「Love Trails Festival」です。音楽フェスの活気と、ウェルネスやアウトドア活動によるリフレッシュを融合させ、参加者に「体の健康」と「人とのつながり(社会的なウェルビーイング)」の両方を満たすユニークな体験を提供しています。

CPGブランドは予防医療需要にどう応えるべきか?

予防医療への需要が高まるなか、先進的なCPGブランドはそれに合わせて戦略を進化させています。成功のカギは、最新の市場インサイトを取り入れ、機会を発見し、競合より早く機会をつかむこと。ミンテルはそのためのマーケット・インテリジェンスを提供します。成功のための方法は以下の通りです。

1. 商品の多角化

製品ラインを広げることで、ブランドは「消費者の予防医療を支えるパートナー」としてポジショニングできます。米国のサプリブランド「OLLY」は、美容市場に参入。スキンケアと香りを組み合わせた「Mood + Skin」ラインを展開し、肌バリアの修復と気分改善を同時にサポートしています。

2. 健康を包括的に支えるエコシステム

最も成功しているブランドは、健康に多角的にアプローチし、解決策を提示するエコシステムを構築しています。 例えば、NikeやAlo Yogaは、従来のスポーツウェアを超えてアプリでマインドフルネスコンテンツを提供し、身体的な健康だけでなく心の健康まで支援し、総合的な体験を提供しています。これらは、ブランドが「運動」という体験を超えた体験やリソースを厳選し、消費者が総合的なウェルビーイングを達成するのを支援した顕著な事例です。

3. 消費者接点の多様化

各ブランドや企業は、EC・アプリ・SNSなどのデジタルの利便性と、サンプリングや健康相談などの対面サービスを組み合わせることで、消費者と幅広い接点を築き、信頼関係を強化し、消費者の長期的な健康管理をサポートすることができます。

4. ハイパーパーソナライゼーションとAIの活用

デジタルツールの普及と健康データ共有への抵抗感の低下により、超個別化されたサービスの需要が拡大しています。個人に最適化された栄養を提案する「ZOE」は腸内細菌叢、血糖値、および脂肪代謝反応を分析する自宅検査とAIを組み合わせ、個人に合わせた食事プランと食品スコアを提供し、個別化されたアプローチが健康状態を最適化する方法を提示しています。

5. 透明性と信頼の確立

市場には消費者からの信頼を失いかねない誇張や根拠に乏しい情報も多く存在します。科学的根拠や第三者による検証、専門家の推薦を公開することで、消費者はそういった疑わしい製品を見分けることができ、企業側としては消費者に信頼されるブランドとなれます。

ミンテルが示すヘルス・ウェルネス市場のこれから

予防医療への関心は一時的な流行ではなく、市場を大きく変える持続的な動きです。これはCPGブランドにとって大きな成長機会であり、消費者は自ら積極的に健康を維持できる商品を求めています。各国の規制も治療より予防を優先する流れにあり、予防医療を製品開発、マーケティング、顧客体験に統合することで、この変化に対応できたブランドは、顧客の信頼とロイヤルティを獲得し、売上拡大と新市場への参入を実現できるでしょう。

あなたのブランドは、この変化にどう応えますか?

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