2024年イギリス総選挙:ウェストミンスターの変化がリセットのチャンスをもたらす
労働党の総選挙圧勝は、イギリスの政治における歴史的瞬間と言えるでしょう。14年にわたる保守党主導の支配が続いた後、今回の政権交代はイギリスの多くの成人にとって初めての経験となりました。その一方で、労働党の圧倒的な勝利は、7月4日の開票前から広く予想されていました。ミンテルの『ブリティッシュ・ライフスタイル2024』レポートのデータによると、イギリス人の半数が政権交代を予想しており、世論調査に関するメディアの報道から、投票日までの数ヶ月の間にその思いは強まっていたことが示唆されています。
大衆がこの結果を予想していたかどうかにかかわらず、この結果は重要な節目を意味しています。どのような選挙結果であれ、国民の間には賛否両論があるものですが、今回の結果は、多くのイギリス人が変化を待ち望んでいただけに、国民感情を上向かせる絶好の機会となりました。今年2月の時点では、年内に国民のムードが好転すると予想していたのはわずか4分の1程度に過ぎませんでした。
明るい見通しを期待しているのは個々の国民だけではありません。消費者相手のビジネスを展開する企業は、依然として人々の財布の紐を緩めることに苦戦し続けています。
こうした企業たちは、生活費危機によってイギリス人に植え付けられた慎重な消費心理をより前向きに変化させ、支出を積極的に増やしてもいいと思えるようなきっかけがあれば、それを最大限利用しようと躍起になっています。
出典: BBC News
消費者心理:物価と金利が消費を抑制し続けています…
状況はそう甘くはありません。
労働党は、自らが引き継いだ経済環境の厳しさを強調することに腐心しており、政権交代後も、歳出を拡大する見込みはないと表明しています。短期的な財政状況の大きな改善は見込めず、家計への影響はほとんどないでしょう。
しかし、幸いなことに約3分の2の人々は何とか家計をやりくりしており、経済的な余裕と自信の両方が生活費危機の絶頂期から順調に回復していることは、注目すべき重要な点です。とはいえ、無視できない数の人々が不安定な状況に置かれており、また比較的裕福な立場にある人々でさえも、支出に慎重にならざるをを得ません。
5月に消費者物価指数がイングランド銀行の目標値である2%に戻ったことを、生活費危機の終焉とする見方もありますが、これは本質を見落としています。
現在の緩やかなインフレは、過去3年間の物価上昇を帳消しにするものではありません。人々の家計についての実感には、マクロ経済指標を超える影響力があります。消費者物価指数が2%だった6月には、イギリス人の半数が生活費危機は依然として改善していないと回答しており、もはや問題ないと答えた人はわずか3%でした。
一部の人々にとって、生活費危機はいまだ不安要素であり続けています。
画像出典: Getty Images
インフレ率が低下したとはいえ、金利上昇は家計に新たな脅威をもたらしています。住宅ローン金利は急上昇し、2024年5月時点でも2022年初頭の3倍以上となっており、またイングランド銀行は、住宅ローン保有者の約3分の1の返済額が、2026年末までに毎月100ポンド以上上がると予想しています。これは住宅の賃料にも影響を及ぼしており、5月には、賃貸契約者の3分の1が、住居費に対して大きな懸念を示しています。
日々の経済的逼迫は依然として顕著であり、政権交代だけでは、消費意欲の高まりを促すには十分ではないと言えます。実際のところ支出を増やすとすれば保守党支持者であり、彼らは健全な財政状況を報告し、来年の家計にも自信を持つ可能性が最も高いでしょう。つまり、消費者は傷んだ家計を修復するために、貯蓄を優先しているのです。
……しかし、事態は好転するしかないのでしょうか?
悲観的なことばかりではありません。長引く課題にもかかわらず、家計に関わる主要な問題は健全な方向に向かっています。インフレ率は低下し、賃金上昇率は昨年の大半にわたって物価を上回っています。失業率は上昇しているものの、労働市場は比較的堅調に推移しています。
金利は依然として高い水準にありますが、それでも楽観的な見通しを持つことができます。2022年以前の水準に戻ることはないとしても、イングランド銀行は今年後半から基準金利を引き下げ始め、今後2年間は引き下げを継続すると予想されています。
目に見える改善には時間が必要ですが、イギリス人はここ数年の最も厳しい状況を乗り越えてきました。選挙がそれだけで支出増加を促す可能性は低いものの、家計が追いつくまでの間、選挙後の高揚感をうまく味方にできる企業は、成功する可能性が高いでしょう。
スポーツの夏は、気分爽快な消費機会を提供しつづけています
選挙の最大のインパクトは、人々が直面している課題を認識しつつも、より前向きで楽観的な方法で消費者に語りかけ、物語を変える機会となることと言えます。
企業はより即効性のある売上獲得のために、スポーツの夏を活用すべきでしょう。本記事を書いている時点では、イングランドはEURO2024でスイスとの準々決勝を控えており、スコットランドはグループリーグで敗退しています。両チームとも(現時点では)ピッチ上ではそれほど印象的な活躍は見られていないものの、予選を勝ち抜きドイツでの試合に出場したことで、全国のパブが賑わって売上を伸ばしているほか、家庭で観戦するための新しいテレビや、食べ物や飲み物、また大会グッズを買い求める人もいます。
画像出典: Paris 2024
自国チームの活躍がめざましくなかったとしても、大きなスポーツイベントは、一体感をもって人々が集まり、そして企業にとって肝心なことである、ポケットに手を入れてお金を出す機会を提供してくれます。
この夏開催されるオリンピック・パラリンピックはこれをさらに発展させ、選挙やEUROをも凌駕する形で、イギリス全体を同じ旗の下に集結させるでしょう。イギリス人の半数がオリンピックに関心を持っており、10人に3人近くが夏の間にスポーツ観戦にお金を使うと予想しています。
さらに先を見れば、今回の総選挙がより広範な個人消費に与える影響は、様々な要因に左右されるでしょう。最も重要なのは、経済がより健全に成長し、インフレに歯止めをかけ、イングランド銀行の金利引き下げを可能にすることです。家計を活性化させ、消費を促進するための新たな政策が成功するかどうかもカギとなるでしょう。
夏の間に高まった高揚感を活用し、それを持続させることで、心理的インパクトはさらに強化され、人々は贅沢品や旅行などの高額商品への出費に前向きになるでしょう。しかし、同様に重要なのは、タイミングと外的要因の影響を最小限に抑えることです。過去4回の総選挙は、金融危機、ブレグジット、COVID-19の影に隠れてしまいましたが、新政権は、状況が落ち着きを取り戻し、イギリス人がより楽観的で守りに入らないマインドを持つことを望んでいます。
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