関税による混乱がイノベーションの肥沃な土壌となる
4月初旬、私たちは激動の時代の幕開けとなる「解放の日(Liberation Day)」を迎えました。アメリカは世界中のあらゆる市場や業界に対して関税を課しましたが、その直後一部を撤回した一方で、特に中国に対する関税を倍増させるなどの動きを見せています。
これまでの知識や経験は拠り所とならず、今後の展開については依然として混乱が続いています。著者は、この件についてミンテルのアナリストやシニア・コンサルタント数名と議論を交わしました。私たちはおそらく世界中の企業と同様に、しばらくショック状態となった後、気を取り直し、チームとして改めて結束しました。不確実な状況下で企業を導くことこそが、ミンテルが最も得意とすることであり、特に15年もの間市場の混乱が立て続けに起きている今こそ、私たちが真価を発揮するということを再認識しました。
これらの危機の内容はそれぞれに異なるものでしたが、金融危機からコロナ禍に至るまで、ミンテルは混乱の時代から貴重なインサイトを得てきました。当社の集合知と経験、そして数十年にわたるデータセットは、次なる展開を予測する上で役立ちます。これこそがミンテルを特徴づける強みなのです。
では、私たちが学んできたこととはどんなことでしょうか?過去15年間で、私たちは多くの経済的、政治的な激震を経験してきました。金融危機の余波、新型コロナウィルスによる未曽有の影響、ブレグジット、そして現在も続く生活費危機などです。どんな危機も、適応し回復するための教訓をもたらし、混乱の中でチャンスを見出すための最高の教えを与えてくれました。そして、これら全ての危機に通じる打開策の共通原則は、「一貫性」でした。不確実な時代にこそ、企業が信頼できる声を示し、安定した舵取りによって導かれる必要があります。
現在の課題は、関税の直接的な影響だけにとどまりません。関税は、すでに予測不可能な世界情勢において、さらなる不確実性を増幅させています。そして、不確実性は、企業と消費者の両方の行動に避けられない影響を与えます。
消費者の信頼感が依然として脆弱である状況を考慮すると、困難はさらに大きくなります。自分の財政状況が健全だと答える人は少数であり、生活費危機の間にとられた多くの消費者行動は依然として続いています。企業は、明確な目的意識を持ってこの現実に対応する必要があります。
イギリスの消費者の40%は贅沢品の購入を減らしていると答え、34%がより安い価格の小売店に切り替えていると答えています。
企業は、特に予算がかつてなく厳しくなっている今、自社の価値提案を強化し、プラスの価格を払うだけの価値があることを消費者に納得してもらうために、十分な努力ができているでしょうか?それとも、だまっていれば消費者が気付かないだろうと高をくくって、ただ黙ってこの嵐を乗り切ろうとしているだけなのでしょうか?その動きは、それ自体が大きな賭けです。不確実な時代において、何もしないことは、一歩間違えるのと同等に大きな痛手となるからです。しかし、ここで注目すべき点は、まさにこの混乱、つまり「行き詰まり」感こそが、イノベーションの肥沃な土壌となるということです。
歴史は繰り返すのではなく、時に韻を踏む
ミンテルには、50年以上にわたり、市場、消費者、そして企業やブランドを追跡してきたことで築き上げた、膨大な知識資源があります。私たちはこれまでも、お客さまを不確実な状況の中で導き、最も重要な局面で明確かつ実行可能な道を提供してきました。
危機の原因と形はその都度違うものの、ミンテルの調査とデータを遡ってみると、共通する原則が見つかります。
市場全体の不確実性が高まるほど、企業や消費者は自身の支出を見直してコントロールを取り戻そうとするということです。
多くのケースで、彼らは支出を削減することになります。不確実性が高まっている時に、念のためバッファを確保しておこうとする行動は、理にかなっています。(「節約のパラドックス」:経済が最も支援を必要とする時に、経済活動が低下する現象を指す。)
しかし、支出に焦点を当てることは、私たちの潜在的なコントロール欲求にも影響を与えます。ドナルド・トランプ大統領の貿易政策(あるいは過去の危機ではエネルギー価格、パンデミックの拡大、あるいは世界的な金融の安定性など)をコントロールできる人は誰もいませんが、私たち自身の支出はコントロールできるのです。
経済不安の時代における5つの消費者行動の変化
具体的な変化は市場や個人によって異なるものの、ある程度一貫したパターンが見られる傾向があります。
- 価値と効果を重視する
財布のひもが固い状況では、1つ1つの買い物が意識的に行われるようになります。生活費危機の際には、家庭用品業界でこのことが如実に表れました。また、効果を重視する傾向はコロナ禍によって既に高まっていましたが、生活費危機によって拍車がかかっています。消費者は、購入する商品に対して、健康面で効果的であるだけでなく、価格に見合った真の価値の提供を求めています。 - ダウンサイジングし…
厳しい状況下での消費者行動に関する多くの議論は、お金の節約方法に集中しがちです。ダウンサイジングを余儀なくされる人もいれば、自らの選択としてダウンサイジングに取り組む人もいます。関心の薄いカテゴリーや、品質を落とさずに出費を抑えられるカテゴリーでは、消費者はより廉価な代替品に乗り換える傾向があります。 - …そして、アップグレードする
しかし、消費者の行動は、全面的に節約するという単純なものではありません。彼らはまた、投資に対して割の良いリターンが得られると思えば、支出を増やすことも検討します。
たとえば、金融危機は、イギリスの高級調理済み食品市場の成長を大幅に加速させました。小売りメーカーは、外食を控えている消費者を取り込むチャンスと捉え、調理済み食品を、便利ではあるものの味気ない妥協品から、贅沢だが手頃な嗜好品へと位置づけを変化させました。
このようなパターンは、分野を超えて見られます。 美容ブランドにとっては、「リップスティック効果」、つまり、人々が気分を高めるために高級品で自分自身にご褒美をあげるという行動は馴染み深いものでしょう。ミンテルの経験では、プレミアムな調理済み食品、高級フレグランス、または旅行パッケージ商品の手頃なアップグレードなど、ほぼすべてのカテゴリーでこの消費者行動と関連するトレンドが見られます。 - 市場の二極化:
ダウンサイジングとアップグレードが選択的に取り入れられるということは、カテゴリーの二極化を意味しており、中間に位置する市場は、難しい領域となります。お買い得と呼べるほど手頃な価格でもなく、贅沢なご褒美と呼べるほどのプレミアム感はないという場合です。
市場の上位層と下位層の両方でプライベートブランド商品が改善を続けている状況にあることを考えると、ブランド商品は特にこの影響を受けやすいと言えます。
- 安全な選択肢への逃避:
ブランドにとっては、消費者のリスク回避傾向を捉えることで成功につなげることができます。無駄遣いをする余裕がない時には、新商品を試すことはリスクを伴います。より安い商品に切り替えれば多少の節約になる可能性はあるものの、もし子供が気に入らなければ、お金は完全に無駄になってしまいます。
企業が状況改善を待っている余裕がない理由
変化するのは消費者の行動だけではありません。過去の景気後退期において、ミンテル世界新商品データベース(GNPD)は、イノベーションのトレンドがどのように変化してきたかを浮き彫りにしてきました。ブランド主導のイノベーションは衰退し、プライベートブランドがイノベーションのシェアを拡大しているのが見られます。
消費者がコスト削減を重視するようになったのと同様に、これは市場の不確実性に対する合理的な反応です。イノベーションにはコストとリスクが伴うからです。
しかし、特にプライベートブランドがもたらす脅威を考えると、何もしないこともまた、リスクを伴います。消費者はプレッシャーにさらされると、習慣を変化させ、これが課題だけでなく、チャンスも生み出します。消費者が考えなしにいつもと同じ買い物をすることはなくなり、既存の顧客ロイヤルティの争奪戦が繰り広げられるでしょう。ブランドがイノベーションの土俵をプライベートブランドに明け渡せば、市場シェアを永久に失うリスクがあります。
ミンテルとともに未来を見据える
ミンテルはこれまでに、関税が欧州の食品・飲料市場にどのような影響を与えるかについての記事や、イギリス、アメリカ、東南アジアの消費者が見せる反応予測についてのインサイト記事など、関税がさまざまな分野や市場における消費者行動に与える影響を検証した記事を複数発表しています。
(上記すべてのレポートについて、クライアントのみアクセス可能:新規のお客様はミンテルジャパンまでお問合せください)
しかし、その影響はカテゴリーや地域によって異なるだけでなく、全く同じ市場で事業を展開する企業間でも大きく異なります。そこで、ミンテルコンサルティングチームをお役立ていただけます。ミンテルの伝統と専門的な集合知を活かし、個々のお客さまの目標に合わせた最適な戦略を立案いたします。
私たちは、コロナ禍と生活費危機の間も実践し続けてきたこの活動を、今後も継続していきます。例えば、私たちはすでにアメリカの大手企業に対し、直近の動きが世界中の消費者の商品エンゲージメントに与える影響を把握するためのサポートを提供しています。
こうした変化が自社のブランド、顧客、イノベーション戦略にどのような影響を与えるかを知りたいという方は、 ミンテルコンサルティングまでお問い合わせください。当社の手法を活用して成長戦略を検討する方法について詳しくご説明いたします。
私たちは、皆さまの業界ですでに起こっていることを特定し、次なる展開を予測し、それが貴社のビジネス戦略にとって意味することを理解するためのお手伝いをします。