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今年、主要小売4社がウェルネス領域に大きく賭けています。Ulta(米国のビューティ専門小売)、Target(米国の総合量販店)、Amazon、Boots(英国のドラッグストア)はいずれも2026年に入り、ウェルネスへの取り組みを本格化させました。これらの動きは、ミンテルが消費者行動、カテゴリーの垣根の希薄化(コンバージェンス)、ウェルネス起点の支出動向から捉えてきたシグナルと整合します。

消費者は、自分自身のウェルネス習慣により多くの時間・エネルギー・支出を投じるようになっています。ミンテルはこの変化を数年にわたり追跡し、ウェルネスを消費者市場における「持続性の高い、カテゴリー横断の成長ドライバー」の一つとして位置付け、ブランドがこの潮流を捉えるための知見を蓄積してきました。ミンテルの予測(ミンテルのお客様限定公開のレポート)では、米国のウェルネス市場は2030年に向けて7.5%成長すると見込まれます。ウェルネスは「隣接カテゴリー」から、成長戦略の中核へと移行しつつあります。

ウェルネスは、カテゴリーを超えて効く「持続性の高い成長ドライバー」

各社は、カテゴリー横断のマーケティング/マーチャンダイジングに力を入れています。背景にあるのは、消費者にとってウェルネスが単一の要素ではないという理解です。ブランド側は商品をカテゴリー別に整理しますが、消費者は複数のプロダクトや行動を組み合わせて望む成果を得る「スタック(組み合わせ)」として捉えます。たとえば「睡眠スタック」であれば、スクリーンタイムを減らすテック製品(例:Brick)、メラトニンサプリ、ラベンダーのルームスプレーのようなフレグランス商品が同時に並び得ます。ウェルネス解決策への関与と投資が増えるにつれ、消費者のスタックは拡張しています。ブランドが“生活者起点”を徹底するには、自社カテゴリー外のイノベーションも含めてキャッチアップする必要があります。

これは効果的なクロスセル施策でもあり、マルチブランド型の小売ほど活用余地があります。ミンテルの「Wellness Personas(ウェルネス・ペルソナ)」(リンクはミンテルのお客様限定公開)では、消費者がウェルネスとどう向き合うかをタイプ別に整理しています。なかでも支出意欲とトレンド感度が高いセグメントである「Thrivers(スライバーズ)」は、ビューティ/パーソナルケア、食品・飲料、ヘルステック、VMS(ビタミン・ミネラル・サプリメント)、ホーム領域にまたがって積極的に購買しています。店舗でもオンラインでも部門の“サイロ”を超えてクロスマーチャンダイジングできる小売は、商品発見(ディスカバリー)を促し、買い物客のウェルネス・スタック拡張を後押しできます。

主要小売各社は、ウェルネスをどう“実装”しているか

Ulta(米国のビューティ専門小売):専門性と「発見体験」を軸に強化

Ulta Beautyは、既存店舗内に明確な区画を設ける「ウェルネスのショップ・イン・ショップ」を試験導入しています。ウェルネスの品ぞろえに割く売り場面積を大幅に拡張するとともに、専任のウェルネス専門スタッフを配置しました。こうしたカテゴリー横断のマーチャンダイジングは、来店客の“ライン越え”のトライアルを促し、より広い選択肢のウェルネス解決策へと導きます。

Ultaは、消費者の現状に合わせた設計をしています。ビューティ目的で来店しつつウェルネスには“ついで”の関心を持つ層もいれば、最初からウェルネス目的で買い回る層もいます。前者に対してはバスケットサイズ拡大、後者に対しては目的地(デスティネーション)としての成長が見込める点で、Ultaは両方の需要を取り込みやすいポジションにあります。

出典:Ulta

キャプション:Ulta.comのウェルネスカテゴリー(Nutrition & Supplements、Intimate Care、Rest & Reset、Essential Routines)を示すスクリーンショット。

この取り組みは、Ulta BeautyのTikTok Shop参入とも連動しています。最も支出意欲とトレンド感度が高い「Thrivers(スライバーズ)」の70%は、TikTokを1日1回以上利用しています。TikTok Shopでの展開により、「インスピレーション/発見」から「購入」までの導線をよりシームレスにつなげられます。

Target:手に取りやすい価格でウェルネスをスケール

次はTargetです。同社はウェルネスの品ぞろえを30%拡充し、デジタルと実店舗の両チャネルを活用して、消費者が優先度を高めている領域での裁量支出を取り込みにいきます。ここ数年、Targetは“Tar-zhay(おしゃれなTarget)”イメージの回復に苦戦してきたことは周知の通りで、いまの消費者の優先事項に寄り添うことが再浮上の鍵になります。新CEOのMichael Fiddelke氏は「この10年で見たことがないほど、取り扱い商品と売り方の両面で変化がある」と述べています。

成功の前提は、顧客が「価値」を実感できることです。Ultaがプレミアムブランドで勝負できる余地がある一方、Targetには価格を抑える必然性があり、10ドル未満のウェルネス商品を多数用意しています。ウェルネスは裁量支出の性格が強いとはいえ、多くの消費者にとって手の届かないものになってはなりません。より手に取りやすい価格設定は、これまで「自分には関係ない」と感じていた層の参加を促します。

実際にTargetの店頭では、トレンド感のあるVMSブランドをスキンケア商品と並べて陳列しています。顧客の課題解決が、グミ型ビタミンにも美容液にも(理想的にはその両方にも)あり得ることを理解した売り場設計だと言えます。

キャプション:Target店舗の棚に並ぶVMS(ビタミン・ミネラル・サプリメント)。Lemme、HUM Nutrition、Love Wellness、Vital Proteinsなどのブランドが陳列され、隣接してスキンケア/ボディケア商品が配置されている。

Amazon:体験主導型のウェルネスへ拡張

Amazonは主要なウェルネス購買の“行き先”であり、米国消費者の54%がウェルネス商品購入の定番チャネルとして挙げています。この需要を取り込むため、AmazonはOLLY(ビタミンブランド)と共同で「睡眠の質向上」をテーマにしたクロスプロモーションを開始しました。両社は、カリフォルニア州ジョシュアツリーにある“睡眠テーマの家”に滞在できる懸賞企画を用意。Sleep Houseの体験は、没入型かつマルチセンサリーな休息・リラクゼーションを提供するとしています。

多くの顧客が当選するわけではありませんが、インフルエンサー施策やAlexaを通じて、この“体験”を疑似的に味わえるようにしています。AmazonとOLLYはAlexa+で睡眠テーマを提供し、睡眠に関するヒントやクイズ、就寝前ルーティン(ナイトルーティン)の設計支援などを行います。

消費者のウェルネス体験はマルチモーダル(複線的)です。VMS商品と音声インタラクションを組み合わせる設計は、ウェルネスが一つの“箱”の中だけで完結しないことを踏まえたアプローチと言えます。

Boots:サンプルを起点にウェルネス・エコシステムへ誘導

英国のBootsも、Ultaの米国での試みに近い形で、店舗に「Wellness Zone」を導入しています。新ブランドとの出会いを促すために“ピック&ミックス”形式のサンプリングを推奨し、購入前にフレーバーや体感(効果の実感)を試せるようにしています。フルサイズをいきなり購入する心理的・金銭的ハードルを下げる狙いです。

出典:Boots
キャプション:Boots-uk.comのウェルネス品ぞろえ(Beauty、Eat、Sleep、Mind、Movementなど)を示すスクリーンショット。

ミンテルのデータによると、英国のThrivers(スライバーズ)は食生活に多様なベネフィットを求めています。具体的には、免疫機能の強化(49%)、気分の改善(44%)、健やかな脳機能の維持(43%)などです。Bootsはウェルネスの品ぞろえを拡充し、スタッフ教育を通じて、買い物客が目指すウェルネス成果に合った商品選びを支援しています。

ミンテルとともに、勝てるウェルネス戦略を設計する

ここまでの事例が示すのは、小売がカテゴリー横断のマーチャンダイジングと体験主導のマーケティングを通じて、健康・ウェルビーイングを高める商品/サービスへの需要拡大を取り込みにいっている点です。この領域で勝つには、まず消費者が求めるウェルネスの「成果(アウトカム)」を起点に、自社ブランドが日々のルーティンをどのように実現・強化できるかを見極める必要があります。

これらの事例は、ミンテルがウェルネス小売の先進企業に共通して見込む成功のレバー(要諦)を示しています。

  • 個別最適化された「専門性」(店舗での人的サポートでも、オンラインでのAI主導でも)は、膨大な情報の中から必要な選択肢を絞り込み、狙うアウトカムに合う商品組み合わせを見つける助けになります。その結果、コンバージョン率とバスケットサイズ(購買点数・金額)の押し上げが期待できます。
  • 手に取りやすい価格設定は、市場の裾野(アドレサブル市場)を広げ、消費者が「自分に合うか」を試す際の心理的ハードルを下げます。
  • パートナーシップは、マルチモーダルなウェルネス・ルーティンに対して、自社カテゴリー外の解決策も含めた提案を可能にします。また、デジタル・エコシステム上で継続利用につながる“粘着性”の高い体験を生み出す余地があります。

ウェルネスが小売の成長戦略の中核になるなかで、ブランドには、消費者がカテゴリーをまたいでどのようにルーティンを組み立てているかを、より立体的に把握することが求められます。ミンテルのウェルネスプラットフォーム(Wellness Platform)は、成長機会の発見と、より賢いリテール戦略の策定を支援します。

クレア・タッサン
クレア・タッサン

プリンシパル・ストラテジスト。ミンテル入社以前は、Morning Consultで小売・EC領域のバーティカルを立ち上げ、統括。GartnerおよびCEBではクライアント・エンゲージメント職として、グローバル企業に対し、ブランド戦略、消費者ロイヤルティ、イノベーション、成長戦略に関する助言を行ってきた。消費者行動の変化を踏まえたブランド支援に10年以上携わり、特にCPG(消費財)分野において、健康、ライフスタイル、世代別トレンドに関する深い知見を有する。

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