「調理済み食品」はなぜ世界各国で伸びているのか?消費者インサイトとトレンドを紐解く

「調理済み食品」はなぜ世界各国で伸びているのか?消費者インサイトとトレンドを紐解く

Published: 2024年12月17日
この記事は8分で読めます

食品メーカーは、超加工食品(UPFs)に関連するリスクに対する消費者の認識の高まりに直面しています。このため、調理済み食品の健康に対する認識が注目され、企業は懸念を和らげ、購買意欲へつなげることが求められています。

例えば、アイルランドの消費者は、調理済み食品を購入する際、健康に良いな成分がはっきりとわかることを望んでおり、それが購入の決め手となっています。しかし、アメリカでは3分の2近く、イギリスでは44%の消費者が、調理済み食品を常用するのは健康的ではないと考えています。

これにより、消費者が望む調理済み食品の利用方法と、現在販売されている製品がそのニーズをどれだけ満たしているかの間にギャップが生じています。この場合、調理済み食品には、「健康的であること」が求められています。調理済み食品が広く消費されるようになった今、企業は消費者の期待を後押しする調理済み食品のトレンドに合わせた商品やメッセージを提供しなければなりません。

健康志向に関する話題の前に、まずは調理済み食品業界の世界的な動向を見てみましょう。

本記事では世界のトレンドについて論じるにあたり、冷蔵、冷凍、常温保存可能な完全調理済み食品を「調理済み食品」と定義します。

調理済み食品業界の業績

世界的な調理済み食品市場はどれほどの規模なのでしょうか。業績は市場によって異なります。アメリカの調理済み食品業界は2024年にやや落ち込みましたが、これは景気への警戒感が続いていることを反映しています。これとは対照的に、中国での調理済み食品の生産量は増加しており、中国の消費者の4分の1が今後さらに多くの調理済み食品を購入すると予想しています。アメリカの生産量は横ばいで、これはアメリカ市場の成熟度を反映していると思われますが、中国は急速な成長段階にあります。

中国が世界の調理済み食品の生産をリードしているのは驚くことではありません。インド、韓国、ブラジル、タイなどでの生産も追い上げを見せています。これらの国々では、調理済み食品の年平均成長率(CAGR)が最も高い国々です。インドの急速な都市化と労働人口の増加、タイのコンビニエンスストアの台頭など、市場を牽引する要因は様々ですが、これらの地域の成長とともに、調理済み食品への需要がもはや欧米に限ったものではないことが明らかになっています。

ミンテルアナリスト(アジア太平洋地域担当)Jolene Ngは、ベトナムのコンビニエンスストアのトレンドはタイと一致しており、調理済み食品の普及と規模拡大を後押ししていることを強調しています。

タイやベトナムなどではコンビニエンスストアが台頭し、調理済み食品がより一般的になりました。
画像出典: Pexels

しかし、消費者の視点から見た調理済み食品業界の成長の原動力は何でしょうか。調理が最小限で済む調理済み食品の世界的な成長は、主に、手早く完全な食事を必要とする多くの消費者にとっての利便性を軸に展開されています。

なぜ消費者は調理済み食品を購入するのか

オフィスで疲れる一日を過ごし、玄関のドアを閉めると、ソファに倒れ込んでゆっくり休みたいところですが、お腹は空いています。夕食はまだ準備されていません家事は待ってくれません。一から料理するか、あらかじめ選んだ調理済み食品を温めるか、という選択肢が与えられた場合、それは選択というよりも、消費者にとっては必要不可欠なことなのです。

ここで重要なのは利便性です。例えば、アメリカで調理済み食品を利用している人は、利用頻度が増える主な理由として時間の節約を挙げています。しかし、企業が競合他社よりも目立つためには、利便性以外の要素も取り入れる必要があります。

利便性のほかに、消費者の購買意欲を高める主な調理済み食品トレンドにはどのようなものがあるでしょうか。

さまざまな料理を試す

新商品の試食はどの食品カテゴリーでも重要ですが、調理済み食品では特に重要です。一から調理せずとも、まだ試したことがない料理を味わう方法を提供することで、最初の興味を引くだけでなく、リピート購入も促すことができます。

アメリカでは、世界各国の料理が有望視されており、消費者の約4分の1がこうしたコンセプトの調理済み食品に関心を示しています。イギリスではすでに、半数近くが調理済み食品を通じて世界の料理を試しており、広く普及しています。

タイの消費者は、幅広い年齢層が調理済み食品の日本食に強い興味を示しています。ミンテル世界新商品データベース(GNPD)で明らかになったように、スリランカ風やレバノン風といった見慣れない味が日本の調理済み食品の新製品にも登場しており、企業による商品の多様化を示しています。

消費者は自分の味覚と総合的な体験で冒険したいと望んでおり、このことは、世界的な調理済み食品トレンドの到来を予感させます。ユニークで斬新な国際色豊かななフレーバーを取り入れることは、企業がこのトレンドを活かし、消費者を惹きつけるのに役立ちます。

例を挙げると、アメリカの企業、Blue Zones Kitchenは、「ブルーゾーン」と呼ばれる世界各地で長寿と健康が確認されている地域に由来する食事を中心に展開しています。

Blue Zones Kitchenが発売するThe Heirloom Rice Bowlは、
そのサブカテゴリーで極めて優れた業績を収めています。
画像出典:bluezoneskitchen.com 

データ出典:ミンテル世界新商品データベース(Mintel GNPD)

コストパフォーマンスが高い

外食をするか、しないか。予算重視の人にとっては、調理済み食品の方が低価格の選択肢に思えるかもしれません。レストランのメニュー価格はこれまで、インフレなど様々な要因に合わせて上昇してきました。しかし、調理済み食品に価格変動がないわけではありません。ブラジル人の3分の1が、調理済み食品は高すぎるため、あまり食べないと答えているように、価格には厳しい目が向けられています。

これに対して企業は、単に価格で競争する必要はありません。効果的にアピールするには、望ましい属性を組み合わせて付加価値をつける必要があります。消費者は品質に妥協することを望んでおらず、企業も妥協する必要はありません。

例えば、調理済み食品はレストラン産業からヒントを得ることができます。カナダ人の10人中7人近くが、「調理済み食品は外食の良い代替品になりうる」という意見に同意しており、調理済み食品はコストパフォーマンスの高い外食スタイルの食事として位置づけられることがわかります。必ずしもレストランの品質と同じというわけではありませんが、典型的なレストラン料理を再現したグルメなレシピで効果的なイノベーションを起こせば、常連客の興味をそそることができ、プロモーションによってこれらの調理済み食品を買い物カゴに入れることができます。

価格感覚と製品品質とのバランスをとることは、望ましい属性を組み合わせることを意味します。

健康と栄養のために

コロナ禍以来、世界全体で健康とウェルネスへの意識が変化する中、消費者は食品の健康と栄養の訴求にますます注目するようになっています。イギリスの成人の3分の2近くが、常に、またはほとんどの場合、健康的な食生活を心がけていると答えており、健康志向が依然として強いことを示しています。プラントベースのイギリスの調理済み食品メーカーであるAllplantsは、「栄養士によるバランス調整済み」というメッセージを使い、健康、特に栄養に関する訴求を強化しています。加えて、Allpantsのウェブサイトでは、超加工食品に関する懸念を直接取り上げており、透明性とより健康的な食事の選択肢を求める声の高まりに、歩調を合わせています。

イギリスのプラントベース調理済み食品会社のAllplantsは、ウェブサイトで「超加工食品よりも植物性のものを選ぼう。美味しくて栄養満点の完全食を、特別ではなく毎日の定番に。」と謳うなど、超加工食品をめぐる消費者の認識の高まりに呼応しています。
画像出典:allplants.com

また、健康志向をサポートする企業に対する需要もあります。61%近くのドイツ人が健康的なライフスタイルを促進する食品・飲料メーカーを好んでおり、企業が参入することができる余地があることを示しています。健康的なライフスタイルを追求する上で、時間の不足はよく大きな障壁となります。そのため、調理済み食品メーカーは商品の利便性をアピールし、消費者が手早く健康的な食事でこの障壁を乗り越えられるようサポートすることができます。

3分の2以上のイギリスの成人は、企業は健康的な食品を選ぶことをサポートすべきだという意見に同意しており、企業が健康面で主導権を握るべき理由はここにあります。イギリスの主要な小売業者の中には、すでにこの取り組みを強化しているところもあります。例えばTescoとSainsbury’sは、高脂肪・高糖分・高塩分(HFSS)食品・飲料のボリューム・ディスカウントプロモーションの制限を自主的に実施しています。これは後に予定されている政府による同様の施策の導入に先駆けたものです。

消費者は、企業が食品の健康と栄養に関して率先して取り組むことを望んでおり、このことは、調理済み食品メーカーにとって、進化する健康に関する認識を製品イノベーションとマーケティング努力に合致させる重要なチャンスとなるでしょう。

調理済み食品業界の次なる展開

この調理済み食品トレンドは、消費者が調理済みの料理により多くのものを求めていることを示しています。消費者は、ブランドが変化する消費者の嗜好に合わせた戦略で消費者を惹きつけることを期待しています。

利便性だけでなく、コスト、健康への影響、探究心をバランスよく取り入れることが、新興ブランドと既存ブランドの両方にとって製品試用のきっかけとなるでしょう。企業は、世界的な業界の業績や、関心と成長を促進する主なトレンドを明確に把握することで、インサイト戦略のための強力な基盤を構築し、今日の市場の需要に対応したポジショニングを確立することができます。

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