英国2024年秋季予算:経済の見通しと消費者の展望

英国2024年秋季予算:経済の見通しと消費者の展望

最新記事: 2024年12月30日
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2024年秋季予算:英国の消費者にとって何を意味するのか

英国政府による2024年の秋季予算は、さまざまな理由で歴史的でした。レイチェル・リーブス氏によるこの発表は、14年ぶりに労働党の財務大臣によって行なわれたものであり、女性の財務大臣としては初のものでした。しかし、最も喫緊のトピックは、イギリス政治史上で最大規模の増税が組み込まれていたことです。

労働党が税制改革をもたらす

労働党は経済全体で計約400億ポンド(2024年12月時点の為替で約8兆円)の増税を発表しました。その多くは、雇用主の国民保険拠出金の引き上げから来ています。資本利得税(CGT)、相続税、追加資産への印紙税、および私立学校教育費に対する付加価値税(VAT)の変更は、公共投資の大幅な増加を促進するためのさまざまな増税の一部です。政府は、これによりイギリス経済の成長に弾みがつくことを期待していますが、消費者はこの政策により、自分の預金残高にどのような影響が生じるのかを懸念しています。

増税は受け入れられにくいのが常

現在の状況下では、ほぼすべての政策決定が多数の反対意見と分裂を引き起こします。この予算も例外ではありません。どこにターゲットを絞ろうとも、この規模での増税は確実に一部の層の激しい反発を買うのです。

予算発表前に実施したミンテルの調査によると、「政府によって支援されている」と実感しているのはわずか5人に1人だけでした。「政府が国民の利益を最大限に考慮して決定を下している」と考えているのは、わずか4分の1です。こうした考え方が予算発表後に変化するのか、またどう変化するのかは個々人の状況によりますが、こうした国民感情を指針にすることで、イギリス人が予算発表後の報道に対してどう反応するかを予測することができるでしょう。

消費者は政策による収入への影響を懸念

消費者個人にとって、今回の予算案の影響が具現化するまでには時間がかかります。

所得税、付加価値税、被雇用者の国民保健拠出金は手付かずのままであり、最低所得者は6.7%の最低賃金の引き上げによって恩恵を受けると予想されます。これは、生活費の逼迫(ひっぱく)によって最も大きな打撃を受け、家計の回復が最も遅い人たちにとっては助けとなるでしょう。ミンテルの調査によると、世帯年収が25,000ポンド(2025年4月以降に適用された新しいフルタイムの最低賃金。2024年12月時点の為替で約500万円)未満である家庭の43%は、10月時点で家計が「きつい」「困窮している」「かなり困窮している」と回答しており、37%が1年前よりも厳しい状況だと感じています。

こうした層では、どのような収入増でも歓迎されるでしょう。しかし、最低賃金以上の収入を得ている人々にとって、見通しは確実ではありません。

政府の試算によると、雇用主の国民保険拠出額を引き上げ、雇用主が支払いを開始する金額を引き下げると、企業に年間250億ポンド(2024年12月時点の為替で約5兆円)の追加コストが生じることが見込まれています。これにより、ほぼ確実に賃金引き上げの動きが弱まり、物価上昇に伴い、負担のほとんどが個人に転嫁されるでしょう。

多くの人々にとって、これは世帯収入の圧迫をさらに長引かせることとなり、その結果、消費支出も切り詰めを余儀なくされます。予算と共に公表された予算責任局(OBR)の「経済財政予測報告書」によると、家計支出は2028年までの各年で、3月に予測された支出額よりも低くなることが予測されています。

政策は消費者の安心感にも影響する可能性

支出を圧迫しているのは、増税による影響だけではありません。大規模な増税が行なわれることは広く予想されており、予算案が発表される前の10月には、イギリスの消費者の72%が来年度の増税を予測していました。しかし、これが確実になった今、消費者の安心感にも影響することが予想されています。


今年、すでに生活費の逼迫に直面するイギリス人の間では、安心感が低下している様子が見てとれます。10月には、56%の消費者が「生活費の逼迫は依然として改善されていない」と感じていました。特に3人に2人の消費者が「税金はすでに高すぎる」と感じていることからも、家計への実質的な影響に関係なく、増税を組み込んだ今回の予算案は、多くの人にとって将来へのより大きな不安と警戒心を引き起こすこととなるでしょう。

イギリス人は生活費の逼迫に直面し続けている。画像出典:Adobe Stock

当面の支出は引き続き抑制される

これまでに発表された冬季暖房費支援金(Winter Fuel Payment)の変更と、10月の光熱費上限額の引き上げにより、燃料費はすでに注目の話題となっていました。年間で最も寒い月に差しかかるにつれ、この議論はさらに加速していくでしょう。イギリス人の半数は、今年の冬光熱費を支払うことができるかどうかを懸念しており、5人に2人は節約のため、今後2か月のエネルギー使用を抑えるつもりだと回答しています。

より広範囲に目を向けると、すでに定着している堅実な買い物習慣、例えば格安店での買い物やプライベートブランド製品の購入なども、引き続き拡大していくでしょう。消費者が価格やコストパフォーマンスを重視する中、多くのブランドは「価値の提案」を優先していく必要があります。

一方、経済は回復傾向で希望はある

現状をより大局的に見ると、前向きに捉えられる要素はまだあります。結局のところ、一般的な消費者は、資本利得税の増税、プライベートジェット使用時の旅客税の引き上げ、「ノン・ドム」税制(税務上の居住地が国外にある国内居住者への税金優遇制度)の廃止による影響を受けることはまずありません。多くの消費者は政策により当面の影響を受けることはないと考えられており、家計収支の予測も、3月時点の予測に比べると弱まってはいるものの、依然成長が予想されています。

何よりも、2024年の秋季予算は、生活費危機からの回復を拡大させることが期待されており、短期的には家計や消費者の購買力の立ち直りを遅らせる可能性がありますが、その代わり、すべての人々に利益をもたらす長期的な成長が強く期待できます。つまり実質的には、これまで長く慣れ親しんできた状況の繰り返しだということです。

ブランドにとってのビジネスチャンス

こうした回復途上にあっても、ブランドには商機があります。イギリス人の多くは経済的に何とかやりくりをしており、来年もそうしていくと予想されています。苦しい時期には、多くの人々ができる範囲で自分をいたわりたいと考えています。2024年に旅行業界が活発な年を迎えたこともあり、「リップスティック効果」(厳しい経済情勢で人々がより安価な楽しみを求める現象)は、美容から食品、レジャーに至るまで、あらゆる業界で勢いを増しています。クリスマスに向けて、消費者の多くは支出に対して守りの姿勢を貫いていますが、過去2年間に比べると全体的に財布の紐は緩くなっています。

消費者は、気分を高めてくれる製品やサービスにはお金を使う意欲があります。ブランドは、ただ自社の「価値」を示すための努力をしていくことが重要なのです。レイチェル・リーブス財務大臣の予算案によっても、このことは変わりありません。

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