ブランドが小売業者を介さず、直接顧客に販売するD2Cショッピングがますます人気を集めています。
ソーシャルコマース業界はターゲット層へのブランド認知を拡大する大きな機会となっており、オンラインショッピングの常識を一変する瀬戸際にあると言えます。
ソーシャルコマースとは?
ソーシャルコマースとは、ブランドが商品を宣伝するSNSプラットフォーム上で直接商品を購入するオンラインショッピングの方法です。これにより、SNSプラットフォームはムードボード、商品・ブランドのリサーチツール、オンラインショップとしての役割を一体化して果たすことになります。こうした作業をすべて1か所で行える利便性から、ソーシャルコマースは急速に成長しており、eコマースエコシステムの重要な要素として普及しています。
本記事では、ソーシャルコマース業界の詳しい動向について深く掘り下げています。ソーシャルコマースの大きな成功はどのように説明できるのでしょうか?見込み顧客は何を探しているのでしょうか?そして、ソーシャルコマースが提供する商機をお客様のビジネスではどのように活用できるのでしょうか?
消費者の購入プロセスにおけるSNSの役割がソーシャルコマースの成功を押し上げる
SNSプラットフォームは、ブランドや小売業者が消費者にリーチし、認知度を高めるための手段としてますます重要性を増しています。
SNSがインスピレーションを生む
SNSがユーザーのカスタマージャーニー(認知から購入、利用、再購入までの流れ)や購入決定に影響を与えていることは言うまでもありません。つい最近まで、消費者は商品を購入するためではなく、ネットショッピングの参考になるインスピレーションを求めてSNSを利用することがほとんどでした。特に16-24歳の若い世代は、ファッションやメイクのヒントを探る上でSNSやインフルエンサーから多大な影響を受けています。こうした行動の変化を踏まえると、SNSプラットフォーム上のオンラインレビューはブランドが過小評価できない強力なツールとなっています。イギリスの女性は、ファッショントレンドや購入者の声、インフルエンサーのPRなどを求めて、こうしたレビューやSNSプラットフォーム全般を頻繁に利用しています。
ソーシャルコマース業界の4つの主な購買要因
1. 成功するソーシャルコマース戦略では「価格」が重要なツール:経済不安が続く中、消費者は引き続き支出に慎重になっており、価格が大きな懸念事項となっています。競争力のある価格戦略や割引・特典を目立たせることで、特に若い世代の買い物客を大量にソーシャルコマース市場に引き込むことができるでしょう。
2. 魅力的なコンテンツで関心を誘い、信頼を構築する:魅力的なコンテンツはSNSプラットフォームにおける主な購買要因であると同時に、エンゲージメントを高める上でも役立ちます。商品の実際の使用シナリオを紹介し、ブランドや商品のストーリーを共有することで信頼を築き、顧客とのつながりを深めることができるでしょう。透明性のある情報を提供し、さらなるアフターサービスを保証すれば、見込み顧客を引き込むこともできるはずです。アフターサービスは急速に伸びているソーシャルコマーストレンドの一つですが、ショッピングプラットフォームとしてのSNSが従来の小売チャネルに後れを取っている分野でもあります。
3. ソーシャルコマースプラットフォームの利便性や利点が購入を促す:ソーシャルコマースでの買い物は大半が計画的なものですが、プラットフォームの利便性と即時性の高さから、衝動買いやオンデマンド購入の割合も高くなっています。特にTikTokは、「中古ラグジュアリー(Pre-owned Luxury)」や「修理済みテクノロジー(Refurbished Technology)」といったサステナブルなショッピングカテゴリーを追加することで検索機能を強化し、この分野における成長を狙っています。
4. 「特別感」でソーシャルコマース市場の商品イメージを高める:特典やまとめ買い割引といった限定オファーは、消費者の購買意欲をくすぐります。中国では、50-59歳の消費者層は特に限定品やまとめ買い割引に惹かれる傾向があり、41%が関心を示しています。
ソーシャルコマース市場への参入
イギリスではTikTokユーザーの60%が、SNSプラットフォームから直接商品やサービスを購入したことがあると回答しています。
2023年と比べると、2024年にはSNSを介した購入がわずかに増加したものの、アメリカでの数字は引き続きイギリスに後れを取っています。アメリカでは、40%以上の消費者がSNSで商品・サービスを購入したことがあり、今後も購入する意向を示しています。
ソーシャルコマーストレンド:SNSでのショッピングに使用されるデバイス
SNSを介した売上総額は小売全体の売上と比べるとまだ少ないものの、モバイルデバイスから購入された商品・サービスの売上高はアメリカのeコマース全体の売上のほぼ半分を占めると予測されており、オンラインで買い物をする人にとってモバイルデバイス、およびソーシャルコマースがいかに重要なものかがうかがえます。したがって、今後数年にわたるソーシャルコマース業界の成長は、モバイルデバイスの使用と密接に結びついていると言えるでしょう。スマホを使用する時間が増えるにつれ、モバイルデバイスを介した買い物も増え、それがさらにソーシャルコマース市場の成長を促進します。逆に言えば、ソーシャルコマースはモバイルデバイスの販売台数を押し上げる重要な役割を果たすことにもなります。
ソーシャルコマース市場での買い物に利用される人気のプラットフォーム
マーケットプレイスは、個人間取引の分野で大きな成功を収めており、すでに多くの取引実績があるFacebookは競合よりも強い立場を獲得しています。一方、TikTokやInstagramには、世代・性別を超えてより多くの消費者とつながることができるアドバンテージがあります。Z世代はこれまでにもTikTokやInstagramで買い物をした経験があると思われますが、いずれのプラットフォームも購入可能なコンテンツを活用することで、ミレニアル世代やX世代の消費者を効果的に取り込むことができるでしょう。
Pinterestはプラットフォーム全体のランキングでは4位となっていますが、まだ利用したことがない人でも安心して買い物できるプラットフォームとしては、購入者から最も高く評価されています。もともとユーザーが自分の理想を表現し、将来の買い物のインスピレーションを探る場所として立ち上げられたPinterestは、その本来の目的をさらに高めていくことで、将来の理想を実際の購入へとつなげることができるでしょう。FacebookやInstagramはもともと他者とつながり、生活の一部を共有する場として作られたものですが、これこそ一部の人々がこれらのプラットフォームの新しいソーシャルコマース要素に足を踏み入れるのをためらう理由かもしれません。
SNSプラットフォームでの買い物の障壁
当社アナリストが実施した市場調査によると、SNSユーザーはまだソーシャルコマースに対して様子をうかがっている状況で、完全に踏み切る準備はできていません。彼らはまだプロセスや利用可能な選択肢について下調べをしている段階です。したがって、ブランドやプラットフォームからの情報提供やサポートが非常に必要とされています。
出典:ミンテルレポート:US Social Commerce Market Report
上記すべての障壁の中心にはソーシャルコマース全体に対する信頼感の欠如があるため、小売業者は個人データの利用、商品の真贋(しんがん)、そして認証をとりまく信頼性の問題に対処していくことが最も重要になるでしょう。
成功するソーシャルコマース戦略とは?
1. 「価格」と「価値」が最重要
買い物客にとって価値や価格が最優先事項となっている現代では、「特別価格」戦略が人々の関心を誘い、SNSでも購買要因のトップの一つになっています。ブランドはこの戦略を活用することで、SNSでのショッピングが持つさまざまな可能性に見込み顧客を引き込むことができるだけでなく、顧客にブランドとの継続的な関わりを促すことで、今後の特典や商品を見てもらうよう誘導することもできるでしょう。
2. 魅力的なコンテンツはソーシャルコマースの最も大きな強みの一つ
買い物の下調べ段階でSNSが重要な役割を果たすようになったことから、商品の詳細や消費者レビュー、利用者の声といった有益な情報を提供することは極めて重要です。
イギリスではTikTokユーザーの60%が、SNSプラットフォームから直接商品やサービスを購入したことがあると回答しています。
この数字は、信頼する人からの口コミが購入者にとってどれほど重要であるかを示しています。これは友人や家族でも、普段よく見るSNSの著名人でも同じです。ブランドは、親しみやすいインフルエンサーとのパートナーシップや紹介プログラムを採用することで、他者に対する消費者の信頼を活用することができるでしょう。
おすすめやレビューによるソーシャルプルーフ(社会的証明)は成功するソーシャルコマース戦略に欠かせない要素ですが、情報を提供することで消費者の自律性を促し、他人の決定に頼らず自分自身で判断できるようサポートすることも、ブランドにとって強力なアプローチの一つです。これを実現するためには、インタラクティブな商品やブランドのストーリー性が重要な要素となり、またブランドコミュニケーションを強化するための手段となります。
とはいえ、これは口で言うほど簡単ではありません。今日のSNSユーザーは膨大な量のコンテンツにアクセスしています。これは、競争が激化するソーシャルコマース市場で注目を集めようとするブランドにとっては大きな課題となります。要約すると、魅力的なコンテンツ、包括的な商品情報、そしてソーシャルプルーフが、購入者にとっての「価値」を高める有力なソーシャルコマース戦略を形成していくと言えるでしょう。また、ミンテルが日本で行った調査では、日本の消費者の57%が、「インフルエンサーに勧められた製品やサービスは買わない」と回答していることから、日本では商品を紹介するインフルエンサーへの信頼感にも課題があることが分かります。
3. ライブ配信は新たなソーシャルコマーストレンド
リアルタイムでお気に入りのブランドやインフルエンサーを視聴できるライブ配信が、ソーシャルコマースマーケティングの推進力として勢いを増しています。2023年6月時点で、中国におけるライブコマース(ライブ配信を使ったeコマース)のユーザー数は5億2,600万人に達しました。ユーザーは別のインターフェースに移動することなく、動画コンテンツを視聴しながら手軽にライブ配信を見つけることができます。このシームレスな統合により、ライブ配信は非常に効果的なアプローチとなっており、わずか数秒の魅力的なコンテンツでもユーザーの関心を惹きつけ、販売につながる可能性が期待できます。
ミンテルと共にソーシャルコマース業界を未来へ導く
若い世代がソーシャルコマース市場の成長の大部分を担っている一方、今後はすべての世代の消費者がSNS上での購入プロセスに理解と自信を深めていくことで、これまでの購買習慣にかかわらず、SNSがブランドと交流しつながるための重要な接点になっていくことは確かです。
今後は生成AIの飛躍により、消費者とブランドとの関わり方を向上させる選択肢がますます増えていくことから、こうした機能をいち早く取り入れる先駆者的な企業・ブランドは、Z世代、α世代、そして若いミレニアル世代からも関心を集めることができるでしょう。
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