直近の英国政府による予算発表を受けて、企業と消費者はいずれも継続的な財政圧迫や消費習慣の変化に直面しています。
企業がこうした状況を切り抜けていくための一助として、ミンテルのエキスパートはイギリスの消費者やブランドにとってこの予算案が何を意味するのかを明らかにしました。ここでは、小売、美容、食品・飲料といったカテゴリー別に予算案の影響を考察し、長期的な成功を目指すにあたりどのようにイノベーションを推進し、価値を提案しながら、進化する消費者の優先事項に寄り添った取り組みを進めることができるかを詳しくご説明します。
帳尻を合わせる
就任後初となる昨年の予算案でイギリス政治史上最大規模の増税を発表したレイチェル・リーブス氏は当初、2025年がより円滑な年になることを期待していたことでしょう。しかし、英国予算責任局(OBR)による最新の成長率予測や生産性評価の低下を受け、リーブス氏は新たな財政上の「ブラックホール」を埋め合わせる必要に迫られました。結果として、今回の予算案は景気刺激策という体裁を取りながらも、実際にはさらなる増税が際立つ内容となっています。
10月時点で「政府から支援されている」と感じている消費者はわずか24%、「すでに税金が高すぎる」と回答したのは72%(リンクはミンテルのクライアントのみ閲覧可能)だったことから、今回の予算案に至るまでに緊張感はすでに高まっていました。予想を下回る生産性や成長率予測を受け、リーブス氏は財政上のギャップを埋め合わせなければならない課題に直面することとなりました。その結果、2030年までの間に追加で260億ポンドの増税が見込まれています。
しかし、この予算案は多くの人々が懸念したような家計への大打撃を与えるものではありませんでした。実際、最低賃金の引き上げや児童手当の2児制限撤廃といった一部の発表は、家計が苦しい消費者にとっては後押しになると予想されています。一方、配当・貯蓄・不動産収入への課税や住民税、電気自動車(EV)、ISA(イギリスで導入された個人が投資や貯蓄を一定の非課税枠内で行うことができる税制優遇制度)、年金制度といった他の項目における変更は、特に高所得層に大きく影響すると予測されています。また、より広い視点で見ると、企業にかかる追加コストは様々な分野でインフレを招くと予想されています。

所得税率は据え置き、しかし「ステルス増税」が消費者の回復を妨げる可能性も
今回の予算案で労働者は所得税率の引き上げを免れましたが、さらに3年間の課税基準額凍結により、さらに多くの人々が高税率帯に追い込まれることになります。「ステルス増税」(fiscal drag)として知られるこの政策では労働者の手取り賃金が減ることはありませんが、賃金上昇によるメリットは少なくなります。この政策により、家計の購買力の成長が鈍化し、ひいては家計支出が低下するでしょう。
最大のニュースの一つは英国議会外で起きました。OBRが経済・財政見通しを誤って早期にリークしてしまったのです。この報告では、前回予測を下回るGDP成長率と予測を上回るインフレ率が見込まれています。多くのイギリス人にとって物価高は引き続き重要な問題となっており、2025年10月時点で3人に2人が「生活費危機は依然として改善していない」と回答しています。これにより、今回の予算案では払拭することのできない消費者の慎重な姿勢が強まっています。

最富裕層の納税者に大きな負担がかかる
今回の予算案による個人課税の最大の増加は、イギリスの最富裕層に集中しています。リーブス氏は不動産・配当・貯蓄収入への課税率を2%引き上げると同時に、200万ポンドを超える不動産に対して2,500ポンドの追加住民税(500万ポンドを超える不動産については7,500ポンドに引き上げ)を導入したほか、給与控除による年金拠出制度への国民保険料(National Insurance)免除額に2,000ポンドの上限を設けました。
富裕税は対象となる人々の間では決して歓迎されるものではなく、経済全体への信頼感に打撃を与える可能性があります。しかし、現時点では高所得世帯の大多数が「家計に余裕がある」と報告しており、今後もこの傾向が継続する見込みだということも留意しておくべきでしょう。10月時点では、75,000ポンド以上の収入を得ている世帯の47%が「家計は健全」だと報告しており、36%が「問題はない」と回答しています。
生活費危機からの回復が長引くも、好機は残されている
最低所得層がインフレを上回る賃金上昇の恩恵を受け、最富裕層は新たな課税による負担に直面する一方で、中間層の状況はほぼ変化していません。
この3年間で、生活費危機のピークから断続的な回復が進んでいます。イギリスの消費者は限られた予算内でやりくりするための行動パターンを身につけており、今後もそうした倹約行動を続けると予想されます。
消費財カテゴリー全体では、引き続き「価値」が重要なポイントとなっています。お金を使いたくないわけではないものの、消費者があらゆる出費に対して慎重な姿勢を見せている以上、ブランドは売上一つを確保するためにも様々なカテゴリーの競合と争わなければなりません。
人件費や税負担が増加する中、多くの企業にとって価格競争はこれまで以上に厳しいものとなっています。とはいえ、こうした厳しい消費者環境においても価格は引き続き重視していかなければいけません。また、これと並行して製品・サービスの物質的・感情的な魅力を際立たせる付加価値の訴求にも力を入れる必要があります。
食品・飲料:「ブランドは消費者の忍耐力をサポートするチャンス」
Kiti Soininen | 食品・飲料担当ディレクター
ミンテルの2026年グローバル食品・飲料トレンド予測でも取り上げた通り、企業にとっては消費者の「回復力(レジリエンス)」だけでなく、「忍耐力」をサポートすることが2026年の重要なテーマとなっています。家計への圧迫がじわじわと続くことが予想される状況では、「忍耐力」を促す呼びかけがこれまで以上に適切なアプローチとなります。こうした圧迫が続く中、消費者に染み付いた「賢明な消費習慣」は今後も続くとみられ、プライベートブランドの競争力ある価格が支持を集める一方でメーカーブランドには自社の「価値」を納得させることが強く求められるようになります。
緊張感が高まる中で消費者とつながりを構築するためには、彼らが魅力を感じられるようなお財布に優しいソリューションを探るのがよいでしょう。例えば、豆の缶詰を「安価な選択肢」ではなく「風味豊かな栄養源」として捉え、環境にもやさしく料理の主役にもなることをアピールすれば、少し高いお金を払う価値はあると考えられるはずです。
小売:「現在の小売業界にとっては望ましい状況ではない」
Nick Carroll | 小売担当主任ストラテジスト
小売業界にとって状況は一様ではなく、良し悪しが混在しています。事業税に対する低税率階層の導入はイギリスの商店街への中小企業の投資を促す見込みがある一方で、スーパーマーケットや大型非食品店が最高税率帯から免除されないというのは大きな痛手です。大型小売業者に大きな負担がかかることになり、消費者への価格転嫁や店舗の閉鎖につながる恐れもあります。
135ポンド未満の輸入品に対する関税免除(デミニマスルール)撤廃の遅れは、海外ブランド、特に超低価格を売りにする事業者にとっては恩恵となる一方、すでにコスト上昇に苦しむ国内小売業者にとっては失望材料となっています。消費者にとっては「価格」や「お得感」の優先度が高いため、現状維持を歓迎する人もいます。しかし、新たなコスト圧力に直面する国内事業者にとって関税免除の継続は痛手です。
ビューティ・パーソナルケア:「K-Beautyの成功は時代の兆候」
Sam Dover | BPC・家庭用品担当ディレクター
価格を重視するイギリスの消費者の姿勢は、2025年の成功事例であるK-Beautyの台頭につながりました。消費者は、手頃な価格で得られる高い有効性、洗練されたパッケージデザイン、感覚的に楽しめるテクスチャーを提供するK-Beautyブランドに惹かれ、トレードダウン(安価品への買い替え)しながら美容ルーティンを拡大させています。同カテゴリーの成功はフェイシャルスキンケアカテゴリーの売上と販売数の両方を押し上げました。
K-Beautyを推進する根本的な需要が今後も続くこと、そして消費者が常に新しいものを求めていることを踏まえると、イギリスのBPC(ビューティ&パーソナルケア)市場にはより多くの海外ブランドが参入する道筋が開かれており、特にインドは注目の市場となっています。

旅行・レジャー・賭博:「ギャンブル業界には大きな打撃」
Paul Davies | 旅行・レジャー・トレンド担当シニアディレクター
2026年4月からリモートゲーム税が21%から40%に、2027年4月からは一般賭博税(オンラインスポーツ賭博に適用される)が15%から25%に引き上げられることで、オンラインギャンブル市場は大幅な増税の打撃を受けています。しかし、実店舗でのギャンブルにはいくらかの救済措置が取られており、マシンゲーム税(MGD)は引き続き20%で据え置きとなっています。この発表に先立ち、イギリスの大手賭博会社はミンテルに対し、マシンゲーム税の大幅な引き上げは収益を半減させ、イギリスの繁華街への今後の投資に歯止めをかける恐れがあると語っていました。
現状この事態を免れたことで、ギャンブル業界では、一般の人々からの印象向上を狙いつつ(オンライン賭博と比べて)低い税率のメリットを活かすために、より「ソフト」なブランディングを打ち出すカジノやビンゴホール、さらには賭博ショップが増える見込みです。
一方、観光税の導入や、地域市長にホテル・宿泊施設に対して1泊あたりの追加課金を認める措置は、国内外の旅行者に新たな負担をもたらしています。この課税は消費者の旅行先選びに決定的な影響を与えるほどではないものの、ここ数年で価格が急騰している国内市場にとってはさらなる負担になるでしょう。
外食サービス:「ビジネスレートが小規模事業には恩恵、大手事業には圧力になる」
Trish Caddy | 外食サービス担当主任アソシエイト
今回の予算案と同時に発表されたOBRの経済・財政見通しでは、昨年のNIC(国民保険料)引き上げによりホスピタリティ業界が最も大きな打撃を受け、雇用喪失数も最大だったことが報告されています。2025年10月までの1年間を見ると、ホスピタリティ業界の従業員数は2.5%減少し、全産業平均の0.6%減と比べて大きな落ち込みとなりました。今回発表されたビジネスレート(イギリスの事業用不動産に課される地方税)の改革や小規模なパブ・カフェ・レストランへの支援はこの影響を多少緩和し、小規模事業に大手より有利な競争上の立場を与えています。
よりヘルシーな低糖の製品を求める消費者の動きに合わせて、新しい「ミルクシェイク税」(砂糖税の適用範囲を加糖乳飲料まで拡大する制度)が導入されたことで、メーカーには成分配合を見直し、責任ある原料調達をアピールする機会が生まれています。これは市場ですでに見られるトレンドとも一致しています。例えば、53%は「外食で提供される飲料はスーパーのRTD飲料よりも健康的」だと考えており、3人に2人は環境配慮に力を入れている飲食店を探しています。こうした動きに素早く適応できる企業は、顧客ロイヤルティを維持し、市場シェアを獲得できるでしょう。
ミンテルの結論
結果的に、2025年の予算案は多くの人々が懸念していたほど大きな混乱を招くことはなく、消費者行動に抜本的な変化が起こることもないと予想されます。ブランドにとっての課題は、今回の予算案が自社ビジネスにとって何を意味するのかを理解し、ここ数年続いている主な消費者トレンドが今後も継続することを意識することです。低価格や手軽なラグジュアリーへの需要をはじめとするこうしたトレンドに応えながら、先行き不安な中でも気分を盛り上げる体験を提供することが、引き続き成功の鍵となるでしょう。
ミンテルとともに、貴社のビジネスを適応させる
ミンテルでは、世界中の幅広い業界を対象に、消費者行動や最新のトレンドについて詳細な分析をご提供しています。
弊社エキスパートは、お客様のビジネスが需要の変化を把握し、消費者の好みの変化に対応しながら、成長機会を特定できるようサポートいたします。
今すぐお問い合わせいただき、データに基づく提案やアドバイスを受け取り、進化する市場環境で継続的な成功を実現するための戦略を策定しましょう。