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近年、消費財(CPG)業界は劇的な変化を遂げています。機能性飲料の台頭から、より健康的な選択肢を求める消費者の声まで、各社はイノベーション戦略を見直し、常に最先端を目指そうとしています。その中でも注目すべき一手がありました。 

それは、2025年にペプシコが約20億ドルという巨額でPoppiブランドを買収したことです。自社で類似商品を開発する道も検討したはずですが、同社はあえてイノベーションのプロセスを経ずにPoppiを買収するという選択をしたのです。 

なぜペプシコはPoppiを買収したのか? 

ペプシコによるPoppiの買収は単なるビジネス取引ではありません。変化し続ける消費者トレンドの複雑さを踏まえ、綿密に計算された戦略です。Poppiは元々Mother Beverageとして立ち上げられたのち、創業者のアリソンとスティーブン・エルズワースが7年前にテレビ番組の「シャークタンク」(日本でいう「マネーの虎」のような番組)に出演し、アップルサイダービネガー入りのソーダを売り込み、投資を獲得したのを契機に、Poppiとしてリブランドされました。Poppiは機能性、味、そして健康志向を融合させることで、多くのファンを獲得しています。 

Poppiが最初に販売されていたテキサス州ダラスのファーマーズマーケットで、私が発見できたと言えれば格好はよかったのですが… 
私自身も最初に購入して以来ずっと自宅の冷蔵庫に常備している愛飲ブランドです。 

アップルサイダービネガーには、腸内環境を整えるプレバイオティクスとプロバイオティクスが含まれています。美味しいだけでなく、低糖質・低カロリーであることから、若い世代を中心に人気を集めているだけでなく、医療関係者も推奨しています。実際、自己免疫疾患を抱える私も、主治医から従来飲んでいた飲料の代替としてPoppiを勧められたことがありました。 

少し話題は変わりますが、ミンテルは先日東京ビッグサイトで開催された「食品開発展2025」にて、「腸から始まるウェルネス革命:美・健康・スポーツの未来」と題した講演を行いました。 

【講演で取り上げた主なトピックはこちら】 

  • 世界的に高まる「腸の健康」への関心―腸内改善を訴求する新商品が増加 
  • 腸活×ウェルネス:健康維持からレジリエンス(回復力)の構築へ 
  • 腸活×美容:SNS世代は即効性を、シニア世代は健康的な長寿の手段としてインナービューティに取り組む 
  • 腸活×スポーツパフォーマンス:胃腸にやさしいプロテインとe-スポーツ選手に向けた「目の健康」 

本講演ではPoppiのようにプレバイオティクスとプロバイオティクスの両方を組み合わせたシンバイオティクスの効果、そしてこれらを使用した海外商品の事例紹介も行いました。

講演スライドをダウンロードしていただけますので、ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

では、なぜ世界有数の消費財メーカーが独自にプレバイオティクス飲料を開発して市場競争に挑むのではなく、あえて社外のイノベーションであるPoppiを買収したのでしょうか?

その答えは、CPG業界におけるイノベーションがますます複雑化しているから。そのため、彼らは確立され急成長しているブランドを買収することを選んだのです。 

CPG業界におけるイノベーションは停滞しているのか 

CPG業界ではイノベーションが成長の生命線と捉えられることが多いものの、真に新しい商品を生み出すイノベーションは現在低迷しています。ミンテル世界新商品データベース(Mintel GNPD)によると、2024年最初の5か月間に発売された新商品のうち、市場にとって本当に新しいイノベーションはわずか35%にとどまりました。これは、ミンテルが新商品発売を追跡してきた28年の歴史の中で最も低い数字です。食品・飲料カテゴリーではこの数字はさらに低下し(26%)、大手ブランドが新しいアイデアを切り拓くうえで依然として直面している課題であることを示しています。 

なぜイノベーションが一流ブランドから生まれないのかという疑問が湧いてきます。
私が子供の頃は、企業のイノベーションラボは全盛でした。父はカラマズー出身の生物学専攻の大学院生として3Mに入り、キャリアをスタートさせ、当時企業目標として、過去5年間に発売された新商品から、収益のうち少なくとも25%を得ることを掲げていると私に話してくれたことを覚えています。幼いながらに「真のイノベーションに対するコミットメントだ!」と思いました。

しかしながら、今日ではそのような目標自体が斬新に感じられます。 小規模なメーカーが自社商品を購入してくれている顧客を見つけるのが容易になったように、大企業も自社が事業を展開するカテゴリーにおいて有望なイノベーターを見つけることは、はるかに容易になっています。テレビ番組の「シャークタンク」はその一例で、現代においてメディアがマッチメーカーとして機能する好例だと言えます。 

第二に、特に米国では、法人設立や商品製造における法的・財務的なハードルが低下し続けており、同時に認知度の向上や資金調達へのアクセスも拡大しています。商務省によると、米国における年間企業設立数は2016年以降2倍以上に増加しています。 

第三は、従業員の勤続年数の低下です。米国労働統計局によると、2024年の従業員平均勤続年数は3.9年で、2002年以来の最低水準でした。これは、特定のスキルセットを必要とし、複数年にわたるプロジェクトを伴うことが多いR&D(研究開発)職においては、より大きな影響を及ぼします。社内で生み出されるイノベーションは、アイデアの種から技術的な実現可能性の検証、市場投入の準備、受容、そして発売に至るまでの長期プロセスにおいて組織的な知識に依存しています。 

もしイノベーションや市場参入のハードルが低下し、大手企業にとって社内で真に新しいイノベーションを生み出すことが難しくなると、企業はイノベーション・ミックスを調整し、より買収重視の姿勢をとるようになると考えられます。Poppiは、まさにこの好例です。 

イノベーションではなく買収による成長のメリット 

同等の商品をゼロから開発するのではなく、Poppiを買収するという決定はペプシコの幅広い企業買収戦略と一致しています。確立されたブランドを買収することがペプシコにとって理にかなった選択であった理由は次のとおりです。 

  1. 確立されたブランド・エクイティ  
    Poppiは単なる商品ではありません。強いブランドアイデンティティ、確立された流通網、そして消費者トレンドに沿った、認知度が高く収益性の高いブランドです。健康志向のセグメントに対しても、Poppiは明確な価値を提供しています。ペプシコの規模を活かすことで、より幅広い消費者層に認知度と販売網をさらに広げることで、Poppiをより幅広い消費者に体験し、楽しんでもらうことができます。  
  1. より健康的な選択を求める消費者のニーズに応える  
    消費者はあらゆるカテゴリーにおいて、より健康的で機能的なメリットを求めています。大手ブランドの選択肢は拡大を続ける一方で、小規模ブランドやプライベートブランドも人気を集めています。Poppiのようなブランドを買収することで、ペプシコはこうしたニーズの変化に対応し、消費者トレンドの最前線に立つことができます。  
  1. 研究開発よりも買収による成長加速  
    ハーシーやモンデリーズといった大手CPG企業も、近年は健康的な方向に導くポートフォリオを拡大するブランドを相次いで買収しています。CPG業界の合併・買収(M&A)部門は拡大しており、企業が必ずしも自社ラボで次なるイノベーションが開発されるまで待つことなく、より迅速な利益を得るために革新的なブランドを買収し、より早い投資回収を図っていることを示しています。  
  1. カニバリゼーション(侵食)を起こさずに小規模ブランドを拡大  
    より高いリターンを生むのは、米国の地方都市にある家族経営の企業から生まれるかもしれません。これこそが、ペプシコがPoppiを買収した理由です。同社は、新しい消費者、新しい市場、新しい機会に対し、ブランドを育成し、マーケティングし、販売するノウハウに長けています。大手CPG企業にとっての課題は、既存のポートフォリオをカニバリゼーションすることなく、その小規模ブランドを大きなブランドに成長させることです。決して容易ではありませんが、ペプシコによるPoppiの買収は、大きな成長が見込まれるブランドへの非常に堅実な投資であり、その価値は今後ますます明らかになると私は考えています。 

では、“次なるPoppi”とは何か? 
本インサイトの筆者であるマット・ヴァレが、この問いについてLinkedInで議論を展開しています。ぜひご参加ください。 

ミンテル・コンサルティングとともに、CPGイノベーションの未来に備える 

Poppiの買収は、CPG業界の意思決定者にとって重要な教訓を示しています。業界におけるイノベーションは、社内での商品開発だけに依存するものではありません。潜在的に業界を揺るがす存在を見極め、戦略的に提携していくことが鍵となっています。 

御社は、市場拡大戦略の一環としてM&Aをどのように活用していますか? 

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ミンテル コンサルティングでは、リアルタイムの市場データを活用し、御社の市場拡大と消費者需要の喚起を後押しするための最適な領域・カテゴリーやビジネスにおける戦略的な方向性をご提案しています。競争の激しい市場で勝ち残るために、ぜひお問い合わせください。 

また、最新の消費者トレンドや戦略的提言を知りたい方は、ミンテル Spotlightにぜひご登録ください。 


本記事の執筆者:マット・ヴァレ(ミンテル リード・クライアント・パートナー)

戦略・インサイトコンサルティング一筋のキャリアを歩み、GfKやイプソスで上級管理職を歴任。トムソン・ロイターでクライアントサイドからキャリアをスタートし、ミネソタ大学でMBAと学士号、タフツ大学で修士号を取得。現在も業界講演に積極的に登壇し、Rock ’n’ Roll Research Podcastの創設者兼ホストとしても活躍しています。

マット・ヴァレ
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