消費財(CPG)業界のリーダーにとって、いま最も大きな疑問のひとつは、「なぜこれまで以上に食事やライフスタイルの知識が広がっているのに、社会全体はますます不健康になっているのか?」です。
1970年代以降、肥満は一貫して増加しています。健康的な生活を支える商品やツール、専門家からの支援は数多く存在するにも関わらず、人々は病気になりやすくなっています。これこそが「健康パラドックス」と呼ばれる現象です。

出典:ミンテルコンサルティング|「The Worried (Un)Well」不安を抱える(不)健康者の台頭
一般的に、健康は一人ひとりが責任を持つべきだとされています。それは正しい側面もありますが、同時に政府・小売業者・メーカーからの支援も不可欠です。しかし、ここにある不都合な真実は、最大の利益は往々にして加工食品から生まれるということです。
医薬品という近道
CPG業界でよく問われるのは、「オゼンピック(Ozempic)などの減量薬は、食品・飲料の売上やCPGのイノベーションにどう影響するのか?」という点です。
現状では、人々の「何を、どのように食べるか」という根本的な課題に取り組むよりも、薬や手術に多額の資金が投じられています。脂肪・塩分・糖分を多く含む食品は安価で身近にあり、過剰に消費されています。これは、異常な食品環境に置かれた普通の人々にとっては、ある意味正常な反応だと言えます。
メーカーによる自主規制は機能してきませんでした。政府は砂糖入り飲料税や高脂肪・高糖分食品(HFSS)規制といった施策を導入しましたが、小売業者は「自ら規制できる」と主張してきました。しかし、過去の事例が示すのは、自己規制だけでは十分に機能しないという事実です。最も有効なのは、立法と自主規制を組み合わせることです。
健康的な商品が苦戦する理由
健康的な商品が成功するためには、CPGメーカーは大きな課題に直面します。それは「味」です。
脂肪・糖分・塩分を減らすと、必ず代わりになる成分を加える必要があります。しかし消費者は風味を妥協しません。
新商品(NPD)の発売が難しい理由は主に2つあります:
- 消費者はスーパーに並ぶ商品のうち、わずか1%しか購入しません。買い物かごに入れてもらうのは極めて難しいのです。
- 多くの新商品が失敗する理由は以下の通りです。
- 差別化が十分でない
- 味が良くない
- 認知を広げるための投資や時間が不足している
- 店頭での棚確保や、マーケティングによる「心の中での存在感(メンタル・アベイラビリティ)」が欠けている
具体例として、モンデリーズは砂糖30%オフのデイリーミルクをわずか4年で撤退させました。しかしWHOは以前から砂糖摂取を半減させるよう呼びかけています。方向性は正しかったものの、消費者が適応するための時間が不十分だったのです。
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消費者の視点から
消費者は次のような問いを抱えています:
- 何をもって「健康的な商品」と言えるのか?
- 誰がそれを決めるのか?
- 誰を信頼すればよいのか?
- 健康に関する情報が混乱している中で、どう行動すればよいのか?
実際、英国の16〜34歳の若者の5人に2人は、健康的な食事についての情報源をソーシャルメディア上のウェルネスクリエイターから得ています。一方で45歳以上ではわずか8%です。
人々はブランドや小売業者に、より良い選択をする手助けをしてほしいと期待しています。しかし多くの場合、最も健康的な選択肢は最も利益率が低いのです。たとえば、一週間分のジャケットポテト(皮付きジャガイモを使用したイギリス料理)は数百円で済みますが、ブランドが提供する「ミールソリューション」はその10〜20倍の価格になります。
業界からの教訓
- マクドナルド:ビッグマックは健康食品だと偽ったことはありませんが、2005年にサラダを導入し、主力商品を変えることなく消費者に選択肢を提供。
- コカ・コーラとファンタ:ファンタの砂糖を減らしても味を維持できたため、売上は成長。一方、ルコゼードは味が落ちたことで売上を失いました。
ここから得られる教訓は明確です。 「カロリーは減らしても、味は守ること」です。
流行とトレンド
新しい商品やダイエット法は常に登場します。ケト、ココナッツ、プロテインパウダー…。多くは短命で高リスク、一時的な成功があっても長続きしません。
一方で「真のトレンド」は異なります。それは長期的で低リスク、そして社会全体の大きな変化と結びついています。
長期的なトレンドには、以下のようなテーマが含まれます:
- 健康
- 環境
- 高齢化と可処分所得の増加
これらは一過性のブームではなく、無視できない大きな流れです。
今後の道筋
食品業界は自らを規制することはできません。関与するプレーヤーが多く、利害が複雑に対立しているからです。
解決策は以下の3つの組み合わせにあります。
- 立法:政府による明確なルール
- イノベーション:味を損なわない健康的な商品の開発
- 教育:消費者に理解を促し、より良い選択を可能にする
立法・イノベーション・教育を組み合わせることで、食品業界と政策立案者は協力し、健康の悪化を逆転させ、より健康的な未来を築くことができるでしょう。
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本記事の執筆者:クリス・ヘイワード(リード・クライアント・パートナー)
消費財(CPG)調査分野で25年以上の経験を持ち、これまでにニールセン、カンター、IGDでの勤務を経て、政府機関・小売業者・製造業者への助言を行ってきた。
また、メディア出演や業界イベントでの講演も多数。
すべての人が手頃な価格で健康的な食事を楽しめる未来の実現を目指している。
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