循環型ファッションとは?
2023年、欧州連合(EU)は、廃棄物を最小限に抑え、資源効率を最大化することで、ファッション業界を循環型へとシフトさせることを目的に「サステナブルな循環型繊維製品のための戦略」(Strategy for Sustainable and Circular Textiles)を廃棄物枠組み指令(Waste Framework Directive)に導入しました。循環型ファッションにおいては、消費者が中古品を販売・購入できるVintedのようなプラットフォームへの注目が高まっており、衣料品の廃棄量減につながっています。
ファッション業界におけるサステナビリティのトレンドとは?
ミンテルの調査によると、2024年においても、高いインフレ率は消費者の記憶に残っており、いまだに価格が優先されていることが示されています。そのため、消費者の多くが購入する物の数を減らし、慎重な消費行動をとっています。生活費危機を背景に、中古品の販売や中古ファッション品の購入は、金銭面での節約と環境保護につながる、魅力的な代替手段となっています。
サステナブルなファッションを下支えする法律
EU内で活動する、またはEUに商品を販売する企業は、 企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive)を通じて、標準化された方法論に則り、環境および社会への影響を報告することが義務付けられています。一方、中国では、政府が業界の革新と発展にインセンティブを提供しています。ミンテルの調査によると、例えば「サステナビリティにおける卓越性の追求者(Pursuer of Excellence in Sustainability)」というイニシアチブによって、サステナブルな慣行を採用する優れた企業を奨励しています。これらの例は、各国政府が法律を通じてファッションをサステナブルなもの変革していくことを支援していることを示しています。
循環型ファッション市場の成長
サステナブルな行動に対する意識や関心はすでに高まりを見せており、家計への圧迫が和らぐにつれ、サステナビリティへの関心はさらに高まると考えられます。 イギリスでは、スローファッションを訴求するSNSへの投稿が29%増加しています。小売業者は、古着の販売、レンタル、リペアなどを従来の小売形態と組み合わせることで、循環型ファッションのトレンドと、消費者の需要に応えていくでしょう。
ファッションにおけるサステナビリティに関する消費者行動
イギリスとドイツの消費者の半数以上が、サステナビリティはファッションアイテム購入の際の重要な要素であると考えています。また アメリカでは、ファッションアイテムを購入する際、3分の2の消費者がエコフレンドリーであるという訴求に注意を払っていると答えています。 ドイツ人の多くは、誰もが個々に環境保護への責任を果たすべきだと考えており、大多数は地球に害を与えない行動を心がけていますが、アメリカ、イギリス、ドイツの消費者全般が、ファッションにおけるサステナビリティへの責任の大部分は企業にあると考えています。
一方、中国の消費者にとっては、サステナブル・ファッションは環境に関する問題だけにとどまりません。 中国でサステナブル・ファッションを成功させるには、ブランドはサステナブルな成長を、個人のウェルビーイング、家族の価値観、そしてより広範な社会的影響と結びつけることが必要であり、それにより、さらに深い共感を得ることができます。
サステナブル・ファッションのトレンドとセイ・ドゥ・ギャップ
サステナブル・ファッションに対する消費者の姿勢は、概ね前向きで一致しているように見えますが、ミンテルのコンサルタントによると、意見が必ずしも行動に反映されているわけではないことが示されています。サステナビリティに対する態度と実際の行動変化を比較すると、その「価値観と行動のギャップ」は非常に大きいことが分かります。例えば、イギリスの若いミレニアル世代の5分の3以上が、過去3か月の間に購入したアイテムを返品しており、繊維の廃棄量を増加させています。消費者が信念に基づいて行動するのを妨げている要因は何なのでしょうか。
消費者をサステナブル・ファッション市場から締め出しているのは、往々にしてその価格の高さです。消費者の予算は逼迫されており、最終的には価格が優先されることが多く、経済的な要因がサステナブル・ファッション市場の課題となっています。イギリスの消費者のほぼ半数、そして ドイツの消費者の67%が、最終的な購入決定時にサステナビリティよりも価格を優先しています。
サステナブル・ファッションのトレンドに乗りたいと考えている消費者は、業界が明確なメッセージや方向性に欠けているため、判断が難しいと感じています。イギリス人の70%近くが、どの小売業者やブランドが実際にサステナブルなのかを知るには多大な努力が必要だと考えています。ドイツの消費者は、サステナブル・ファッションのコンセプトに一貫性がないと感じており、特にファストファッションブランドに対しては、矛盾を感じています。透明性の欠如が懐疑心を引き起こし、さらにグリーンウォッシングへの疑惑が消費者のブランドへの信頼を損ねています。 環境保護の責任を推進するために、各企業やブランドは以下のことに取り組む必要があります。
- 消費者がファッションアイテムを購入する際に、サステナブルな選択をしやすくすること。
- 環境に配慮した取り組みを透明性をもって伝え、その主張の根拠を示すこと。
循環型ファッションで未来を切り拓く
循環経済を支えるファッションマーケットプレイス
オンライン・ファッションモールや中古ショップの台頭には、サステナブル・ファッションのトレンドと高インフレが影響しています。生活費の逼迫が続く中、消費者はより意識的な購買行動をとるようになり、例えば、購入する品数を減らし、着なくなった服を売り、古着を選ぶといった行動をとっています。Vintedのような中古アパレル販売プラットフォームは、お値打ち価格での買い物と、よりエコフレンドリーな購買行動を結びつける完璧な方法を提供しています。サステナブルな方法で生産されたアイテムは高価格になりがちなため、ドイツの消費者の3分の2以上が、より手頃な価格のエコフレンドリー商品を探しています。
Vintedは、消費者が中古ファッションアイテムを売買できるプラットフォームを提供する大手ファッションマーケットプレイスの一つである。出典:vinted.co.uk
消費者が「価格」と「サステナビリティ」の二者択一を迫られた場合、価格は依然としてサステナビリティよりも優先される傾向にあります。特に若い消費者は、予算が限られていることが多いため、ファストファッションを好む傾向が続いています。このような状況が、ファッションマーケットプレイスを、手頃な価格でサステナブルな行動をとることができる、完璧な選択肢に位置づけています。
SNSにおける循環型ファッショントレンド
過去6ヶ月間で、中古ファッションに言及したSNSへの投稿数は70%増加しています。SNSは、ファッションに関する情報やインスピレーションの源として長らく機能しており、特に若い消費者は、インフルエンサーのトレンドやレビューを参考にしています。また、SNSは既存のブランドの再活性化にも役立っています。 Z世代の半数は、ヴィンテージファッションは「より良い時代の象徴」だと考えており、このことは、ブランドがZ世代のノスタルジーに訴え、過去のアイコニックなスタイルを復活させるチャンスを示唆しています。
ブランドが循環型ファッションのトレンドを取り入れる方法
中古ショップやファッションマーケットプレイスは、消費者の自発的な環境保護活動に依存していますが、小売業者とリペアやレンタルなどの循環型サービスとの間には、よりシームレスな連携を実現する余地が残されています。
1.リペアサービス
例えば、ユニクロは日本ではもちろんのこと、アメリカの一部店舗でリペアサービスを提供しています。同ブランドは、このサービスをより魅力的なものにするため、ビジュアルプレゼンテーションやスタッフトレーニングにも投資し、サステナビリティを推進しています。今後、企業は廃棄物の量や資源の使用を最小限に抑えるために、リペアやリメイクのような循環型ビジネスモデルをさらに模索していくと予想されます。
ユニクロは廃棄物を最小限に抑えるため、アメリカの一部店舗でリペアサービスを提供しています。出典:us.uniqlo.com
2. 中古販売
サステナブル・ファッションのトレンドの高まりとともに、多くのブランドが中古販売市場に参入しています。中古アイテムの価値を強調したり、ショップのウェブサイト内で商品を再販するオプションを提供したりすることで、新たな価値観の提供が可能です。例えば、ドイツのブランドhessnaturは、サステナブル・ファッションラインとしてすでにマーケティングされており、自社製品を買い戻してその状態を分類し、中古アイテムとして販売しています。これにより、顧客がファッションアイテムの購入をクローズド・サークル(閉じた循環)として捉えやすくなっています。
hessnaturは、顧客が愛着のあるhessnaturのアイテムを売ったり、中古アイテムを購入したりすることができる、循環型ファッション・ループを提供しています。出典:hessnaturs.com/de/secondhand.
3.実店舗
コロナ禍によるeコマースの加速にもかかわらず、ほとんどの消費者は、依然として実店舗で実際に商品に触れ、見て、試着した上で購入することを好んでおり、実店舗で循環型の商品を提供することが重要です。特に、中古アイテムの購入やレンタルをする際には、消費者はそのアイテムの状態を確認したいと考える傾向があるため、実店舗での提供はなおさら重要です。
H&Mはニューヨーク・シティに中古アイテムを扱うデスティネーションストアをオープンしました。出典:about.hm.com
ファストファッションによる環境破壊に対する消費者の認識が高まるのに合わせて、よりサステナブルなショッピングを求める声が高まっています。ドイツの消費者の60%近くが、企業がサステナビリティへの懸念の是正に取り組むことを期待しています。繊維廃棄物において、 循環型社会はサステナビリティの重要な側面となりつつあります。環境問題に関して企業がより責任を負う必要があると消費者が認識している今、消費者がより簡単に(楽に)循環型へ移行できるよう促すことが各企業には求められます。ファッションブランドは、衣料品に使用されているリサイクル素材の認知度を高め、より安い価格帯で提供することで、消費者の購買意欲を高めることができます。繊維のリサイクルへの投資が増えれば、その分コストが下がり、これらのリサイクル素材をカプセルピースだけでなく、コレクション全体の代替素材として使用することが可能になるでしょう。
サステナブル・ファッションのトレンドはいかに革新をもたらすか
テキスタイル・イノベーション
ファッションブランドは、環境に配慮した転換を図って、天然オーガニック素材、環境に優しいビスコース、リサイクル可能な素材やバイオベース素材に切り替えています。こうした既存のエコフレンドリー素材に加え、新しい素材や技術もまた、ファッションブランドのサステナビリティを高めています。例えば、中国ブランドのAimerは、海藻繊維を使用し、天然の抗菌・防ダニ効果があり、着心地が良く、環境にも優しい高級な海洋由来のアンダーウェアやパジャマを開発しています。
Aimerは、海藻繊維を使った革新的な生地を使用しています。出典:instagram.com/aimerofficial/.
循環型ファッションを支えるテクノロジー
中古販売のプラットフォームは、アイテムに新たな命を吹き込む素晴らしい機会を提供していますが、中古品として販売されるアイテムの品質や、需要と供給のバランスによって、販売の成功率は不安定になりがちです。テクノロジーを活用することで、中古品の供給過多に対処することができます。例えば、英国ファッション・テキスタイル協会(UKFT)が主導する「Autosort for Circular Textiles」プロジェクトでは、光学スキャン、ロボット工学、AIを駆使して、再販に適さない衣類をリサイクルする新たな枠組みの開発に取り組んでいます。また、H&Mなどのブランドでは、店舗のレシートや返品を分析するためにAIが使用されており、店舗に必要な商品の数量を調整することで、大量の売れ残り在庫が発生する可能性を低減しています。
ミンテルとともに未来を見据える
ファッション業界におけるサステナビリティへの動きを加速させるために、消費者と企業が行動できる方法は数多くあることが示されました。中古ファッションアイテムの購入と再販は、消費者にとって最も簡単に実行できるエコな取組みです。ファッション・マーケットプレイスや実店舗の中古ショップは、新たな人気の波を享受しており、消費者の取組みをサポートすることができます。
ファッション業界も、中古販売市場を活用し、消費者が以前そのブランドで購入したものを売買できる独自のコミュニティやデジタル・プラットフォームを立ち上げることで、循環型ファッションの需要を活用することができます。また、新品を購入する代わりに、リペアやレンタルサービスを提供することも、サーキュラー・エコノミーに貢献する方法のひとつです。ファッション業界をより長期的にサステナブルなものにするためには、テキスタイルやテクノロジーといった革新的な取り組みへの投資も不可欠です。
サステナビリティと消費者に関する詳細な分析については、ミンテルの「サステナビリティの世界的展望」をご覧ください。
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