美容小売業界では、ショッピングを没入感のあるインタラクティブな体験へと変える「体験型リテール」が活用されています。体験型リテール(エクスペリエンシャル・リテール)は、単に製品を販売するだけでなく、アクティビティ、キュレーションスペース、インタラクティブな要素などを通じて、より感情的に深いレベルで消費者を魅了し、心に残る瞬間を創り出すことに焦点を当てています。
ビューティ専門のポップアップストアや旗艦店は今や消費者の目的地となり、ゲーム型の体験やパーソナライズされたマーケティング活動、ユニークな店内空間などで、買い物客とのつながりを深めています。オフライン、オンラインいずれの美容ブランドにとっても、こうした革新的な小売形態は、デジタル主導の現代において存在感を示し、より強力な消費者エンゲージメントを育むためには極めて重要です。
体験型美容を成長させている要因とは?
店舗チャネルを活用して体験を創り出す
体験型リテールは、ブランドが消費者とつながり、関係を構築するための方法としてますます人気になっています。膨大な量の製品にアクセスできるデジタル時代においては、ブランドが消費者を惹きつけ、彼らの意識に残り続けることはこれまで以上に難しくなっています。それに加え、SNSにより美容が「無機的なモノ中心のカテゴリー」から「ライフスタイル」へと変化し、新型コロナによってオンラインチャネルが便利な手段として確立されたことで、店舗はその存在意義を確保するために、体験重視のアプローチへと舵を切っています。
このことから、オフラインでの買い物の役割は「新たな発見」、「つながり」、「ストーリーの構築」へと変化しています。店内でストーリー性のある体験を創り出し、買い物はあくまで二の次、楽しさがメイン、というのがオフライン店舗の魅力です。このシナリオにおいて、店舗の役割は楽しくリラックスした心に残る体験を提供することであり、それによって結果的に消費者と感情的なレベルで結びつき、ブランドロイヤルティを育むことができるのです。
没入型のビューティポップアップで若い消費者を魅了
若い消費者は、特にこうしたアプローチに魅力を感じています。デジタルネイティブとして育ってきたこの世代にとって視覚的な美しさは大きな原動力であり、こうした層は「今この瞬間」に浸ることができる現実的な体験を求めています。このことは、若い消費者の購買行動にも反映されています。アメリカでは、18-24歳の消費者の76%が過去3か月に何らかの形の物理メディア(CD、紙の新聞など)を購入しているのに対し、55歳以上の消費者では53%となっており、若い世代が完全にデジタル志向であるという説を覆しています。また、若い消費者層はオンラインコミュニティに共有するコンテンツとしてこうした物理的なショッピング体験を楽しんでいる側面もあり、「フィジタル体験」というコンセプトを積極的に活用しています。「フィジタル(phygital)体験」とは、現実(physical)とデジタル(digital)の世界を融合させ、オンラインとオフラインのつながり、そしてその両方におけるブランドの存在感が重要であるという考えを表しています。
ビューティブランドはポップアップストアと体験型リテールをどのように活用しているのか
オンラインを現実世界に取り込む
近年Sephoraがイギリスに上陸し、大手ドラッグストアBootsも店内の美容製品ラインナップを拡大させる中、ポップアップストアは、オンライン専業の小売業者・ブランドにとって、認知度を高め、競争の激しいカテゴリーで自社を差別化させるチャンスとなります。
クリスマスシーズンには、Beauty Pie、Look Fantastic、Cult Beautyがロンドンでポップアップストアを開催し、ギフトの購入に最適な存在感をアピールしました。Look Fantasticのポップアップでは、The White CompanyやSNSで人気のブランドSol de Janeiroの製品をカスタマイズできるサービスもあり、来店客はさらに特別感のある、記憶に残るオリジナルなギフトを購入することができました。クリスマスのショッピングシーズンにワンランク上の体験を提供することで、こうした製品をクリスマスギフトとして購入する69%のイギリスの高級美容製品購入者に向けて、強い魅力をアピールできるでしょう。
ユニークで心に残る体験は、消費者にブランドへの好意的な印象を与えるだけでなく、体験型リテールやポップアップストアが持つ感情的なパワーを示すものでもあります。
新規ブランドや独立系ブランドの認知度を高める
SNSやインフルエンサーマーケティングの恩恵により、今では小規模ブランドも発売前から話題性を集めることができます。新規ブランドや独立系ブランドは引き続き、期間限定のポップアップストアなどで美容愛好家を魅了し、SNSでの共有を促すことでエンゲージメントを維持していくことができるでしょう。
昨年10月、イギリスで期間限定ポップアップを開催したRhodeは、イギリス国内に小売店舗を持たないにもかかわらず、同ブランドのファンはポップアップストアを訪れようと何時間も列に並びました。このポップアップの成功は、若い世代が美容に強い関心を寄せていることを反映するものでもあり、イギリスのZ世代では、10人に6人以上が「美容/グルーミング製品について人と話すのは楽しい」と回答しています。
こうした熱量の高いZ世代は、今後も新しい体験、製品、そしてブランドを探し求めるでしょう。そうした中で、ポップアップストアは「新たな発見の機会」として機能するのです。
美容業界における体験型小売の未来
ゲーム型体験を通じて遊び心を刺激する
先進テクノロジーが店舗での体験を一変させ、美容ブランドに貴重なインサイトを提供する中で、体験型美容が勢いを増しています。ミンテルトレンドドライバー「体験」でも述べている通り、現代の消費者は好奇心旺盛で、日常生活の中に興奮や喜びを求めています。こうした変化を推進する主なトレンドの一つに、ビューティポップアップストアでのゲーム型体験があります。ここでは、インタラクティブなコンテストやチャレンジなどのアクティビティが、楽しく記憶に残る体験を生み出し、顧客エンゲージメントを高めています。
オンライン小売店であるCult BeautyやLook Fantasticは、賞品が当たる「もぐらたたき」や、自分で好きなものを選んで組み合わせるカスタマイズ可能なギフトなど、子どもの頃の懐かしい遊びからヒントを得た報酬型ゲームをいち早く取り入れています。こうした遊び心のある戦略は、消費者の感情やノスタルジーに訴えかけ、興奮を呼び起こしながらブランドの認知と購入を促しています。
Cult Beautyはポップアップストアで報酬型ゲームを導入し、没入型マーケティングを活用。
こうしたマーケティング活動が非常に効果的である理由は、ブランド提供の賞品を通じて製品のサンプルに力を入れているためです。消費者に製品を直接体験してもらうことで、信頼を築き、口コミを広め、ロイヤルティを高めることができます。ジョーマローンも、クリスマス限定のビューティポップアップで同様のアプローチを採用し、ここでは賞品を獲得できる巨大ルーレットゲームが設置されました。このポップアップは圧倒的な人気を博し、45分という待ち時間にもかかわらず、来店客はバーチャルキュー(オンラインで列に並ぶシステム)を利用することで、待っている間に近くのショップを探索するなど、よりリラックスした体験を楽しみました。
AI搭載のツールで店頭での「発見」を促す
商品スキャナーなどのAIを搭載したツールが、今新たなトレンドとして浮上しています。Lushが、ロンドン・コベントガーデン店で導入した革新的な「Lush Labs Lens」もその一例です。このテクノロジーは、Lushのパッケージ不使用製品(バスボムやシャンプーバーなど)をスキャンすることで、従来のラベルやパッケージを必要とせず、製品の詳細な情報を得られるというものです。より優れたショッピング体験とサステナビリティをシームレスに組み合わせたアプローチだと言えるでしょう。イギリスでは、美容/グルーミング製品購入者のうち5人に2人以上が店内でスマートフォンを使って製品情報を検索していることから、消費者はテクノロジーを活用することでより便利に店頭で情報収集・検索することに慣れており、また進んでそうした方法を取り入れようとしていることが分かります。
Lushの革新的な「Lush Labs Lens」は、来店客がパッケージ不使用製品をスキャンすることで製品情報を閲覧できるテクノロジーを採用。
写真映えする美しい没入型体験を創り出す
「絵に描いたような美しい瞬間を創り出すこと」は、未来の体験型小売を形成していくトレンドとして勢いを伸ばしており、消費者が写真を撮影し、SNSで共有したくなるような空間・製品のデザインは今、商機となっています。ディプティックの旗艦店はその良い例です。同店は、ブランドのメインの香りであるスパイス、フローラル、樹木、フルーツを取り入れた魅惑的な香り体験を創造しながら、店内全体のデザインをそれと統一させました。注目すべきは、豪華なバスルームをイメージした店内の一角で、没入感のある空間の中にバス・ボディ製品が配置したことです。また、同店ではアーティストLucy Sparrowとの遊び心あふれるコラボレーションも実施され、デリ(お惣菜)やディプティックの象徴的なアロマキャンドルを再現したフェルト製のアイテムを並べることで、店内をクリスマスシーズンの食料品店へと一変させました。こうして生まれた視覚的に魅力的な体験は、ディプティックのブランドを活性化させ、他の企業が真似したくなるようなインスピレーションを与えています。
ディプティックの旗艦店は、クリスマスシーズンの食料品店のような店内デザインで体験型リテールを活用した。
ミンテルとともに体験型マーケティングを活用する
消費者を惹きつけるために没入型の美容体験を積極的に取り入れる小売業者・ブランドは、新しいものにオープンな美容愛好家の高い関心を集めることができます。
一方、さまざまなブランドがよりユニークで印象的な体験を提案する中、2025年のポップアップにおいて存在感をアピールするためには、コラボレーションやゲーム型体験、AIなどを活用しながら、すでに消費者の間で楽しまれているポップアップならではの魅力、例えばSNSでの共有や、自分と同じような美容愛好家に囲まれて製品を試す楽しみなどを維持していくことが重要でしょう。
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