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消費財(CPG)業界では、利便性、パーソナライゼーション、そして価値を求める消費者の需要に後押しされ、サブスクリプションベースのビジネスモデルが大きな成長を遂げています。サブスクリプションボックス*の登場により、消費者の習慣は変化しつつあり、ブランドには顧客ロイヤルティや継続的な収益を確保するための新しい道が開かれています。かつてはビューティボックスに限られたニッチなコンセプトだったサブスクリプションモデルは、今や食品から家庭用品、美容・化粧品に至るまで、さまざまな業界で広く普及する現象となっています。

本記事では、サブスクリプションベースのモデルがCPG市場をどう変革しているのか、より広い定着を妨げる障壁とは何か、同市場におけるイノベーションの事例、そしてブランドがサブスクリプションエコノミーに適応し、成功していくために取るべき行動とは何かを詳しく概説しています。

*サブスクリプションボックスとは、定期的に商品が届くサービスのこと。

サブスクリプションベースのモデルとは?

サブスクリプションベースのモデルとは、顧客が月額または年額の料金を支払って製品・サービスを利用するビジネスモデルを指します。CPG業界では、このモデルにより物理的な製品の定期購入を自動化し、時間を節約しながら安定した供給を実現していくことができます。サブスクリプションは予測可能な収益を生むだけでなく、定期的なデータ収集を通じて消費者の好みに関するより詳しいインサイトを得ることができるため、1回限りの購入と比べて特徴的だと言えるでしょう。

ビューティ・パーソナルケア業界におけるサブスクリプションサービスのトレンド

ビューティ・パーソナルケア(BPC)製品のサブスクリプションボックスサービスは目新しいものではありませんが、実績と消費者の需要に後押しされ、今なお成長を続けています。アメリカでは消費者の相当数にあたる59%BPC製品のサブスクリプションサービスを使用したことがあると回答しています。

美容業界におけるサブスクリプションモデルは、新しい発見、コストの削減、バリエーションの豊富さ、パーソナライゼーションを提供しながら、贅沢感と魅力的な価値を融合させることで成功を収めています。

美容系サブスクリプションサービスの種類:

  1. 補充型サブスクリプション
    このサブスクリプションは、特定の美容・グルーミング製品の定期配送を自動化したものです。主な例としては、カミソリや関連するパーソナルケア製品を定期購入者に配送するDollar Shave Clubが挙げられます。

  2. 発見型・キュレーション型の美容系サブスクリプションボックス
    Birchboxが先駆けとなったこのサブスクリプションは、消費者が新たなBPC製品を「発見する」方法に革命をもたらしました。定期購入者の好みに合わせてセレクトされるこうした美容系サブスクリプションボックスは、トレンドの製品サンプルをフルサイズで採用していることが多く、パーソナライズされた楽しい体験を届けています。Birchboxは、個々のユーザーの美容ニーズに合わせてボックスをカスタマイズするというサービスの基準を打ち立てた一方で、Think Beautyなどのブランドは「クリーン」な成分で評価された製品を厳選した月1の定期便を発売し、クリーンビューティ愛好家にアピールしています。

  3. 会員制サブスクリプション
    Beauty PieThrive Marketなどのブランドは、消費者が定期的に料金を支払うことで限定BPC製品へのアクセスや割引、新製品の先行販売、無料配送、限定イベントなどのサービスを利用できるメンバーシップモデルを採用しています。

  4. プロフェッショナルサービス提供型サブスクリプション
    現在、一部のビューティサロンやグルーミングサロンでは、無制限のヘアカット、フェイシャルエステ、マッサージなどを提供するサービス提供型サブスクリプションが導入されており、多くの場合は会員制ジムに似た段階式の料金プランが設定されています。例えば、イギリスのThe 5 Elementは、男性客が月額40ポンドを支払うことで無制限にヘアカットを受けられる2種類のサブスクリプションプランを提供しています。

食品業界におけるサブスクリプションサービスのトレンド

食品業界では近年サブスクリプションサービスのブームが巻き起こっており、時間に余裕のない消費者に向けた便利なソリューションが登場しています。ミールキットから必需品の定期便に至るまで、こうしたサービスは鮮度保持型の安定したサプライチェーンを求める需要の高まりに寄り添っています。このようなサービスは多忙な社会人や家族連れを中心に特に人気が高く、アメリカの消費者の62%が食品・飲料のサブスクリプションサービスを利用したことがあるというのも驚くことではありません。実際、イギリスではオンラインで食品を購入する消費者の50%が、スーパーマーケットに個別の製品のサブスクリプションを提供してほしいと考えており、就学期の子どもを持つ親ではこの割合が4分の3近くにまで上昇しています。

食品サブスクリプションボックスの種類:

  1. 補充型サービス
    これは、特定の食品の購入・配送を自動化した定期便サービスです。例としては、利便性をアピールするAmazon定期おトク便が挙げられます。

  2. ミールキットサブスクリプション
    このサービスでは、調理済み食品や自宅で調理するのに必要な分量の食材とレシピがセットになったミールキットが届きます。主な例としては、健康、サステナビリティ、利便性を重視したHelloFreshやBlue Apronなどが挙げられます。

  3. フードロス削減・サステナビリティサブスクリプション
    このサービスは、余剰食品や賞味期限が近い食品を割引価格で提供することにより、フードロスの削減や環境意識の高い消費者へのアピール拡大を目指しています。このサービスの先駆者であるUnwasted(リンクはミンテルのクライアントのみ閲覧可能)は、ペプシコなどのブランドの製品が入ったミステリーボックスを注文できるサービスを提供しています。

サブスクリプションボックスが消費者の購買習慣を変える

サブスクリプションボックスの特徴は利便性だけではありません。こうしたサービスは単に配送を自動化するだけでなく、消費者の購買習慣を一変させています。利便性、目新しさ、コスト管理のバランスが取りやすいことから、消費者はこうしたサービスを高く評価しています。

利便性と時間節約

若い社会人や親などの層にとって時間を節約できる要素は不可欠です。サブスクリプションサービスでは、店舗に足を運ぶことなく定期的な買い物を自動化し、スケジュールに空きを持たせることができます。例えば、

  • アメリカでは親の83%が「サブスクリプションサービスは便利な買い物手段」だと考えているのに対し、親でない消費者ではこの割合が68%にとどまります。
  • Z世代とミレニアル世代の10人に8は、「時間を節約できる点でサブスクリプションサービスは便利な買い物手段」だと回答しています。

時間に余裕のない多忙なライフスタイルを踏まえると、親は利便性を重視し、信頼できるブランドにこだわる傾向が高いと言えます。こうしたトレンドを活用するために、ブランドはシームレスな配送を実現する直販型サブスクリプションサービスを導入し、必需品を常に提供できる状態にしておくのがよいでしょう。また、ヒントやアドバイス、ブログ、ポッドキャストなどを活用して付加価値を届けることで、ロイヤルティをさらに高めることができます。

新製品の発見・お試し

キュレーション型のサブスクリプションボックスは、特に若い世代を中心に「発見」の場として重要な役割を果たしています。ミンテルの調査では以下のことが明らかになっています。

Z世代やミレニアル世代は目新しさを求めたり新しいブランドを試したりする意識が強く、トレンドを先取りする傾向にあります。サブスクリプションサービスでは、こうした消費者行動を活用することで新製品や新ブランドの受容度を測ることができるでしょう。また、ブランドはサンプルやアドオンを活用することで、こうした新しいもの好きな世代に製品を届けることができます。

家計管理と「価値」への認識

ドイツでは消費者の55%が「経済的な圧迫から新規のサブスクリプションに登録するのは気が乗らない」と感じていることから一部の消費者はコストを警戒する姿勢を見せていますが、とはいえ多くの人々はサブスクリプションを「長期的にコストを分散させるための方法」と捉えています。

サブスクリプションに対する消極的な意識に対抗するために、ブランドは価格の透明性を伝え、簡単にキャンセル・一時停止できるといった柔軟性をアピールしていく必要があります。

サブスクリプションサービスの導入における障壁

サブスクリプションにはさまざまなメリットがありますが、CPG業界ではサブスクリプションの普及を妨げる障壁もあります。ここでは、消費者がサブスクリプションサービスを利用するにあたって直面する主な障壁と、サブスクリプションサービスへの不安を解消する上でブランドに何ができるかを詳しくご説明いたします。

コストや金銭面での懸念

前述したように、サブスクリプションサービスのコストは大きな障壁の一つとなっており、イギリスでは約半数の消費者が「経済的な圧迫からサブスクリプションの契約数を減らした」と回答しています。同様に、アメリカの消費者の3分の1が、サブスクリプションサービスを避ける主な理由として「費用」を挙げています。

こうした懸念に対処するために、ブランドは1回ずつ製品を買う場合と比べて全体的に節約できるコストを強調した価格戦略を明確に伝えていく必要があります。

柔軟性の欠如

消費者はサブスクリプションにおいて自由度や柔軟性を重視しているため、融通の利かない配送スケジュールや厳しいキャンセルポリシーなどはサブスクリプションの利用を妨げる可能性があります。例えば、ミンテルのインサイトでは以下のことが明らかになっています。

こうした買い手の迷いを解消するために、ブランドは始めやすさ、配送の一時停止オプション、シームレスな返品ポリシーなどに力を入れていく必要があります。

品質保証

イギリスでは消費者の5人に3が「サブスクリプションサービスで提供される製品の品質に不安がある」と感じており、これが大きな障壁となっています。消費者の多くは、製品を試してからでないと思い切った投資はできないと考えています。

こうした不安を解消するために、サブスクリプションサービスでは先行して製品を試せる無料トライアルや小さめのお試しキットを提供したり、マーケティングで利用者の「実際の声」を大々的に取り上げたりするアプローチで、製品の品質に対する安心感を届けることができるでしょう。

CPGブランドはサブスクリプションエコノミーにどう対応できるか

サブスクリプションエコノミーは今後も成長していくと予想されており、戦略を見直す姿勢のあるCPGブランドにとっては大きな商機が訪れています。以下の取り組みを導入することで、CPG市場はサブスクリプションコマースのポテンシャルを最大限に活用することができるでしょう。

  1. オムニチャネル戦略を強化する
    消費者は、オンラインと実店舗の体験のシームレスな統合を特に重視しています。実際、ミンテルの調査結果によると、アメリカのミレニアル世代の約半数が「店舗でサブスクリプションの製品を受け取りたい」と回答しています。CPGブランドは小売戦略の一環としてサブスクリプションサービスの導入を検討するのがよいでしょう。これにより、消費者はサブスクリプションを管理したり、店舗で製品を受け取ったり、店舗で買い物しながらサブスクリプションサービスを発見するといったことがやりやすくなります。

  2. パーソナライゼーションを重視する
    パーソナライゼーションはもはや一選択肢ではなく、欠かせない要素となっています。配送スケジュールを選択する、製品の種類を選ぶ、サブスクリプションを一時停止するなど、利用者にサービスをカスタマイズできる選択肢を提供することで、満足度、ロイヤルティ、顧客維持率を高めることができます。

  3. サステナブルで環境に配慮した製品への需要に応える
    環境への懸念が高まる中、消費者の購入プロセスにおいてサステナビリティは重要な要素となっています堆肥化可能なパッケージ、サステナブルな製品、倫理的な調達、大容量の詰め替え製品といった環境への取り組みを導入することで、環境に対する不安に対応していくことができるでしょう。こうした取り組みは環境負荷を低減するだけでなく、競争の激しい市場でブランドを際立たせることにもつながります。

  4. 限定割引やメンバー特典を提供する
    限定割引やメンバー特典はサブスクリプションサービスに付加価値を与え、顧客ロイヤルティを高めていくための優れたアプローチです。消費者は会員特典、長期利用者向けの割引料金、特別優待サービスなどに強く惹かれます。こうした特典を提供することで、顧客体験を高め、サブスクリプションサービスの長期的な利用を促すことができるでしょう。

ミンテルと共にサブスクリプションエコノミーの未来を切り開く:次に来るものとは?

CPG業界ではサブスクリプションモデルの人気の高まりにより、消費者の購買行動やブランドとの関わり方が大きく変化しています。このアプローチで成功を収めるためには、柔軟で手頃な価格、かつパーソナライズされたサービスの提供に力を入れていく必要があります。またサブスクリプションモデルでは、ブランドの魅力的なストーリーが独自の商機となります。丁寧なマーケティングを通じてコストや柔軟性などの一般的な懸念に寄り添うことで、忠実かつ持続的な顧客基盤を築いていくことができるでしょう。

皆様はブランドの製品ラインナップをアップグレードさせ、自社顧客にサブスクリプションサービスを提供する準備はできていますか?ミンテルでは、急速に変化するCPG市場でビジネスが一歩先をリードするためのインサイトや戦略をご提供しています。

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