パッケージと食品の廃棄は、食品・飲料バイヤーにとって最も重要な環境問題です。
現在、家庭用・産業用を問わず、世界中で毎年何百万トンもの食品廃棄物が発生しています。地球のためになるサステナブルな食生活を実現するためには、政府、生産者、小売業者、そして消費者が食品ロスや廃棄の削減に取り組むことが重要です。
この記事では、食品廃棄物の削減、食品廃棄に対する消費者の意識、そして現在から未来に渡って食品廃棄と戦うためのイノベーションに焦点を当てていきます。
テクノロジーが実現する新しい食品廃棄削減の方法
テクノロジーの進歩、中でもAIは、食材を最大限に利用して廃棄を回避するなど、サステナビリティの基準を高めることに貢献できるでしょう。
オランダの在庫管理・廃棄物追跡ツールのOrbiskは、すでに外食産業で期待できる結果を出しています。AIが厨房から廃棄される食品をスキャンし、食材の発注、消費、さらには廃棄を最小限に抑えるのに最適なポーションサイズを計算します。AIによって強化されたこのようなプロセスは、外食事業者が食品廃棄削減戦略を成功させるための下地となるでしょう。
出典:orbisk.com
AIの導入は食品小売業者にも利益をもたらすでしょう。ドイツでは、ReweやTeGutなど一部のスーパーマーケットが、食品廃棄量を半減させるという政府の計画に沿うべく、すでにダイナミック・プライシング・システム(需要に応じて価格を変動させるシステム)を試行しています。Reweはケルンの店舗で、野菜やパンなど、売れ残りやすい商品の購入を促すため、生鮮品のダイナミック・プライシングを含む、AIショッピング体験を導入しました。
Hellmann’sはAIで消費者の食品廃棄と戦う
ドイツ人の42%が
生成AIを使用したことがあるか、
使用することに関心を持っています。
食品廃棄対策に活用されている技術とは?
2024年4月、Hellmann’sは、消費者が食品廃棄削減に貢献できるよう設計されたツール、「Meal Reveal」を発表しました。AI技術を活用したこのツールは、ユーザーが冷蔵庫内の食品をスキャンすることで、画像認識によって食材を識別し、食材の量に応じたレシピを提案します。これにより、ユーザーは冷蔵庫にあるものを最大限に活用することができます。
Scrapsational:食品のアップサイクルと再利用による食品廃棄削減計画の推進
不完全な食品への認識を変え、食品廃棄につながる消費者行動を変える
ミンテルの市場調査によると、2018年から2021年にかけて、イギリスの家庭だけをみても、排出される食品廃棄物が13%増加しています。Too Good To Goは、家庭における食品廃棄をターゲットに、「Look-Smell-Taste」と呼ばれる代替ラベル表示を提供しています。このラベルは、消費者に従来の賞味期限表示ではなく、自分の感覚によって判断することを促すものです。M&Sは、食品廃棄を減らすため、300以上の青果物から、賞味期限の表示を撤廃しました。同様に、ドイツ人の50%近くが家庭からの食品廃棄を減らすことで環境への影響を改善しようとしており、イギリスの消費者が食品廃棄を減らす取り組みとして最も魅力を感じるサステナビリティ訴求のトップ4には、規格外の不揃いな野菜がランクインしています。
Too Good To Goや同様の事業者が取り組んでいる課題は、「不完全なものは低品質だ」と思われがちだということです。ですが、小売業者は、例えば形がいびつなリンゴのような外観上の欠陥について説明したり、売れ残りを防ぐためのタイムセールなどを最大限実施することで、「見た目が悪い青果物」についての認識を変えることができるのです。
出典:toogoodtogo.com
見た目が悪い商品の味、食感、栄養面での利点を説明することも、消費者の認識を変えるのに役立ちます。ブランドや企業は、熟しすぎたり、形が悪かったり、皮をむいていない農産物のメリットを強調すべきです。M&Sが25ペンスで販売している 「Extra-Ripe Bananas」は、形はいびつであれど、甘みが強く、バナナブレッドに最適です。Belvivaの「Uglies Fries」は皮付きでサイズも不揃いですが、食感のバリエーションと豊富な食物繊維を提供しています。しかし、2024年に発売された食品のうち、アップサイクルに訴求したものはわずか1%に過ぎず、例えば調味済み小麦粉など、ブランドや企業が開拓すべき余地があります。
価格を下げることで、不完全な製品の購入を促す
- ベルリンで4店舗の食料品スーパーマーケットを運営するSIRPLUSは、大手スーパーでは販売が難しい規格外野菜や果物、賞味期限間近の食品を生産者や卸売業者から仕入れ、低価格で販売しています。日本でも同様に、ディスカウントストアで不完全な商品のクリアランスセールが開催されています。
- ドイツのディスカウントストア、Lidlは3ユーロの「レスキュー・バッグ」として、野菜や果物を販売しています。
- Perfektoはメキシコのスタートアップ企業で、状態が良いにもかかわらず、売れにくいという理由で生産者によって廃棄されがちな果物や野菜の救済に力を入れています。消費者は、あらかじめ自身が設定した好みに応じて定期購入し、より安価に商品を調達できます。商品は可能な限り簡易な梱包で消費者の自宅に配送されます。
出典:instagram.com/perfektomx
循環性が食品廃棄と闘うイノベーションに火をつける
食品廃棄物を利用したアップサイクル食品は、徐々に人気を集めています。例えば、日本のファーストフードチェーンである吉野家は、不揃い玉ねぎのパウダーを使ったパンなど、アップサイクルであることをアピールした商品を発売しています。イタリアのスタートアップ企業であるPacktinは、食品製造の過程で出る、オレンジの皮のような副産物を低温乾燥させ、小麦粉にするという特許取得済みの製法で、風味豊かな小麦粉にアップサイクルする方法を開発しました。この食品廃棄物削減方法により、小麦粉は原料の天然の風味と栄養価を保持したまま、エネルギー使用量を最小限に抑えることができます。
ドイツのSIRPLUSは不完全な製品の販売に重点を置く一方、不完全な農産物を購入し、プライベート・ブランド商品に生まれ変わらせています。この取り組みは、廃棄処分予定の生鮮食品を、ジャムやアーモンドバターのような日持ちのする食品に変えて寿命を延ばすことで、より多くの食品を救済することを目的としています。
しかし、食品廃棄物削減の取り組みにおける循環性は、食用製品にとどまりません。食品廃棄の未来はどうなっていくのでしょうか?
- アイルランドで食品廃棄物処理に取り組むスタートアップ企業であるMyGugは、食品廃棄物を再生可能エネルギーに変換し、厨房で使用される電力に変換する方法を発見しました。同社の最も小型のバイオダイジェスター(家畜の糞尿や生ごみを溜めて発酵させ、メタンなどのバイオガスを生成する装置)は、1日に最大5.5キログラムの食品廃棄物を処理し、最大3時間の調理時間と11リットルの肥料に変えることができます。
出典:mygug.eu
- 廃棄物を減らすために生鮮食品に適用されるべき割引価格を決定するAI技術を採用し、食品廃棄物削減戦略をさらに効率化している、日本のコンビニチェーンも登場しています。
ミールキットによる食品廃棄削減の取り組み
ミールキットは、
レストランのような調理済みの料理が、
家での調理の手間なく食べられるため、
イギリス人の29%が魅力を感じています。
カナダで食品や飲料を購入する際に最も重要視されるのは「価格とヘルシーさ」ですが、食品廃棄物に対する消費者意識に関するミンテルの調査では、環境の重要性も浮き彫りになっています。ミンテルの「Canada Delivery Services and Meal Kits Report」によると、ミールキットの利用者の多くは、定期購入ボックスのメリットとして、適切な分量が提供されるため、食材の無駄が少なく、使いきれずに賞味期限切れになる食材の買い過ぎを防げる点を挙げています。
地元産の製品やリサイクル可能なパッケージは、カナダ人にとって最も共感できる環境への取り組みです。ミールキットの定期購入ボックスは、利用者の地元で調達された食材をボックスに入れて、可能な限り最小限のパッケージやリサイクル可能なパッケージにすることで、二酸化炭素排出量削減を求める消費者にとってさらに魅力的なサービスを提供することができます。
ドイツで定期宅配ミールボックスを提供するwyldrは、さまざまな食品廃棄削減策を組み合わせた商品でアピールしています。
- 利用者の自宅にパーソナライズされたレシピが届くので、使い切れずに無駄になる食材を減らすことができる
- 地域や季節の食材、形の悪い果物や野菜を使用
- 配送による二酸化炭素排出量を削減する循環型配送システムを採用
複数の食品廃棄削減の方法を1つの商品に採用している。
出典:wyldr-bio.de
しかし、ミールキットの事業者にとって残るハードルは、価格です。献立を考えたり、食料品を買ったりする必要がなく、サステナブルであるという利便性を提供するには、単に食品や飲料を購入する際と比べると、高額になりがちです。
ブランドや企業は、価格の妥当性を示し、製品の利点が価格を上回ることを購買者に納得させるためのメッセージングに注力する必要があります。
食品廃棄削減戦略の重要な柱:政府の政策と小売店の取り組み
政府の規制が、食品廃棄削減に向けた法的支援を提供
消費者の環境意識は高まっており、個人の責任はよりサステナブルな行動をとるための強力な原動力となっていますが、食品廃棄を削減する行動戦略の成功には、政府が基盤を提供する必要があります。アメリカやフランス、その他の市場では、残った食品の寄付を求めるなど、多くの規制を企業に課しています。
- 2016年、フランスは食品ロスを抑制する法律を初めて導入し、400平方メートル以上のスーパーマーケットに対し、売れ残った食品の廃棄をやめ、代わりにフードバンクや慈善団体への寄付を義務付けました。違反した場合には罰金が科されます。この法律の制定後、食品の寄付は10%以上増加したと言われています(クライアントのみアクセスできます)。
- また、イタリアも2016年に食品ロスを削減するための法律を制定し、廃棄物削減のマイルストーンを達成した企業に税制優遇措置を与えることを決めました(フランスの懲罰的なアプローチとは対照的です)。
- 中国には、もてなす側が客が食べきれないほどの料理を出し、客が食事の終わりに皿に料理を残すことを期待するという、おもてなしに根ざした長年の伝統があります。しかし、中国都市部におけるケータリング業界は、毎年約1,800万トンの食品廃棄物を生み出す原因となっているため、現在ではこのような行為に対して罰金が導入されています(クライアントのみアクセスできます)。
日本においても2025年3月現在、食品期限表示に関する指針の見直しが行われており、他国と同様に食品ロス削減にむけて国として取り組もうとする方向性が見えます。
食品廃棄への取り組みで小売業者が団結
「Pakt gegen Lebensmittelverschwendung」(「食品廃棄に反対する協定」という意味)と呼ばれるイニシアチブが、2023年7月にドイツの食品農業省によって策定され、現在、Aldi、HelloFresh、Lidlなどの小売、卸売、ミールキット宅配企業14社が署名しています。
署名している企業は、食べられる食品をフードバンクに寄付し、食べられない食品を家畜の飼料として使用することを約束しています。
ミンテルとともに未来を見据える
これまで見てきたように、食品廃棄物に対する考え方は変わりつつあり、消費者の中での優先順位は上がっています。
環境への脅威と闘うには、食品ロスや廃棄を減らすという共通の目標に向かって、政府、企業、消費者が協力することが鍵となります。
この記事から得られる主なイノベーションと食品廃棄に関する消費者行動
- テクノロジーの進歩を活用する:AIを搭載し、冷蔵庫にある食材と連動するように設計された在庫管理システム。
- 不完全な製品に関する意識の変革:小売業者は、不揃い野菜や不完全な商品に対する認識を変える力を持っています。
- 循環型経済の実現への取り組み:食品廃棄物は、より長持ちする製品(調味済み小麦粉など)や再利用可能なエネルギーに変えることができます。
また、本テーマについて日本の状況を把握されたい方は、ミンテルジャパンレポート「食品・飲料におけるサステナビリティ – 2024年」で更に詳しく解説していますので、ご興味のある方はぜひミンテルジャパンまでお問合せください。
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