コンサート時代に突入、ライブ音楽業界にチャンス到来

コンサート時代に突入、ライブ音楽業界にチャンス到来

Published: 2025年1月29日
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コロナ禍からの回復や、テイラー・スウィフトの「Eras Tour」、ビヨンセの「Renaissance Tour」、ハリー・スタイルズの「Love On Tour」などの著名アーティストによるツアーが、ライブ音楽やイベント業界の成長を後押ししています。ミンテルのデータによると、2024年のコンサートや音楽フェスへの参加率は上昇傾向にあり、コロナ前の水準に近づいています。これはチケット価格の上昇や生活費危機の中での付帯費用などのインフレが一因となっています。

上記のような有名アーティストが大成功を収める一方、小規模なライブハウスはどのような状況にあるのでしょうか。これらの疑問について理解を深めるために、ミンテルはコロナ終息後の英国のライブ音楽市場の回復や技術の進歩が業界にどのような革命をもたらしているのか、そしてトレンドや消費者行動の変化について詳しく掘り下げます。

2023年、英国のライブ音楽市場規模は推定33億ポンド(2025年1月時点の為替で約6446 億8800万円)に達し、ライブイベントが完全復活を遂げた最初の年となりました。この見事な回復は、音楽分野での長年の制限や中止に対する反動と、インフレによる価格上昇が背景にあります。しかし、価格の上昇にも関わらず、多くの人がライブイベントへの参加を望んでいます。

フェスとライブ音楽市場の長い道のり

大規模なイベントや会場が繁盛する一方で、小規模な会場は依然としてコロナの影響を受けており、コンサートや音楽フェス市場には「二層構造」の課題が生じています。残念なことに、トップレベルの市場が活況を呈している一方で、小規模のライブ音楽シーンはコロナが終息しても十分な恩恵を受けていません。この二層化の進行は、業界の長期的な持続可能性に脅威をもたらしています。

小規模会場を支える音楽フェスのマーケティング戦略

多くの音楽ファンは、有名海外アーティストだけではなく、海外旅行中での現地の音楽体験にも興味を持っています。これは「本物の発見」を求める現代の旅行トレンドと一致しています。小規模会場を本物の地元音楽を体験できる場所として位置づけることは、音楽フェス広告において重要なメッセージ要素となります。ライブイベント検索サイトが、旅行先に応じたイベントを提案する仕組みを作ることで、これを最大限に活用できます。

また、ライブ音楽市場でますます重要になっているSNSの活用も、重要な役割を果たすでしょう。SNSで「地元で開催されるイベント情報」を提供することで、苦境に立たされている小規模音楽シーンを支援することができます。

チケット販売規制の変化がライブ音楽市場に与える影響

コンサートや音楽フェス市場は一見成長しているように見えていますが、裏側では矛盾した行動パターンが見られます。英国の音楽ファンの半数以上が「チケット価格の上昇によりイベントの参加数を減らした」と回答しているのです。彼らは支払いコストを分散させることができる柔軟な支払い制度を求めており、チケット販売業者や会場はこのニーズに対応できれば新たなチャンスとすることができます。

もちろん、インフレがチケット価格高騰の理由の1つですが、大規模な「必見」イベントへの需要がチケット販売サイトの「ダイナミックプライシングモデル」の傾向を強めており、結果として、完売イベントのチケットが転売サイトで高額取引されるという現象が起きています。過去 1年間で、英国のライブ参加者の40%近くが、転売サイトから音楽コンサート/フェスティバルのチケットを購入する際に高額な支払いをしています。

2021年8月、競争・市場庁(CMA)は、成長を続ける英国のライブイベント二次チケット部門に対する規制の大幅な強化を勧告しました。2024年3月、キア・スターマー新首相は、次期労働党政権がチケットの転売価格に上限を設け、個々の転売業者が出品できるチケット数を制限し、CMAに転売業者やプラットフォームに対して迅速な措置を講じるために必要な権限を与えると発表しました。

革新的な技術と意識がライブ音楽業界に新しい風を吹き込む

ライブ配信、VR/AR、AIを駆使したアバターコンサートなどの技術は、すでにライブ音楽市場に変革をもたらしており、今後も新たな収益源を開拓していくと同時に、「本物」に対する消費者の欲求を強めることになるでしょう。

未来的な「アバターライブ」がライブ音楽市場に革命を起こす

ABBA Voyage をきっかけに、「アバター ライブ」の新たな波が、もはや生で見ることができない伝説のアーティストたちの寿命を延ばそうとしています。このような体験を可能にする AI とホログラムのテクノロジーは、ライブ パフォーマンスに新たな大きな収益源をもたらし始めており、ABBA Voyage の成功に続いてエルヴィスとKissが続くことになっています。没入型体験のスペシャリストである Layered Reality は、2024 年に東京、ベルリン、ラスベガス、ロンドンで Elvis Evolution を立ち上げる予定です。

ミンテルの英国の音楽フェスティバルやコンサートに関する調査によると、コンサートやフェスティバルの参加者のほぼ 4 人に 1 人がバーチャルアバターのコンサートに興味を持っていることがわかりました。

2025年1月まで延長されたABBA Voyageの2年間の公演は、この新しい形式のノスタルジックな魅力を示しました。50〜60歳が最大の客層を占めているとされる一方、24歳以下の若いファンも10人に1人いるといわれています。「スローバック・トレンド」は、は、ポピュラー・カルチャーにおけるノスタルジアの強力なアピールを探るもので、オリジナルを体験したことのない若い人たちにも活用できます。特にライブ音楽市場や音楽フェスティバルの広告に適しています。

コンサートやフェスティバルでのコミュニティ感の持続を願って

テイラー・スウィフトが『Long Live』で「私たちが動かしたすべての山に乾杯。あなたとドラゴンと戦ったあの時間は人生最高だった(Long live all the mountains we moved. I had the time of my life fighting dragons with you)」と歌うように、コンサートやフェスティバル参加者の間に生まれるコミュニティ感や一体感は重要な要素となります。音楽イベントは、参加者たちにとって、友人や家族、新しい人々と交流することができる場なのです。コンサートやフェスティバルに参加する主な理由が特定のバンドやアーティストを見ることがである一方で、ドイツでは参加を予定する人の半数近くが、社会的な側面など他の要素を重視しています。

英国では、親が子どもに音楽文化を紹介するなど、複数世代の家族が一緒にフェスティバルに参加する傾向があります。これは、世代を超えた共有体験や絆の重要性を反映しています。

家族の絆を深める経験に加え、イベントは帰属意識やコミュニティ支援を育むこともできます。『The Eras Tour』で見られた多数の「ファンプロジェクト」がその例です。例えば、イベントで友人や見知らぬ人と友情のブレスレットを作ったり交換したりすることや、コンサートの特定の場面でパフォーマンスに関連するファンの合唱などがあります。これらのプロジェクトは特定の場所で始まり、その後SNSを通じて共有され、世界中の次の公演で広く採用されるまでに至りました。

これはまた、コンサートや音楽フェスティバルのブランディングにおけるSNSの重要な役割を示しています。英国のSNS利用者の3人に1人が、コンサートやフェスティバルを含むイベントの情報収集のためにFacebookを利用しています。また、ライブ音楽市場でも、イベントをフォローするためにSNSを使用することもあります。『The Eras Tour』ではチケットを入手できなかった多くのファンが、オンラインのライブ配信を通じて公演を楽しみました。また、Instagramのようなプラットフォームは、アーティストが投稿を通じてファンに直接メッセージを送ったり、舞台裏や特典コンテンツを共有したりすることで、ファンと繋がる場を提供しています。

テイラー・スウィフトがカーディフの観客に感謝の意を表すインスタグラムの投稿。
出典: https://www.instagram.com/taylorswift/ 

テイラー・スウィフトは各都市でのコンサートが終わるたびに、自身のInstagramページでその都市でのパフォーマンスの自然体の写真とともに、観客に感謝と称賛の言葉を述べることを習慣としています。

音楽パフォーマンスがライブの中心的な要素である一方で、コンサートやフェスティバルに参加する人々にとっては、こういったことが同じくらい重要な側面であることがわかります。このことを企業のマーケティング目線で考えると、コンサートやフェスティバルを参加者にとって特別で多面的な体験として宣伝することで、イベント後も長く心に残る思い出として人々の共感を得ることができるのです。

ミンテルとともに未来を見据える

今後、ライブ音楽市場における二極化の傾向はさらに拡大していくでしょう。コンサートやフェスティバルに大金を費やす「スーパーファン」層が価値成長を牽引する一方で、小規模会場は、運営維持に奮闘しながら、継続的な課題と閉鎖の危機に直面することが予想されます。

技術の進歩は、ライブストリーミングや仮想現実(VR)/拡張現実(AR)、AIを活用したアバターコンサートなどを通じて、コンサートや音楽フェスティバル市場を引き続き革新していくでしょう。これにより新たな収益源が開かれる一方で、「本物」に対する消費者の需要がさらに強化されることになります。

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