2024年の消費者は前年に比べ、全体的に経済的余裕を感じています。労働市場の回復、堅調な賃金上昇、インフレ率の低下などが相まって、家計の負担が軽減されたことが主な理由だと考えられています。今後の経済見通しはやや明るいものの、各地域の消費者は引き続き控えめで、慎重な購買行動を心掛けています。
本記事シリーズでは、新型コロナの影響により消費者の購買行動がどのように変化したか、また消費者が経済不安から依然としてどのような影響を受けているかを詳しく概説いたします。前編では、度重なる外出自粛や厳しい経済情勢の影響により家計が悪化する中で、世界中の消費者が購買や消費習慣をどのように切り詰め、調整してきたかを取り上げます。2部構成シリーズの第1弾となる本記事では、可能な限りお金を有効に活用したいという消費者のニーズをサポートすることで、貴社がいかに消費者から求められる存在であり続けることができるかを紐解きます。
マクロ経済的要因は消費者の購買行動にどのような影響を与えているか?
イギリスの家庭では、物価上昇による家計の負担を軽減するため、長期にわたり支出の優先順位や購買行動が見直されてきました。インフレの落ち着きによりここ数か月の消費者心理はいくらか改善したものの、イギリス人の大半はまだ生活費の逼迫を回避できたとは考えていません。つまり、マクロ経済的な状況の改善が消費者の意識に反映されるまでには、時間がかかるのです。これは金利や家賃の上昇といった今なお継続する課題を反映したものでもありますが、同時に、ここ数年で直面した危機による心理的影響を引きずっていることも示唆しています。多くのイギリスの消費者は、製品やサービスを大幅に変更するよりも、日々のお金の使い方を見直そうと心掛けています。こうした人々の焦点は、現在のお金の使い方から最大限の価値を引き出すことであり、特定の支出カテゴリーを完全に切り詰めることには消極的です。昨年、多くの消費者が生活必需品カテゴリーへの出費はほぼ変えていないのに対し、レジャーや高級食品などの「不要不急」カテゴリーへの出費は控えています。今後経済が回復するにつれ、イギリスの消費者は高額な買い物や高級品への出費を再開すると考えられていますが、とはいえ引き続き強い警戒心も持っていることから、消費者の財布の紐が完全に緩まることはなさそうです。「不要不急」カテゴリーのビジネスチャンスはむしろ成長していますが、企業は引き続き強力な「価値」のメッセージを伝えることで、お金を払う価値を人々に納得させる必要があるでしょう。
一方アメリカでは、ここ数年の経済危機にもかかわらず、消費者の購買意欲は高い水準を維持しています。しかし、だからといって消費者は予算配分をまったく見直していないというわけではありません。アメリカの消費者は、ディスカウントストアやプライベートブランド製品にますます切り替えているほか、今後アメリカ経済が直面する事態に備えて貯蓄を優先しています。
イギリスと同様に、ドイツの消費者も経済の先行きに悲観的な見方を抱いています。危機に次ぐ危機により消費者の間で疲労感が増し、経済的な見通しに不安が募っています。その結果、高インフレの時期に定着した慎重な購買習慣はそのまま継続し、支出の削減を余儀なくされたドイツ人は、住宅購入などの長期的な目標や優先事項の見直しを迫られています。一方、ドイツの消費者は、世帯収入の変化についてはそこまで悲観的ではありません。その理由の一つに、ドイツの消費者は自分の経済状況に対し深い理解があり、マクロな課題に影響されず家計をコントロールする能力があることが挙げられます。しかし、この二つの要素は本質的に関連しており、経済の先行きを悲観する消費者心理は、消費者の経済的な安心感にも直接的な影響を及ぼす可能性があるでしょう。
新型コロナの流行による経済的な影響により、アジア太平洋地域では大きな変化が見られました。同地域の多くの消費者が経済不安を経験し、これにより大規模なコストカットや失業が相次ぎ、アジア太平洋地域の失業率は今後もさらに高まる見込みです。これを受け、中国の消費者は自身の経済状況を改善するために、「不要不急」の支出を減らすことを最優先事項としています。一方タイでは、消費者はメーカーブランドではなくプライベートブランドの製品を選択するようになっています。アジア太平洋地域では、常に最安値を求めようとする動きにより、消費者のロイヤルティは低下しています。
変化する消費者の購買行動:家計の負担により人々の購買習慣はどのように変化したのか?
生活費の逼迫は、多くのイギリス人の購買習慣に深刻な影響を及ぼしました。消費者はこれまで以上に慎重になり、できる限りお金を有効に使うために時間をかけ、計画的に買い物に行くようになっています。
- イギリスの消費者の73%は、最低価格を見つけるために時間と労力を費やしています。
- イギリス人の半数近くは買い物をする際に買い物リストを持っていき、これを厳密に守っています。
- 買い物客の35%はセールや割引商品を探しています。
アメリカでは2023年5月以降、家計の見通しが徐々に明るくなっており、消費者の半数は「この1年を通じて経済的な余裕を感じることができそう」だと回答しています。これにより、2023年末には旅行、自宅の改装・装飾、高級品などのカテゴリーで支出が大幅に増加しています。この時期はクリスマス休暇とも被り、売上を伸ばすためのセールや割引も増えてショッピングシーズンが本格化することから、消費の増加が予想されます。しかしこのシーズンが過ぎると、アメリカの消費者は食料品を安価な製品に買い替えたり、洋服や外食への支出を切り詰めるなどして、再びお金の使い方に慎重になっています。
また、2024年下半期にはアメリカ大統領選挙も控えていることから、消費者の安心感が再び一時的に高まると予想されます。ただ、安心感が高まるとはいっても、新型コロナ以前の水準を大幅に下回っていることは留意すべきでしょう。つまり、安心感と同じペースで消費レベルが回復することは期待できません。多くの消費者は慎重に出費の幅を拡大させているため、消費の回復にはやや遅れが生じるでしょう。
アメリカの消費者が節約のために取り入れている消費の変化:
特に、建築資材、園芸用品、家具・インテリア用品(カーテン、カーペットなど)のカテゴリーでは消費が減少しています。後者2つは、自宅での時間が増えたコロナ渦に急成長したものの、その後は勢いが落ちており、家具・インテリア用品カテゴリーに関しては2024年も同様に推移すると予想されています。これに対し、健康・パーソナルケアカテゴリーは、新型コロナ以降アメリカの消費者が健康やウェルネスをより重視するようになったことで大幅に拡大しています。同様に、外出や人との交流が再び楽しめるようになったことで、外食サービスも大きな成長を見せています。
ドイツの消費者は、経済や家計の見通しについて引き続き慎重な姿勢をとりながら、自分にとって大切な出費を大幅に切り詰めることも検討しています。最近の経済危機や物価上昇により、ドイツでは家庭での節電・省エネ対策からプライベートブランド製品・低価格帯製品への買い替えまで、消費者の消費習慣に変化がみられます。企業は自社ブランド製品のイノベーションに引き続き取り組むことで、プライベートブランドの勢いを活用できるでしょう。ドイツの食品・飲料ブランドはすでにこの動きに応えており、2022年にはプライベートブランドが新製品で大きくシェアを伸ばしています。
消費者は、節約や環境に配慮する一環として古着に注目するようになっています。ファッションは引き続き、ドイツの消費者が最もお金を使うカテゴリーの一つですが、多くの消費者は必要に応じて出費を切り詰めることも視野に入れています。ドイツ人の5人に2人は「お金への不安から、新品を購入する以外の選択肢を検討するようになった」と回答しています。その結果、古着がより手頃な価格でサステナブルな買い物方法として注目を集めています。これは企業にとってリセールプログラムを活用する新たなチャンスとなっており、ドイツのファッション小売市場では、すでに過去1年間でさまざまな取り組みが展開されています。ドイツのおよそ4人に3人は「中古品の購入は環境負荷を軽減するための良い方法」だと回答しており、2人に1人は「将来的に中古品の購入を増やしていきたい」と考えていることからも、リセールを活用しサステナビリティの価値を打ち出せるファッションブランドは、競合よりも優位に立つことができるでしょう。
例えば、Zaraが開設した独自のリセールプラットフォームでは、消費者がZaraの古着を購入・販売できるほか、お直しや衣類を寄付するサービスも提供されています。出典:zara.com/de/
インドでは、予算重視派の消費者もプライベートブランドには財布の紐を緩める可能性があります。インドの消費者の10人に4人は製品を購入する際に低価格であることを重視しており、34%はプレミアムなプライベートブランド製品を求めています。小売業者は、プライベートブランド製品に「お徳用」パッケージを展開することで予算に悩む消費者の不安を軽減し、品質をアピールし、「価値」を高めることができるでしょう。
また、家計が厳しいインド消費者の56%は、デリバリーではなく自宅で料理する頻度が高く、半数近くは安価な食材に切り替えています。小売業者は、料理を単なるコスト削減の手段ではなく、楽しみながらできるようにすることで、消費者の行動変化をサポートできるでしょう。例えば、CooX Asiaなどの食品ブランドは、自宅で料理をする人や食通の人が集う活気あるコミュニティの形成をサポートすることで、消費者と有意義なつながりを築くことを目指しています。
不測の事態に備える
過去数年の水準と比べると貯蓄活動は大幅に低下し、生活費の負担も増えてはいるものの、イギリスでは世帯の貯蓄預金が2022年に4%増加しています。実際、定期的な貯蓄は消費者が優先する支出のトップ3に挙がっており、イギリス人の半数以上が「不測の事態備えて貯金している」と回答しています。貯蓄額や年金拠出額を減らした消費者はわずか14%でした。イギリスの家計の見通しが依然として暗い中、イギリス人は生活費の逼迫によって生じた経済的なダメージの回復を試みており、貯蓄は引き続き最優先事項となっています。
イギリスと同様、アメリカの消費者もクリスマス休暇が終わると同時に「不要不急」の支出を控え、貯蓄を優先するようになっています。これは、夏に再びお金を使えるように備えておくためでもあります。2023年末には、アメリカの消費者の5人に2人が貯蓄額を増やしていました。高金利の環境は借り手にとっては負担ですが、プラスの面に目を向けると、金利の高い預金口座全体で年間利回り(APY)が上昇しており、一部の金融機関ではAPYが5%以上に設定されていることもあり、貯蓄の意思を行動に移したい消費者にとっては大きなリターンを実現しています。
ドイツの家庭の多くは、他の出費に加え、光熱費などの高額な公共料金・共益費の支払いを懸念し、引き続き支出に慎重になっています。その結果、コストの上昇にもかかわらずドイツの消費者は貯蓄を続けており、2023年上半期も貯蓄率は高い水準を維持しています。しかし、家計が厳しい消費者は自由に使えるお金も少なく、定期的な貯蓄を優先する傾向が低くなっています。低所得世帯は、生活費の逼迫やその影響により最も大きな打撃を受けているため、経済的に余裕のある世帯と比べ、家計の回復には時間がかかると予想されています。こうした消費者が経済的な回復力を高め、それぞれの貯蓄目標を達成できるよう、企業にはサポート体制を強化することが望まれています。例えば、SaveStrikeなどの「save now, buy later(貯めてから支払う)」システムのプロバイダと提携するのも一つです。消費者は支払い能力に責任を持つ企業を高く評価し信頼するため、こうした取り組みは企業の評判を高めるでしょう。
すべての人にあてはまる万能なアプローチはない
予算の見直しに対する消費者の対応には明らかな性差がみられ、女性の方がより徹底的に消費習慣を変える傾向があります。イギリスの女性の半数以上は、より厳選した買い物リストを厳密に守っています。また、女性は普段からランチを外で済ませるのではなく持参したり、割引商品を購入したり、低価格の食材に買い替える傾向がはるかに高くなっています。これは、多くの家庭で昔から女性が買い物を担当することが多かったジェンダー不平等の名残りを示唆しています。また、男女の賃金格差も女性の物価高への反応に影響を与える問題となっています。女性は平均して男性よりも収入が低いため、高インフレの影響を受けやすくなっています。その結果、女性はより不安を感じやすく、こうした不安がますます大きな行動変化を引き起こしています。
また、ミンテルのエキスパートは性差以外に、年齢による行動の差についても分析しています。ミレニアル世代・Z世代の中でも年齢が上の層は、ランチを外で済ませずに自炊する傾向がはるかに高くなっています。しかし、ミレニアル世代・Z世代の若年層はこれに後れを取っています。こうした最若年層が食事に関して少し上の年齢層と同じような節約術を実践していない主な理由としては、賢い買い物・自炊のスキル不足や、節約できるお金について認識が足りていないことが挙げられるでしょう。これは特にスーパーマーケットなどの企業にとって、若い層に向けた手頃な食事計画を提案し、自炊による節約効果を伝える好機となっています。
アメリカの消費者の購買習慣がどの程度変化しているかは、各家庭の経済状況によって異なります。高所得層は、すでに安定した状況にあることから家計の見通しも当然前向きです。逆に、低所得層では、家計の先行きに関して悲観的な見方が多く見られています。こうした家庭では、給料日から次の給料日までをしのぐ生活、多額の債務、クレジットカードへの高い依存度など、多くの課題が山積しています。こうした要因はいずれも低所得層の経済的余裕をますます低下させるため、予期せぬ事態が発生した場合に当てにできる「いざというときの蓄え」が事実上ほぼありません。また、過去2年間の高金利環境により主にクレジットカードの金利が増加したため、低所得層の経済的困窮はますます悪化しています。低所得層はクレジットカードでリボ払いを利用する傾向が高いことから、毎月の支払い額にかかる利息は膨らむばかりで、家計の負担はいっそう増していきます。金融機関、特にサブプライム(信用度の低い借り手)向けにサービスを提供する企業は、こうした困窮する消費者に連絡を取り、債務救済措置や資金管理上のアドバイスなどを提供することで、消費者の家計の回復に向けて取り組むべきでしょう。
Best Eggは、経済的に苦しい状況にある消費者向けに、債務削減計画を立てる上で役立つ情報記事を公開し、消費者が経済的なコントロールを取り戻すことを支援するツールを提供しています。出典:bestegg.com
ミンテルによる消費者行動の変化に関する今後の見通し
消費者の家計の見通しは全体的により明るくなると予想されていますが、ここ数年の先行き不安や経済危機から、世界中の消費者は自信を失い不安感を抱いています。したがって、こうした楽観的な見通しは消費者の購買習慣に反映されない可能性があります。
しかしながら、企業が製品のメッセージ性に重点的に取り組むことで、消費活動を促進できるチャンスは十分にあります。サステナビリティ訴求や、商品の耐用年数などの「付加価値」は、消費者が貴重なお金を費やしてもよいと思える魅力となっています。貴社のブランド・製品を際立たせるために何をすればよいかをお探しの方は、ミンテルによる消費者の消費習慣ガイド第2弾にぜひご期待ください。
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