世界で減少が続くアルコール消費量 打開策はアルコールのパーソナライズ化? 20代男女の4人に1人がアルコールをコミュニケーションツールと捉える新時代

2025年1月17日

~アメリカで流行する飲酒シーンとのペアリングが日本のビジネスチャンスに~

市場調査会社「Mintel Group」の日本法人である株式会社ミンテルジャパン(東京都千代田区)は、2024年11月に発刊したミンテルジャパンレポート「アルコール飲料トレンド –日本– 2024年」の中で、日本を含む先進国におけるアルコール消費量の減少と、注目すべき消費スタイルの変化について明らかにしました。

 近年、世界的にアルコール飲料市場は縮小傾向にあり、健康志向の高まりや若者のアルコール離れなどが指摘されています。本リリースでは、好きな人と好きなお酒を好きな量、好きな場所で飲む令和版アルコール文化を紐解き、アルコールのパーソナライズ化における動きとこれからのビジネスチャンスについて解説します。

※ミンテルは、ロンドン本社を含め13か国にオフィスを構え、美容やライフスタイル、食品・飲料分野における消費者調査に強みを持つ市場調査会社。2021年より日本市場向けにミンテルジャパンレポートを発刊。

ミンテルジャパンレポートについて詳しくはこちら:https://www.mintel.com/jp/mintel-reports-japan/

 世界的にアルコール消費量が減少傾向にある中、ノンアルコール飲料へのシフトや、オフプレミス消費へのシフトといった変化が見られます。実際、2020年のパンデミック以降、オフプレミス消費の割合が増加し、イギリス、イタリア、中国では約10%またはそれ以上の増加が見られました。

 これは、パンデミックによる外出制限や、自宅で過ごす時間の増加などが影響していると考えられます。一方で、食事とのペアリングや、リテールテックを活用したパーソナライズ化など、新たなビジネスチャンスが広がっています。アメリカ人の33%がアルコールを飲む理由として「食事と合わせるため」と回答しており、日本では、サントリー㈱の「ビアボール」のように、オンプレミスからオフプレミスへのシフトを意識したプロモーションが増えています。また、若者の間では、アルコールは人間関係を円滑にするためのコミュニケーションツールとして捉えられており、20代の男女ともに、アルコールを人間関係を円滑にするための「潤滑油」的に利用する人が多く見られます。

 このように、消費者のニーズやライフスタイルの変化に合わせて、アルコール飲料市場も変化していくと考えられます。今後は、タイムパフォーマンスを重視する若い世代に向けて、SNSやスーパーマーケットを活用したペアリング提案や、小売企業が保有する消費者データなどを活用した、パーソナライズされたペアリング提案などが期待されます。さらに、VRなどのテクノロジーを活用した、より没入感のある飲酒体験の提供も考えられます。

世界でアルコール消費量が減少
最大10%増加したオフプレミスへのシフトで、ぐだぐだ飲み会(無駄な一杯)が減少?

世界の主要国におけるアルコールの消費量は、パンデミックが宣言された2020年に大きく減少しました。その後、消費量は徐々に回復しているものの、パンデミック前の水準には戻っていない国が多く見られます。今回の調査対象国でもばらつきはありますが、日本を含め、すべてがパンデミック前の水準を下回っています。

 インフレの影響もあり、金額ベースではパンデミック以前と比較して市場規模が拡大している国もありますが、健康意識の高まりもあり、基本的に先進国のアルコール消費量は減少傾向にあります。

アルコール飲料の消費量が減少する中で、注目すべき二つのシフトがあります。

 一つ目はノンアルコール飲料へのシフトです。先進国の中では、人口増加が見込まれているアメリカでもアルコール飲料の消費量はやや減少傾向にある一方で、ノンアルコール飲料(ソフトドリンク)の市場規模は拡大を続けており、今後も成長が予想されています。中国ではノンアルコール飲料市場全体が、2023年から2028年にかけてCAGR(年平均成長率)5.6%で成長すると予測されており、イギリスにおいても、その成長は緩やかになるものの、2024年には3.5%、2025年から2028年には6.6%の成長が見込まれています。

*インフレ調整後;2023は見込み、2024-28は予測

もう一つのシフトは、オフプレミス(アルコール飲料を小売店等で購入し、自宅など別の場所で消費すること)へのシフトです。パンデミックはアルコール飲料の消費スタイルにも大きな変化をもたらしました。例えば、ビールの消費量はパンデミック前の2019年にはオンプレミス(アルコール飲料を飲食店やバーでの消費すること)がオフプレミスを上回っていました。しかし、2020年のパンデミック以降、オフプレミスの割合が増加。2023年にはオンプレミスの消費がやや回復したものの、パンデミック前の水準にはまだ遠いという調査結果が出ています。

*オフプレミス:アルコール飲料を小売店等で購入し、自宅など別の場所で消費すること。
 これに対し、オンプレミスはアルコール飲料を飲食店やバーでの消費すること。
出典: Mintel Market Sizes

オフプレミス消費へのシフトと定着には国によって違いがあります。ビール消費におけるオフプレミスの割合を2019年(パンデミック前)と2023年で比較すると、日本は変化がありませんが、海外ではオフプレミス化が進行していて、イギリス、イタリア、中国では約10%またはそれ以上の増加が見られました。もともとオフプレミス消費が多かったアメリカでは、その割合が8割にまで上昇し、市場におけるオフプレミス消費の影響力が一層強まっています。

日本では、ビール消費における変化はないものの、オンプレミスで人気が出た飲み物がオフプレミス市場にも広がる現象が多く見られます。サントリー㈱「角ハイボール缶」がその典型的な例ですが、最近ではジャスミン焼酎をジャスミン茶で割った「JJ」が、大阪や沖縄などの飲食店で人気となり、2024年4月にはRTD(「READY TO DRINK」の略称/ふたを開けてすぐにそのまま飲める飲料)が発売されました。

令和のアルコール消費は「パーソナライズ化」へ
市場縮小の打開策、多様化するニーズに応えるビジネスモデルとは?

オフプレミスシフトによってRTDが注目される一方で、フランス人の68%は市販のRTDが甘すぎると感じています。RTDの消費者は比較的若い女性が多いことを考えると、甘めのフレーバーのニーズが高いように思われますが、消費者の嗜好は多様化しています。

 また、RTDは、味の好みだけでなく、健康上の理由でも懸念されています。アメリカのミレニアル世代(1977-1994年生まれ、30-47歳)の29%は糖分が多いため、RTDの飲用を避ける傾向にあるといいます。

 パンデミック時に流行した自宅でのカクテル作りは、これらの問題に対応する方法のひとつです。アメリカのミレニアル世代の60%はSNS上のカクテルのトレンドを追うことが楽しいと回答しています。 ディアジオ傘下のテキーラブランドであるDon Julioは公式ウェブサイトで多くのレシピを公開しており、その中にはビターなものやスパイシーなフレーバーも多く見られます。

Don Julioの提案するカクテル

また、食事に合わせたアルコール飲料の需要が高まっています。アメリカ人の33%がアルコールを飲む理由として「食事と合わせるため」と回答しており、55歳以上では41%に上ります(22-34歳では29%)。日本の調査でもほぼ半数の消費者が「食事と合わせておいしく食べるため」と回答しています。こうした傾向を受け、商品名に「食べ物/food」を含むアルコール飲料の販売数が増えるなど、世界的にも食事との相性を意識した商品の発売が徐々に増加しています。

そして、ペアリングは食事だけに限らず、シーンとの組み合わせとしても捉えられるかもしれません。米国の調査では、64%の消費者が「料理をしながらワインを飲む」「創作活動をしながらホワイトスピリッツ(テキーラやジンなどの蒸留酒)を飲む」と回答しています。料理を引き立てるのではなく、そのシーンにおける体験を際立たせるアルコール飲料について、注目が集まっています。

調査対象: 米国:22歳以上のインターネットユーザー2,000人
出典: Kantar Profiles/Mintel、2024年5月

日本では、オフプレミスシフトへのアプローチを意識したプロモーションが増えています。例えば、サントリー㈱の「ビアボール」では炭酸水だけではなく様々な割り方を提案しています。

出典: X/ビアボール

出典: X/ビアボール

ローソンとサントリー㈱は「からあげクン」と飲料のコラボプロモーションを実施しました。ローソンでサントリーの「こだわり酒場のレモンサワー」「こだわり酒場のタコハイ」「C.C.レモン」などを購入すると、からあげクンのクーポンがもらえる仕組みです。また、サッポロビールも「食中酒」をコンセプトに、食事を引き立てる甘くない味わいのRTDを発売しており、日本でもRTDなどのカジュアルなアルコール飲料と食事の相性が注目されています。

サッポロビール/クラフトスパイスソーダ(ABV6.0%)画像提供:サッポロビール(株)

20代男女の4人に1人がアルコールを「人間関係の潤滑油」的に利用
若者の飲酒意識変化が市場に与える影響

20代は男女ともに、アルコールを人間関係を円滑にするための「潤滑油」的に利用する人が多く見られます。男性は年齢を重ねると、その傾向は徐々に弱まり、アルコールを飲む理由が他へと移行していきます。しかし、女性は年齢を重ねても、アルコールをコミュニケーションの重要なツールとして利用し続ける傾向が強くあります。

調査対象: 過去12か月以内に飲酒した21歳以上のインターネットユーザー1,414人

アルコール飲料の限定フレーバーや、魅力的なパッケージデザインは女性にとって重要な要素となります。これらは気分を高揚させ、コミュニケーションツールとしても役立つ可能性が高くあります。特に若い女性にとって、これらの要素はアルコール飲料を飲む際の体験をより特別なものにし、SNSでの共有や話題性にもつながりやすいと考えられます。

調査対象: 過去12か月以内に月に1回以上飲酒した21歳以上のインターネットユーザー1,203人

出典: 楽天インサイト/Mintel、2024年7月(

また、若い世代のペアリング提案へのニーズの高さにも注目できます。若い女性ほど、料理とのペアリング提案がアルコール飲料の価値を高めると回答し、男女ともに一般的に知られたペアリングを好んでいます。つまり、若い世代(特に女性)はペアリングに付加価値を感じているものの、まだ定番の組み合わせに限られた知識しかないことがうかがえます。

調査対象: 過去12か月以内に月に1回以上飲酒した21歳以上のインターネットユーザー1,203人

出典: 楽天インサイト/Mintel、2024年7月

ビジネスチャンス

アルコール飲料と食事のペアリングには大きなビジネスチャンスがあります。「食事をおいしくすること」が、今回の調査でも昨年の調査でも、アルコールを飲む理由としてトップクラスに挙げられ、若い世代もペアリングに関心を持っていることが分かっています。現代は多くの商品や情報が溢れる中、特に若い世代ほど「タイムパフォーマンス(タイパ、時間対効果)」を重視する傾向があり、ペアリングにおいてもタイパのよい提案を求めているはずです。

リテールテックを活用したペアリング提案

リテールテック(小売業にIT技術を導入し、技術革新や課題解決を図る取り組み)を活用したパーソナライズされたペアリング提案も考えられます。
 例えば、ディスカウントストアのトライアルが導入しているSkip Cart、ライフや平和堂が導入しているピピットセルフのような、客が売場を回りながら自ら商品をスキャンするシステムが一般化しつつあります。これに顧客IDを連携させることで、カートに入れたお酒に合うおつまみを「個別」にリアルタイムに提案することが理論的に可能となります。

トライアルに導入されているレジカート  
出典: X/ TRIAL(トライアル)公式

テクノロジーの活用

アルコール飲料や食事そのものだけでなく、それらを楽しむ環境をアップグレードすることで、満足感をさらに高めることが可能です。その際、テクノロジーの活用が重要なカギとなるでしょう。
 例えば、40代男性はストレス解消やリフレッシュを目的とした飲酒が多い層です。男性の飲酒シーンは自宅での一人飲みが多く、VRを活用した没入感のある飲酒体験を提供すれば、飲酒の満足感をより高めることができるかもしれません。

ミンテルジャパンレポートについて詳しくはこちら:https://www.mintel.com/jp/mintel-reports-japan/

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