世界的に、スポーツ栄養業界は過去10年間で素晴らしい成功を収めてきました。
しかし、同業界が今後も継続的に成長していくためには、克服しなければならない課題がいくつかあります。2023年、イギリスのスポーツ栄養業界は約25%成長しましたが、この成長は主にインフレによる値上げに後押しされたものでした。
スポーツ栄養ブランドにとっての最大の競争相手は、スポーツ栄養業界の外に存在しています。
イギリスの消費者では、半数以上が「機能性食品・飲料は、スポーツ栄養製品と同じ効果を提供できる」と考えています。最近では、一般的にスポーツ栄養製品にみられる「高たんぱく」などの訴求が食品・飲料製品でも増えつつあることで、この認識はさらに強まっています。ミンテルの世界新商品データベース(GNPD)によると、2021年から2023年にかけて「高たんぱく」訴求を掲げる食品・飲料は6.2%増加しています。栄養に関する訴求を採用した食品・飲料がますます手に入れやすくなる中、こうした製品は価格意識の高い消費者にとって、スポーツ栄養製品に代わる手頃で便利な選択肢となっています。ミンテルの消費者調査によると、ドイツの消費者の4分の1以上が、金銭的に厳しい時にはスポーツ栄養製品を買い控えていることが分かっています。
こうした状況、さらには本記事で後述するさまざまな課題にもかかわらず、スポーツ栄養業界には成長が期待できるビジネスチャンスが数多く存在しています。
スポーツ栄養業界で確実に成長する
ジェネレーションギャップを埋める
スポーツ栄養業界はある程度、熱量の高い消費者層を頼りにすることができます。スポーツ栄養製品の消費者は大半が非常に熱心なユーザーで、イギリスの消費者では大多数が、こうした製品を少なくとも週に1回は使用しています。しかし、スポーツ栄養製品の利用者は若い世代に大きく偏っています。イギリスでは、16-34歳の消費者の4分の3がスポーツ栄養製品を使用しているのに対し、65歳以上の人々ではこの割合が10分の1未満となっています。ドイツでも同様の傾向がみられ、メインの利用者は16-34歳の年齢層が中心で、65歳以上でスポーツ栄養製品を使用している人はわずか6%です。スポーツ栄養業界は、こうしたジェネレーションギャップを埋める必要があるでしょう。
しかし、この世代間の差は関心の有無によるものではありません。実際、高齢者の間ではスポーツ栄養製品、特にヘルシーエイジングをサポートするスポーツ栄養製品への関心が非常に高く、運動をする55歳以上のイギリスの消費者では、ほぼ半数がこうした製品を魅力的に感じています。多くの高齢者にとって障壁となっているのは、理解の不足です。先ほども述べた通り、ブランドはスポーツ栄養製品のメリットを明確に説明する必要があります。これは、特に高齢者にとっては重要で、運動をする55歳以上のイギリスの消費者のうち「スポーツ栄養製品のメリットがブランドから明確に説明されている」と感じているのはわずか約10人に1人です。
また、スポーツ栄養ブランドはこの真逆に当たる年齢層にも目を向けることで、成長の機会を掴むことができます。若者のスポーツ栄養市場は特に中国で大きく展開しており、10代の若者の身体活動を推進しようという政府の取り組みにも後押しされています。中国の親は、スポーツに特化して開発された食品・飲料にますます関心を寄せるようになっており、この分野はアジア市場のイノベーションの商機となっています。同様にアメリカでは、親が子どものスポーツ活動への投資を増やしており、ブランドにとっては、若いアスリートのニーズに合わせたスポーツ栄養製品を提案する機会が生まれています。
理解不足を解消する
スポーツ栄養製品のメリットはまだ消費者に正しく理解されていない部分があり、これが使用の妨げになっている可能性があります。実際、イギリスの消費者の約半数は「スポーツ栄養製品についてもっと知識があれば、より頻繁に使用したいと思う」と回答しています。このカテゴリーで適切な商品選択ができないという自信のなさから、多くの消費者がスポーツ栄養製品の購入をためらっています。現在スポーツ栄養製品を使用している人々ですら、約4分の3が「自分に合った製品を選ぶためのサポートがもっと欲しい」と考えています。
スポーツ栄養ブランドにとって、製品の価値を伝え、機能性食品・飲料カテゴリーとの競争で優位に立つためには、メッセージを簡素化させることが不可欠です。スポーツ栄養製品のメリットについて消費者により分かりやすい情報を伝えていくことで、高い価格設定の正当性を示し、同カテゴリーの「お得感のなさ」といったイメージに対抗することができるでしょう。高たんぱくなスポーツ栄養製品を「コスパの悪いたんぱく源」だと考える人のうち、49%は「スポーツ栄養についてより知識があれば、そうした製品を使用してみたい/もっと使用したいと思う」と回答しています。
消費者にとってパッケージは重要な情報源の一つですが、ブランドはさらに一歩踏み込んだ消費者教育に取り組むことができます。ドイツでは、ブランドがSNSにヘルスケア専門家を起用することで消費者教育を行い、自社製品の信頼性を高めています。ブランドは、オンラインスペースの活用に注目して消費者教育を進めるのがよいでしょう。イギリスでは、多くのスポーツ栄養ブランドがすでにこうした取り組みを行っていますが、そうしたコンテンツに関心を寄せる消費者はごく一部であることから、より多くの消費者を誘導するためにはさらなる工夫が必要です。
今後、人工知能(AI)は、ブランドがスポーツ栄養分野で消費者を支えていくための大きなポテンシャルを秘めており、イギリスの消費者の半数は「どのスポーツ栄養製品を使用すればよいかについて、AIツールのアドバイスを信頼する」と回答しています。
ナチュラルなスポーツ栄養製品の欠如
クリーンラベルは、スポーツ栄養カテゴリーにおける主なトレンドの一つです。世界的にみても、消費者は加工成分よりも天然成分を好む傾向にあります。クリーンラベルムーブメントはスポーツ栄養業界にも影響を及ぼしており、消費者は購入する製品に対してシンプルな成分リストを期待していることから、「クリーンラベル」のイメージに合ったナチュラルなスポーツ栄養製品への関心が高まっています。しかし、既存製品の多くは風味、保存期間、機能性などを高めるために、さまざまな添加物・保存料を含んだ長い成分リストになっています。製品をクリーンラベルの基準に合わせてリニューアルするというのも高いコストがかかります。天然成分やクリーンな加工方法は生産コストを増加させるため、それが結果的に製品の値上げとして消費者に転嫁される可能性があります。
スポーツ栄養業界が「クリーンラベル」のイメージを向上させるための手っ取り早い解決策というのは存在しません。成分リストは嘘をつくことができないのです。
添加物・保存料を減らすことは、その重要な第一歩となります。ミンテルのGNPDデータによると、2023年に発売された新製品のうち、添加物、着色料、香料または保存料不使用を訴求するものはわずか15%でした。クリーンラベルトレンドをうまく活用できる企業・ブランドは、健康志向の消費者の期待に応える、馴染みのあるナチュラルな成分の使用に重点を置くのがよいでしょう。また各企業やブランドは、クリーンラベルのメリットをパッケージやマーケティング活動を通じて明確に伝えていくことが重要です。ミンテルの過去のデータから、ブラジルの消費者の3分の1以上が「クリーンラベル製品にはより高い金額を支払っても構わない」と考えていることから、こうした取り組みを実践していくことで、消費者はよりヘルシーだと思う製品に対して、プレミアム価格を支払うことに積極的になっていくかもしれません。
ミンテルとともに未来を見据える
スポーツ栄養業界は今、分岐点に立たされています。新たな消費シーン、ナチュラルな製品、製品のメリットをより良く伝える消費者教育などを活用することで、さらなる成長が期待できます。各企業やブランドは自社製品のユニークな価値を明確に伝え、シニア向けのスポーツ栄養や若者のスポーツ人口、クリーンエネルギーといった未開拓市場を探ることで、差別化を図ることが望ましいでしょう。
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