気候変動や感染症、サプライチェーンの混乱による信頼性の低下などによって、食品・飲料業界は、これまで家庭の必需品とされていた品目ですら、今までにない原料調達の脆弱性に直面しています。2025年だけでも、アメリカ農務省(USDA)の食品価格見通しでは、卵の価格が20.3%も上昇すると予測されています。
2023年には、鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスの早期発生により、卵が大幅に不足しました。2025年の状況はさらに逼迫しており、前回の発生時よりも家畜の数が少ないため、供給はさらに逼迫しています。
近年、コントロールできない要因により不安定な状況に陥っているのは、卵のカテゴリーだけではありません。過去20年間で、フロリダやブラジルなどの主要な柑橘類の産地では、オレンジの収穫量が75%以上減少しました。これは主に柑橘類の緑化病の深刻な影響によるものですが、干ばつ、洪水、ハリケーンなどの異常気象も果汁産業に影響を与えています。
同様に、ココア業界もかつてない課題に直面しています。西アフリカは世界のココア生産量の80%を占める地域であり、そのうち55%がガーナとコートジボワールで生産されています。年々ひどくなり、農作物の病気を助長し続けている天候不順により、2024年の世界のココア生産量は11%減少しました。気候変動によってこの地域のエルニーニョ現象の影響は強まると予想されているため、先行きは懸念されています。
卵、ココア、オレンジなどの品目は、手頃な価格、用途の多様性、栄養価の高さから長らく評価されてきました。サプライチェーンの混乱にもかかわらず、これらの品目に対する消費者のロイヤリティは依然として高いままです。2024年2月時点で、アメリカの卵消費者のうち、卵の消費量を減らすと予想していたのはわずか4%にとどまり、この市場の非弾力性が浮き彫りになりました。さらに、アメリカのビーガンでない消費者の87%が、2024年2月までの6か月間に卵を食べたと報告しています。つまり、卵はアメリカ人の食生活に欠かせない主食なのです。
本記事では、食品・飲料メーカーが2025年以降も原料不足を乗り越えていく上で考慮すべき3つの主要戦略を示していきます。
原料の多様性を改善するための主要戦略
価値を示して消費者のロイヤルティを獲得する
アメリカの消費者の半数以上が、卵を調理が簡単でヘルシーなものと考えています(クライアントのみアクセス可能)。卵の代替品は、健康、利便性、そして特に現在の状況では価格が手ごろであるというこれらの属性を満たすことで、その価値を示す必要があります。
これまで、植物由来の卵代替品は、従来の卵よりも高価でした。しかし、こうした代替品が価格面で同等となる転換点が間もなく訪れるかもしれません。現在、アメリカでは高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生により、店頭で卵を入手するのが難しくなっているため、消費者は価格が高くても植物由来の卵代替品を購入する可能性があります。これは、卵代替品にとってその価値を証明し、味と機能性を実現するための重要な時期です。卵不足が解消された後も消費者を維持できるかどうかがかかっているのです。
手頃な価格で調理しやすいタンパク源であることに加え、卵には多くの技術的な利点があり、パンや焼き菓子、その他のデザートなど、さまざまな用途で頻繁に使用されています。たとえば、ベーキングミックスでは、消費者が調理するために卵を追加する必要があることがよくあります。動きの早い菓子材料メーカーは、卵の追加が不要な完全なベーキングミックスを提供するといった方向転換が可能です。こういったソリューションには、卵不使用または乾燥させた卵成分を使用するという選択肢がありますが、いずれにせよ消費者にオールインワンである利便性を提供し、卵の価格が安定した後も継続的に価値を高めることができます。
教訓:消費者のロイヤルティを高めるためには、味と機能性を通じた価値提供に集中し続けることが重要です。
依然として最優先すべきはイノベーション
一歩先を行く一部のメーカーは、消費者が原料の多様化に適応し、新たな食材を取り入れることをサポートしています。例えば、King Arthur Bakingは、2025年2月のInstagram投稿で、卵を使わずにクッキーを作るヒントを紹介しています。彼らのレシピでは、アクアファバ(豆の煮汁)、ピューレ状にした豆腐、つぶしたバナナ、かぼちゃのピューレ、アップルソース、亜麻仁やチアシードといった食材が提案されています。
出典:Mintel Purchase Intelligence
King Arthur Bakingは、卵が不足する中、明確かつ誠実なコミュニケーションを通じて、消費者が原料のイノベーションに適応できるよう積極的に支援することで、ブランドと売上を効果的に守っています。
他のメーカーも、植物由来の代替品で卵の特性を再現しようとしています。例えば、豆腐はスクランブルエッグの代わりとして使われており、また、ブラックソルトは卵の硫黄のような香りを再現するために使用されることがあります。
教訓:供給の減少という危機に消費者と企業が適応し、乗り切るためには、クリエイティブな解決策が役立ちます。
全体像を意識する
食品・飲料業界に影響を及ぼす主要な課題が、独立した問題として完結することはほとんどありません。高病原性鳥インフルエンザが卵市場以外に及ぼしている影響もその一例です。
このウイルスは種を超えて急速に広がり、鶏、七面鳥、アヒル、野鳥、乳牛、猫、さらには人間にまで感染しています。H5N1の亜型も出現しており、公衆衛生上のリスクをもたらす可能性も見込まれますが、パンデミック(世界的大流行)を引き起こすかどうかについては依然として不明です。 高病原性鳥インフルエンザは乳牛群にはそれほど深刻な影響を及ぼしていませんが、それでも乳製品市場やその生産に影響を及ぼす可能性があります。 カリフォルニア州では、酪農場の4分の1以上がすでに影響を受けており、ニューサム州知事は非常事態宣言を発令しました。
猫は特にこのウイルスに感染しやすいため、ペットフードメーカーにとっても予断を許さない事態となっています。ペットの飼い主は、ペットフードの安全性についての保証を求めると考えられ、業界には今後さらなる圧力がかかるでしょう。
教訓:企業は、HPAIのような危機がもたらす関連リスクを認識し、消費者の信頼を維持するために取ることのできる戦略を優先する必要があります。
ミンテルとともに、多様化する原料の未来を創造する
予期せぬ出来事によってサプライチェーンが混乱し続ける中、企業も消費者も適応を余儀なくされています。革新的な代替品、クリエイティブなソリューション、安全対策の強化など、原料の未来を切り拓くためには、回復力と創意工夫が求められます。
こうしたステップを踏むことで、食品メーカーは原料の脆弱性に対して積極的に、かつ真正面から取り組み、顧客とのより強固な関係を築くことができます。
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