アルファ世代は、スキンケアとメイクアップ製品に強い関心を持っており、すでに美容業界に波紋を広げています。2010年から2025年に生まれた、このデジタル・ファースト世代は、美容業界のトレンドに影響を与え、多様な文化的影響、社会・環境意識の高まり、また生まれながらにしてテクノロジーとつながってきたことによって、これまでの消費者とは異なる期待を持っています。
アルファ世代の購買力は2029年までに5.5兆ドル(2025年2月時点の為替で約830兆6650億円)に達すると予測されており、美容ブランドにとって無視できない存在となっています。本記事では、各ブランドや企業がこの新しくパワフルな世代をどのように理解し、取り込んでいけるかを考察します。
アルファ世代と美容業界:責任と機会への呼びかけ
アルファ世代を取り込む戦略について議論する前に、現在の状況を理解し、美容・スキンケア業界に対する彼らの関心の高まりから生じる現在の概況と課題を理解することが重要です。ミンテルのAndrew McDougallとBase Beautyの創設者であるJodi Katzが、Mintel Little Conversations Podcastで最近共有した、示唆に富む議論では、子どもたちが、大人用に作られたスキンケア製品への関心を深め、時に肌の状態を悪化させる事態になっているという懸念すべきトレンドを取り上げました。
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(言語:英語)
「セフォラ・キッズ」とも呼ばれる若く好奇心旺盛な世代は、自分より上の世代向けに販売されている高級品を購入するなど、美容に没頭している傾向があります。彼らの熱意は、セルフケアや美容への純粋な関心を反映している一方、使用している製品についての理解不足を浮き彫りにしています。アンチエイジングや、特定の課題に対するケアを謳ったこれらの製品の多くは、彼らの年齢に合っておらず、若々しい肌の繊細なバランスを崩す可能性があります。
アルファ世代の美容製品への強い興味は、憧れと向上心によって煽られています。アルファ世代はビューティ・インフルエンサーや彼らのルーティンにインスピレーションを受け、そのやり方を真似したいと憧れています。しかし、このような大人向けのスキンケアへの傾倒は、健康よりも外見を優先する習慣につながりがちで、美容業界にとって取り組むべき課題です。
美容業界は、アルファ世代を教育・指導において重要な役割を担っており、「小じわ」や「しわ予防」といった外見中心のメッセージから、健康的な肌習慣の促進に重点をシフトさせる必要があります。個人の衛生意識、日焼け止めの使用、肌にやさしいクレンジングなどの基本的事項を強調することで、この多感な世代を圧倒することなく、生涯にわたる肌の健康の基礎を築くことに貢献できます。アルファ世代は学ぶことに意欲的で、向上心をかき立てる教育やエンターテインメントに反応します。企業やブランドは、若い世代が安全かつ効果的なスキンケアを実践できるよう、年齢にふさわしい魅力的なコンテンツを作成することが重要です。
美容業界を形作るアルファ世代のトレンド
アルファ世代とテクノロジーとの関係
デジタル・ネイティブであるアルファ世代は、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッドなショッピング体験に抵抗がありません。例えば、アメリカの12-14歳の半数以上が、オンラインで購入した商品を店頭で受け取ったことがあると回答しています。このような行動から、美容ブランドはモバイルファースト戦略を前面に打ち出し、プラットフォーム全体でシームレスな体験を提供することが必要でしょう。しかし、さらに最新のテクノロジーが、アルファ世代の美容ショッピング体験を形成しつつあります。
拡張現実(AR)や仮想現実(VR)といった新興のテクノロジーは、アルファ世代の美容に関するショッピングのあり方を大きく変えつつあります。これらのテクノロジーによって実現したバーチャルのメイクツールは、ユーザーが実際にメイクをすることなく、自分がどのように見えるかをバーチャルで確認することを可能にしました。ミンテルの調査によると、アメリカの12-14歳のほぼ3分の1が、購買過程においてすでに拡張現実(AR)を利用していることが明らかになっています。これは、インタラクティブでテクノロジー主導のソリューションに対する強い関心と受容性を示しています。
この分野をリードするブランドのひとつがロレアルで、同社のBeautyTech イニシアチブは、AI技術がいかにユーザーエクスペリエンスを向上させるかを示しています。ロレアルのバーチャル3Dメイクは、ユーザーが購入前に好きな場所で製品を探し、試し、選ぶことを可能にしました。この技術は、実店舗とオンラインショッピングのギャップを埋めるだけでなく、個人の好みに合わせて商品をおすすめするなど、パーソナライズされた体験を提供します。
自分を受け入れる
アルファ世代のメンタルヘルスに対する意識は高まっており、ミンテルの調査によれば、アメリカの12-14歳の子どもの10人に6人が、親からメンタルヘルスのケア方法を教わったと回答しています。このような意識の高い世代は、ボディ・ポジティビティや自己表現といった社会的な動向に目を向け、これまでの美の基準に異議を唱える傾向が高い世代と言えるでしょう。ストレスへの対応力を身に着ける一方、アルファ世代の前世代であるZ世代は、ソーシャルメディアの落とし穴を痛感しており、Z世代の4分の3は、ソーシャルメディアがメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があることを認めています。つまり、美容ブランドはプロモーションの枠を超え、アルファ世代との信頼やつながりを育み、自分たちのリアリティを伝えるツールとしてソーシャルメディアを活用することができるのです。
TikTokのようなプラットフォーム上で見られる「フィルター vs リアル」のような表現は、ユーザーがフィルターありとなしの画像を対比させることで非現実的な美の基準に異議を唱え、幅広い議論を巻き起こしています。これは同時に人々が真実味を求めていることを示しています。消費者に対して、自己受容を促す取り組みをしているCult Beautyの動きは、企業やブランドへのヒントとなるでしょう。Cult Beautyは2023年、マーケティングにおいて加工したモデルの画像の使用を禁止し、消費者に対して自己を受け入れるよう促しています。 多様性のある、フィルターなしのモデルを見せることで、不安と闘い、美の規範を再定義する新たな基準を提示しました。包括性とリアリティを重視することで、美容ブランドはアルファ世代との有意義なつながりを育み、継続的な支持を得ると同時に、業界全体をより精神面でのサポートを大切にする方向へ導くことができます。
ソーシャルメディアが購買行動に与える影響
ソーシャルメディアとインフルエンサーマーケティングは、アルファ世代の美容製品の購買行動を形成する上で極めて重要な役割を果たしています。YouTube、TikTok、Instagramなどの動画メディアは、エンターテイメントと教育を融合させることで、人々が情報を見つけ、インスピレーションを得る重要な源となっています。ミンテルのUS Beauty Retailing Reportによると、アメリカの消費者の10人に7人が、美容製品を買う際にソーシャルメディアからインスピレーションを得ており、この傾向は若年層でより顕著であることが明らかになっています。
ソーシャルメディアは、アルファ世代がブランドやクリエイター、他の消費者と関わることを可能にする、双方向のコミュニケーションチャネルとして機能しています。若いオーディエンスは、従来の広告よりもユーザー生成コンテンツやインフルエンサーのおすすめの方が、本物で共感できるものと感じることが多いようです。実体験は心に深く響くようで、ドイツの美容消費者の約半数は、コミュニティの一員であると感じられるブランドでの買い物を好んでいます。消費者の感情移入を促進しているブランドの一例として、消費者直販(direct-to-consumer/DTC)のブランドであるBeautypieが挙げられます。会員制モデルを採用している同社では、会員は大幅な割引を受けられるだけでなく、レビューの共有、プロによるメイクアップのヒントへのアクセス、ソーシャルメディア用のアイデアやコンテンツの提供など、積極的な参加を促されています。Beautypieのようなブランドは、信頼性、消費者との共創、テクノロジーの活用によって、感情的な結びつきを強め、将来の消費者との持続的なつながりを構築しています。
環境への配慮
アルファ世代の多くは高い環境意識を持っており、過去の世代が引き起こした環境破壊に対処する深い責任を感じています。彼らは、何もしないことの結果が自分たちの未来に影響を及ぼすことを痛感しています。この責任感が、アルファ世代を変化の提唱者にする原動力になっており、事実、カナダの13歳のうち10人に8人近くが、気候変動を防ぐための十分な措置が取られていないと感じています。
このような環境への関心の高まりは、美容業界におけるアルファ世代の嗜好や将来の購買決定に反映されるでしょう。彼らはすでに、自分たちの選択が地球に与える影響について意識的である兆しを見せており、将来的にはサステナビリティについての自らの価値観に沿った製品を求めるようになるでしょう。アルファ世代の親も、アルファ世代の価値観形成に影響を与えており、アルファ世代の子を持つイギリスの親の10人に7人が、環境にやさしい美容製品を購入すると回答しているのに対し、アルファ世代の親でない人ではその割合は半分にとどまっています。
アルファ世代もその親世代も、グリーンウォッシングには非常に敏感で、明確で透明性が高く、真のサステナビリティを実践しているブランドを好みます。天然成分やオーガニック成分、「クリーン」な処方の美容製品は、この世代にとって大きな魅力があり、アメリカの12-14歳の美容消費者の10人に6人は、「クリーン」や「ナチュラル」と表示された製品は安全に使用できると考えています。アルファ世代の環境に対する価値観に応えることで、美容ブランドは次世代の期待に応えるだけでなく、業界に有意義で前向きな変化をもたらすリーダーとなる可能性もあります。
多様性と包括性
アルファ世代は、多様性、公平性、包括性(diversity, equity, and inclusion/DEI)を重視する、最も社会意識の高い世代です。彼らは、多様なアイデンティティをありのまま表現している、自らの価値観に沿った美容ブランドを支持します。
アルファ世代にとって、包括性は単なる好みの問題ではなく、大前提として求める姿勢となります。この世代にアピールしようとする美容ブランドは、多様な背景を持つモデルやスポークスマンを起用し、あらゆる肌の色、髪質、体型に対応する製品を扱い、自社のDEIへの取り組みを透明性をもって共有するなど、意義のあるDEIを実践する必要があります。この世代の社会意識の高さに応えるためには、こうした真摯な姿勢が不可欠です。
アルファ世代の包括性へのコミットメントは従来の性別役割分担を打破するという信念も反映しています。アメリカの12-14歳の4分の3が、美容製品を使用するかどうかは性別によらないと考えています。この自由な姿勢は、美容製品を個性やパーソナリティを表現する方法として使用することに、より強い焦点を当てています。この分野で傑出したリーダー的存在であるUnlabelledは、若者に自分らしくあることを奨励する包括的なボディケアラインや、利益をメンタルヘルス関連の慈善団体に寄付するといった取り組みを通じて、消費者の自己表現をサポートしています。ボディ・イメージやLGBTQIA+の擁護といった活動と連携することで、Unlabelledはこの社会的意識の高い世代との信頼関係とつながりを深め、持続的な関係を築き、ロイヤリティを刺激しています。
アルファ世代に響くマーケティングとは?
消費者としての役割を担う中で成長を続けるアルファ世代は、テクノロジー主導のイノベーション、包括性、持続可能性を重視しているという点で、すでに美容業界を再構築し始めています。彼らの影響力と購買力が拡大するにつれ、企業やブランドは本物志向や社会的配慮を求めるといった彼らの期待と歩調を合わせ、この先進的な世代を形成する価値観との調和を図る必要があります。
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